2023年11月12日
巫鳥(しとど)
常に消えぬ雪の島、螢こそ消えせぬ火はともせ、巫鳥(しとど)といへど濡れぬ鳥かな、一聲なれど千鳥とか(梁塵秘抄)、
の、
巫鳥(しとど)、
は、
鵐、
とも当て、
しととどり、
ともいい、古くは、
しとと、
と清音、
ホオジロ類の鳥、
で、
ホオジロの異称、
ともあるが、
ホオジロ・ホオアカ・アオジ・クロジなどの総称の古名、
とある(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。
胡子鶺鴒(あめつつ) 千鳥ま斯登登(シトト)何(な)ど開(さ)ける利目(とめ)(古事記)、
巫鳥、此をば芝苔苔(しとと)といふ(日本書紀)、
等々と古くから知られている。
巫鳥の字は、古語拾遺に、片巫(かたかうなぎ)に、志止止鳥と注せるに起こるか、あるいはかうないしとどなども云へり、
とある(大言海)が、
巫鳥、
の由来は、
その鳴き声から(名語記・和句解・言元梯)、
イシタタキ(石叩)の上略下略形(続上代特殊仮名音義=森重敏)、
ともある(日本語源大辞典)。ただ、鳴き声(https://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1487.html)は、地鳴きは、
チチッ チチッ、
と二声をだし(仝上)、さえずりは、独特で、
ピッピチュ・ピーチュー・ピリチュリチュー、
などと聞こえ(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%82%AA%E3%82%B8%E3%83%AD)、この鳴き声から、
一筆啓上仕候(いっぴつけいじょうつかまつりそうろう)
源平つつじ白つつじ、
などと、
聞きなし(聞き做し 鳥や動物の鳴き声を人の言葉や文字に置き換える)、
とされる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%82%AA%E3%82%B8%E3%83%AD)ので、どうも、
しとと、
という名の語感とは違う気がする。
ホオジロ、
は、
頬白、黄道眉、画眉鳥、
とあて、
スズメ目ホオジロ科ホオジロ属、
に分類される、スズメとほぼ同じ大きさの鳥である(仝上)。
翅に、黒き縦の斑あり、脚、掌、黒く、眼に菊座の如き圏(わ)あり(大言海)、
目に菊座のような輪がある(岩波古語辞典)、
とあり、それが、
鵐目(しとどめ)、
の由来となっている。
鵐目(しとどめ)、
は、
刀の鞘の(提緒を通す)栗形、或いは、和琴、筝など、諸の器の、孔(通絃孔)ある處の縁に填むる金具の名、
で、
しとどの目の如し、
という(大言海)とあり、
日本刀の「頭」(柄(つか)を補強するために、その先端部に装着される金具)や「栗形」(くりがた 下緒(さげお)を通すために、日本刀の差表側の鞘口付近に付けられた穴のある突起物)にある、緒紐を通すための穴、
をいい(https://www.touken-world.jp/word/equipment/page/5/)その形状が「鵐」の目に似ていることから、この名称が付けられている(仝上)という。ただ、
金属、革、木などの製品にあけた穴のふちを飾る覆輪(ふくりん)、
を指す(精選版日本国語大辞典)との説もある。
菊座、
に似せているとすると、
甲冑・鞍・太刀・調度などを金・銀・錫 (すず) などで縁取りし、飾りや補強としたもの、
という、
覆輪(伏輪 ふくりん)、
が正確ではないか。オスだとわかりにくいが、ホオジロのメスをみると、確かに、菊座のような環が見える。
「鵐」(漢音ブ、呉音ム)は、
鳥の名とあり、ふなしうづら、しとと、とある(漢字源)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95