釈迦の法華経説くはじめ、白毫(びゃくごう)光(ひかり)は月の如(ごと)、曼陀曼珠の華ふりて、大地も六種(むくさ)に動きけり(梁塵秘抄)、
の、
六種(むくさ)、
は、
我が果報をば天地の知れる也と。此く説給ふ時に、大地六種に震動し(今昔物語)、
とも使われ、
六種震動(ろくしゅしんどう)、
のことで、
如今此経、天雨四花、地有六種震動(「法華義疏(7C前)」)、
と、
大地が六とおりに震動すること、
で、
六種動、
六震、
ともいい、
地面の動揺や隆起をいう動・起・涌と、そのとき起こる音をいう覚(または撃)・震・吼との六種、
また、
地面が前後左右に上下することを六種に数える、
とあり、
仏が説法をする時の瑞相、
とする(精選版日本国語大辞典)。
曼陀曼珠の華ふりて、
とあるのは、妙法蓮華経序品第一に、仏陀が、
為諸菩薩説大乗経 名無量義 教菩薩法 仏所護念、
と、
諸の菩薩の為に大乗経の無量義・教菩薩法・仏所護念を説きおわった、
とき、
是時天雨曼陀羅華 摩訶曼陀羅華 曼殊沙華 摩訶曼殊沙華(是の時に天より曼陀羅華・摩訶曼陀羅華・曼殊沙華・摩訶曼殊沙華を雨らして)
而散仏上 及諸大衆(仏の上及び諸の大衆に散じ)
と(https://www.kosaiji.org/hokke/kaisetsu/hokekyo/1/01-2.htm)あり、
曼陀羅華(まんだらけ 色が美しく芳香を放ち、見るものの心を悦ばせるという天界の花)
摩訶曼陀羅華(まかまんだらけ 摩訶は大きいという意味。大きな曼荼羅華)
曼殊沙華(まんじゅしゃけ この花を見るものを悪業から離れさせる、柔らかく白い天界の花)
摩訶曼殊沙華(まかまんじゅしゃけ 摩訶は大きいという意味。大きな曼殊沙華)
の、
四華(しけ)、
をいう(仝上)とある。これを、
雨華瑞(うけずい)、
といい、
此土六瑞((しどのろくずい)、
のひとつとされ、『法華経』が説かれる際に、
花が雨ふってくる瑞相、
とされる(仝上)。因みに、法要中にする、
散華、
という花びらに似せた紙を散じるのは、この意味である(仝上)。
法華経は、これに続いて、
普仏世界 六種震動
と、
六種震動、
をいうが、これも、
地動瑞(ちどうずい)、
といい、これも、
六瑞、
のひとつである。ついでに、
此土六瑞(しどのろくずい)、
の、「此土」は、此の世、つまり、
娑婆世界、
の意、「他土」は、このとき、佛が、白毫相の光を放って、
照らされた(此の世以外の)東方一万八千の世界、
であり(http://gmate.org/V03/lib/comp_gosyo_210.cgi?a=cfbbbff0)、
それぞれ、
此土の六瑞、
他土の六瑞、
というらしい(https://piicats.net/shido.htm)。、此土六瑞の第一は、
為諸菩薩説大乗経 名無量義 教菩薩法 仏所護念(妙法蓮華経序品第一)、
の、
説法瑞(せっぽうずい)、
第二は、
仏説此経已 結跏趺坐 入於無量義処三昧 身心不動(仝上)、
の、
入定瑞(にゅうじょうずい 定は三昧(samadhi)のこと)、
第三は、上述の、
雨華瑞(うけずい)、
第四は、上述の、
地動瑞(ちどうずい)、
第五は、
爾時会中比丘 比丘尼 優婆塞 優婆夷 天 竜 夜叉 乾闥婆 阿修羅 迦楼羅 緊那羅 摩・羅伽 人非人 及諸小王 転輪聖王 是諸大衆 得未曾有 歓喜合掌 一心観仏(仝上)、
とある、
衆喜瑞(しゅうきずい その場にいたものたちが瑞相を喜んで一心に仏をみること)、
第六は、
爾時仏放眉間白毫相光 照東方万八千世界 靡不周遍 下至阿鼻地獄 上至阿迦尼・天(仝上)、
とある、白毫相光の、
放光瑞(ほうこうずい 釈尊の眉間から光が放たれ、東方一万八千の世界を普く照らし、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人、天の六道の世界を映しだした)、
をいう(https://www.kosaiji.org/hokke/kaisetsu/hokekyo/1/01-2.htm)。ちなみに、放光瑞で照らされ映し出された東方一万八千の世界の、
他土の六瑞、
は、
於此世界 尽見彼土 六趣衆生、
と、
見六趣瑞(六趣(その世界の六つのめでたい出来事の前兆)が釈尊の眉間から映し出されたを見る瑞)、
又見彼土 現在諸仏
と、
見諸仏瑞(諸仏を見る瑞)、
及聞諸仏 所説経法
と、
聞諸仏説法瑞(諸仏の説法を聞く瑞)、
并見彼諸比丘 比丘尼 優婆塞 優婆夷 諸修行得道者
と、
見四衆得道瑞(四衆(比丘・比丘尼・優婆塞・優婆夷)の修行し得道する者を見る瑞)、
復見諸菩薩摩訶薩 種種因縁 種種信解 種種相貌 行菩薩道
と、
見行瑞(種々の因縁・種々の信解・種々の相貌あって菩薩の道を行ずるを見る瑞)、
復見諸仏 般涅槃者 復見諸仏 般涅槃後 以仏舎利 起七宝塔
と、
見帰涅槃瑞(諸仏の般涅槃したもう者を見、復諸仏般涅槃の後、仏舎利を以て七宝塔を起つるを見る瑞)、
とされる(https://www.kosaiji.org/hokke/kaisetsu/hokekyo/1/01-2.htm)。
(マンダラゲ(曼陀羅華)の異名をもつチョウセンアサガオ(朝鮮朝顔) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%A2%E3%82%B5%E3%82%AC%E3%82%AAより)
さて、瑞兆(ずいちょう)として天から降るという、
四華、
である、
曼陀羅華、
摩訶曼陀羅華、
曼殊沙華、
摩訶曼殊沙華、
は、
4種の蓮(はす)の花、
とされ、
白蓮華、
大白蓮華、
紅蓮華、
大紅蓮華、
に当てられているが、そのひとつ、
曼陀羅華(まんだらけ・まんだらげ)、
は、梵語、
Māndārava
の音写、
天妙華、
適意華、
悦意華、
白華、
などと訳す、
天上に咲くという芳香を放つ白い花、
だが(精選版日本国語大辞典)、『阿弥陀経』に、
昼夜六時に、曼陀羅華を雨ふらす、
とあり、
意に適う花や心を悦ばせる花といわれ、また様々な色に変化する花ともいわれる、
とも(http://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E6%9B%BC%E9%99%80%E7%BE%85%E8%8F%AF)、色が美しく芳香を放ち、見る者の心を喜ばせることから、
悦意華(えついか)、
ともよばれ(日本大百科全書)、四華の一つ、
白蓮華、
にあたる(精選版日本国語大辞典)とある。もとは、
サンゴ樹Erthrina Indica、
をさし、インドラ天Indra(東方を守護する天王)の五種樹木の一つとされた。日本では、
チョウセンアサガオ、
の別名になっている(仝上)。
摩訶曼陀羅華(まかまんだらけ)、
は、梵語、
mahā-māndārava、
の音訳、摩訶は、
大きい、
という意味で、
大きな曼陀羅華、
の意、
摩訶曼陀羅の花、
ともいい、
天上に咲くという芳香のある、大きな白い花、
で、四華の一つ、
大白蓮華、
にあたる(精選版日本国語大辞典)とされる。
曼殊沙華(まんじゅしゃげ)、
は、梵語、
manjusaka
の音訳、神々が下界へ意のままに雨のように降らせることから、
如意花(にょいか)、
ともよばれ、その純白の花(梵語マンジュシャカは「赤い」意ともいわれ、赤いとも言われる)を見る者は黒い悪業(あくごう)を離れるという(日本大百科全書)。日本では、彼岸(ひがん)のころに墓地などに咲く赤い、
ヒガンバナ、
の別名となった(仝上・精選版日本国語大辞典)。四華の一つ、
紅蓮華、
にあたる(精選版日本国語大辞典)とされる。
摩訶曼殊沙華(まかまんじゅしゃけ)、
は、
mahā-mañjūṣaka
の音訳、「摩訶」は大きいという意味なので、
大きな曼殊沙華、
になる。
天上に咲くという、大きな赤い(一説に白い)花。見るものの心を和らげるという天華、
で、四華の一つ、
大紅蓮華、
にあたる(精選版日本国語大辞典)。
曼珠沙華(マンジュシャゲ)の別名をもつヒガンバナ(彼岸花)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%8Aより)
なお、
四華、
を、
しか、
と訓ませると、
早春に咲く四種類(梅、寒菊、水仙、蝋梅)の花、
の意や、
葬儀で使用される白い蓮花。または、その造花、
の意となる。この場合は、
しけ、
とも訓む。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95