2023年11月17日

白拍子(しらびょうし)


今様の會終夜ありて候、亂舞、猿楽、白拍子、品々しつくしき(梁塵秘抄口伝集10巻)、

とある、

白拍子(しらびょうし)、

は、

もとは雅楽の拍子の名で、笏拍子だけで等しい間隔で奏される拍の連続に当てて歌い奏する歌舞の名称、後に、白い水干に烏帽子姿で今様・短歌体歌謡等を歌いかつ舞う遊女が成立、その芸能の呼称ともなり、独自長歌謡を生む。仁和三年(1168)に平時忠らの今様の会のあとで乱舞して水白拍子を歌った(異本口伝集)記事もあり、宮廷をはじめとして寺社の延年でも行われた。楽器は、鼓・銅拍子など、

とある(馬場光子全訳注『梁塵秘抄口伝集』)。因みに、

延年(えんねん)、

は、

寺院において大法会の後に僧侶や稚児によって演じられた日本の芸能。単独の芸能ではなく、舞楽や散楽、台詞のやりとりのある風流、郷土色の強い歌舞音曲や、猿楽、白拍子、小歌など、貴族的芸能と庶民的芸能が雑多に混じり合ったものの総称、

とあり、

平安時代中頃より行われたと言われている。能の原型である猿楽との関連は深く、互いに影響を与えあったのは間違いない、

ともあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BB%B6%E5%B9%B4

白拍子.jpg

(白拍子 学研古語辞典より)

笏拍子(しゃくびょうし)、

は、

神楽(カグラ)・催馬楽(サイバラ)などで拍子をとるための楽器。初め二枚の笏を用いたが、のち笏を縦にまん中で二つに割った形となった。主唱者が両手に持ち、打ち鳴らして用いる、

とある(大辞林)。

主な歌い手がこれを打ち合わせて拍子をとる、

という(日本国語大辞典)。

笏拍子.bmp

(笏拍子 大辞林より)

白拍子、

は、雅楽の、

拍子、

の名で、

笏拍子(サクハウシ)のこと、

とある(大言海)。

神楽に用ゐて節をなすもの、

で、

形、笏の如く、二枚相撃ちて、音を発す、……俗に、

シャクビャウシ、

というとある(仝上)。和名類聚抄(平安中期)に、

拍子、俗云、百誦、拍板楽器名也、

とある。

おとどは、さくはうしおどろおどろしからず、打鳴らしたまひて(源氏物語)、

と、打楽器で、

普通の拍子、
または、
伴奏を伴わない、

意のようである(岩波古語辞典)。のちに、雜藝(ぞうげい・さづげい)で、

当世風の即興的な歌舞、

の名となり、さらに、

その舞を得意とした雜藝の専業者の呼称、

としても使われるようになる(仝上)。「雜藝」は、

平安後期から鎌倉時代にかけて流行した歌謡の総称、

で、催馬楽(さいばら)など古典的、貴族的なものに対して、

今様(いまよう)・沙羅林(さらりん)・法文歌・神歌など民間から出たもの、

をいう(デジタル大辞泉)。「梁塵秘抄」に収録されている歌謡が代表的。

白拍子、

の舞手は、初期には、男性によって演じられたが、院政・鎌倉時代には女性に限るようになり、

水干・烏帽子、白鞘巻をさした男装で、今様を歌いながら舞を舞った、

とあり(広辞苑・大言海・岩波古語辞典)、伴奏には、

扇拍子・鼓拍子、

を用い、

鼓、時には笛・銅鈸子(どびょうし)、

も用い、後に早歌(そうか)・曲舞(くせまい)などの生まれる素地となり(広辞苑)、曲舞を通して能楽にも影響を与え、女舞・女猿楽・女歌舞伎に芸系を伝え(大辞林)、能の『道成寺』にも取り入れられ、その命脈は歌舞伎舞踊(『京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)』など)にも受け継がれた(日本大百科全書)とある。

たとへばその頃都に聞へたる白拍子上手、祇王、祇女とておととい(姉妹)刀自(とじ)と云ふ白拍子が女なり(平家物語)、

と、

白拍子、シラビャウシ、妓女也(室町末期の節用集「伊京集」)、

とあるように、

遊女という身分の低さにもかかわらず、貴族階級の間で絶大な人気があった、

とある(仝上)。

白拍子姿の静御前(葛飾北斎).jpg

(白拍子姿の静御前(葛飾北斎肉筆畫) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E6%8B%8D%E5%AD%90より)

鳥羽院の頃に、島の千歳、和歌の前、二人の遊女、舞始めたりと云ふ(平家物語)、

とも、或いは、

通憲入道(みちのり 信西入道)、作りて、磯の禅師に舞はしめた(徒然草)、

ともある(大言海・日本大百科全書)。源義経の妾とされる、

静御前(しずかごぜん)、

は磯の禅師の娘とされているし、平清盛(きよもり)寵愛の、

祇王(ぎおう)・祇女(ぎじょ)・仏御前(ほとけごぜん)・千手(せんじゅ)、

後鳥羽天皇寵姫、

亀菊(かめぎく)、

等々の名はいずれも白拍子の名手として知られている(仝上)。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:00| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする