2023年11月13日

醫王


薬師醫王の浄土をば、瑠璃の浄土と名づけたり、十二の船を重ね得て、我ら衆生を渡いたまへ(梁塵秘抄)、

の、

瑠璃の浄土、

とは、「薬師如来」で触れたように、

阿弥陀如来の西方極楽浄土、

とならぶ浄土のひとつ、

薬師如来の東方浄瑠璃浄土、

で、東方にある薬師如来の浄土をいい、

大地は瑠璃、すべての建物・用具が七宝造りで、日光・月光をはじめ、無数の菩薩が住むという世界、

とされ(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)、

東方浄瑠璃国土、
瑠璃光土、

ともいう(大言海)。

十二の船、

は、「般若」で、

般若の船(ふね)、

を、

船にたとえて、迷いの此岸(しがん)からさとりの彼岸(ひがん)に導く般若(知慧)、

をいったように、薬師如来の、

十二の本願、

を船に譬えたものと思われる。薬師如来は、

菩薩としての修行時代に、

十二の本願、

を立て、それが達成されないかぎり仏にならないと誓った。その本願とは衆生の病気をなおして災難をしずめ、苦しみから救う、というもので、それが、

薬師如来、

の名の起源となった(仝上)。大乗仏教における信仰対象である如来の一尊で、かつては、現世利益を与える仏として、

朝観音・夕薬師、

といわれるほど庶民に信仰され(広辞苑)、民間では、

眼病などの治療に効験がある、

と信じられていた(日本大百科全書)。

薬師座像 行基・作(新薬師寺).jpg

(行基作・薬師座像(新薬師寺) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%96%AC%E5%B8%AB%E5%A6%82%E6%9D%A5より)

十二の本願(誓願・大願)、

は、

自身の光明照耀(こうみょうしょうよう)に依って、一切衆生をして三十二相八十随形(ずいぎょう)を具せしむるの願(衆生をことごとく薬師如来のごとくにすること)、
衆生の意に随うて光明を以て種々の事業を成弁せしむること(迷いの衆生をすべて開暁(かいぎょう)させること)、
衆生をして欠乏を感ぜしめず、無尽の受用を得せしむること(衆生の欲するものを得させること)、
邪道を行ずる者を誘引して皆な菩提道に入らしめ、大乗の悟りを開かしむること(衆生をすべて大乗に安立させること)、
衆生をして梵行を修して清浄なることを得、決して悪趣に堕せしめざること(三聚戒(さんじゅかい)を備えさせること)、
六根具足して醜陋(しゅうろう)ならず、身相端正(しんそうたんせい)にして諸の病苦なからしむること(いっさいの障害者に諸根を完具させること)、
諸病悉除(いっさいの衆生の病を除くこと)、
女(にょ)を転じて男(なん)と成し、丈夫の相を具して成仏せしむること(転女成男(てんにょじょうなん)させること)、
外道の邪見に捕らえられて居る者を正見に復(ふく)せしめ、無上菩提を得せしむること(正しい見解を備えさせること)、
もろもろの災難(さいなん)刑罰(けいばつ)を免れしめ、一切の憂苦を解脱せしむること(獄にある衆生を解脱(げだつ)させること)、
飢渇(きかつ)に悩まされ、食を求むる者には、飯食(ばんじき)を飽満せしめ、又、法味(ほうみ)を授けて安楽を得せしむること(飢渇(きかつ)の衆生に上食を得させること)、
所求満足の誓いで、衆生の欲するに任せて衣服珍宝等一切の宝荘厳(ほうしょうごん)を得せしめんとすること(衣服に事欠く衆生に妙衣を得させること)、

とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%96%AC%E5%B8%AB%E5%A6%82%E6%9D%A5・日本大百科全書)。このために、「薬師如来」は、

大醫王、
醫王善逝(いおうぜんぜい)、
醫王仏、

とも呼ばれ(仝上・ブリタニカ国際大百科事典)、

醫王、

というと、

薬師如来の異称、

ともされる。広い意味で、

醫王、

は、

仏や菩薩

を指し、阿含経典では、

釈尊、

を、

大医王、

と呼びhttp://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E5%8C%BB%E7%8E%8B、その四つの徳を、

一には善く病を知り、二には善く病源を知り、三には善く病の対治を知り、四には善く治病を知る、

とあり(仝上)、

医者が病人を救うように、仏が人々を救う、

たとえとして、そう呼ぶが、まさに、だからこそ、

薬師如来、

そのものをも指す、と思われる。薬師の十二誓願の第七に、

諸病悉除(いっさいの衆生の病を除くこと)、

とあることから、特に日本でこのように呼称されるようになった(仝上)という。

なお、

醫王山王(いおうさんのう)、

というと、

年来(としごろ)医王山王に首をかたぶけ奉て候身が(平家物語)、

と、

醫王、つまり、薬師如来の、山王はその垂迹(すいじゃく)、

をいい、特に、

比叡山延暦寺の根本中堂の本尊である薬師如来と、滋賀県大津市坂本にある日吉神社の日吉山王権現をさす、

とある(精選版日本国語大辞典)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:56| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする