2023年11月19日

伽陀(かだ)


この所僧中伽陀の音ヲ別、一句ごとに畢也(梁塵秘抄口伝集11)、

の、

伽陀、

は、

偈陀、

とも表記し、梵語

gāthā、

の音写、

偈(げ)、

に同じ(広辞苑)とあり、

偈、

も、梵語、

Gāthā、

の音写、これを、

伽陀、

とも音写する(広辞苑)。漢語では、

頌(じゅ)、

あるいは、

讃(さん)、

とも翻訳され(仝上・精選版日本国語大辞典)、

仏典のなかで、仏の教えや仏・菩薩の徳をたたえるのに韻文の形式で述べたもの、

をいい、

偈頌(げじゅ)、
諷誦(ふじゅ)、

ともいう(仝上)。梵語、

Gāthā、

は、原意は、

歌、

で、梵語(サンスクリット語)のシラブル(音節)の数や長短などを要素とする韻文、

を指すhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%BD%E9%99%80。古来インド人は、詩を好む民族で、仏典においても、

詩句でもって思想・感情を表現するもの、

が多くこれが漢語では、

三言四言あるいは五言などの四区よりなる詩句で訳出された(日本大百科全書)。だから、

伽陀、

は、

四句づつなることが多ければ、

四句(しく)、

とも云ふ、

とあり(大言海)、

四句の偈

は、

要偈(ようげ)、
伝法要偈(でんぼうようげ)、

ともいう(精選版日本国語大辞典)。「四句の偈」は、

四句の文(しくのもん)、

ともいい、「雪山偈(せっせんげ)」(「是生滅法」で触れた)である、

諸行無常、
是生滅法、
生滅滅已、
寂滅為楽、

といった、

四句からなる偈の文句、

をいう(精選版日本国語大辞典)。これに対して散文部分を、

長行、

という(精選版日本国語大辞典・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%81%88)とある。

漢語では、三言四言あるいは五言などの四句よりなる詩句で訳出され、たとえば、七仏通戒偈(しちぶつつうかいげ)で、

諸悪莫作(しょあくまくさ)、
諸善(しょぜん 衆善)奉行(ぶぎょう)、
自浄其意(じじょうごい)、
是諸仏教(ぜしょぶっきょう)、

とか、法身偈(ほっしんげ)で、

諸法従縁生(しょほうじゅうえんしょう)、
如来説是因(にょらいせつぜいん)、
是法従縁滅(ぜほうじゅうえんめつ)、
是大沙門説(ぜだいしゃもんせつ)、

と共に、「雪山偈」(「是生滅法」で触れた)も仏教の根本思想を簡潔に表現したもの(日本大百科全書)とされる。

『法華経』方便品第二の一部.jpg

(『法華経』方便品第二の一部(3行目までは「長行」、4行目からは1句5字の「偈」) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%81%88より)

伽陀、

つまり、

偈、

は、

声明(しょうみょう)の一つ、

とされ、声明では各種法要などで法要の趣旨に合った偈に、

定型の旋律をつけて唱える、

http://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E4%BC%BD%E9%99%80

早はや上げ、早下げなどの伽陀独特の特徴的な旋律がある、

とある(仝上)。伽陀は、

法要の開始部分(前伽陀 ぜんかだ)と終結部分(後伽陀 ごかだ)とに唱える、

とある(仝上)。

声明、

は、

古代インドの五明(ごみょう)の一、

で、

文字・音韻・語法などを研究する学問、

を意味するが、

仏教の経文を朗唱する声楽の総称、

をいい、

言葉をもって仏を供養し讃歎することから抑揚をつけて行われた、

とありhttp://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E5%A3%B0%E6%98%8E、インドに起こり、中国を経て日本に伝来し、。中国では、

経唄(きょうばい)、梵唄、梵讃、唄匿(ばいのく)、梵音、

等々と呼ばれ(仝上)、日本では、天平勝宝四年(七五二)の東大寺大仏開眼供養会で四箇法要が行われ、

梵唄(ぼんばい)、

が唱えられたようである。法要儀式に応じて種々の別を生じ、また宗派によってその歌唱法が相違するが、平安時代に帰国僧によってもたらされた(仝上)、

天台声明と真言声明、

が声明の母体となっている(精選版日本国語大辞典)とある。

声明の曲節、

は、

平曲・謡曲・浄瑠璃・浪花節・民謡、

などに大きな影響を与えた(仝上)とされる。因みに、

五明(ごみょう)、

は、インドにおける五つの学問の分類で、

五明処、

ともいい、

①内明処(自宗の教えを明確にする学問、すなわち教理学)
②因明処(論理によって真偽を明確にする学問、すなわち論理学)
③声明処(言葉の使用法を明確にする学問、すなわち言語学や文法学)
④医方明処(病を治すための学問、すなわち医学や薬学)
⑤工業明処(工巧明ともいう。建築や技術に関する学問、すなわち工学や芸術)、

とされhttp://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E4%BA%94%E6%98%8E、この五つは、

仏教徒の五明、

であり、外道(仏教以外の諸宗)では、②~⑤は同じで①が符印明とされるもの、また③~⑤までは同じで①・②がそれぞれ符印明・呪術明とされるものがある(仝上)とある。

なお、

伽陀、

は、広義には、上述の通り、

韻文体の歌謡、漢文の詩句、偈文など、

をいうが、狭義には、原始経典を分類した、

九分教(くぶきょう)、
十二部経(じゅうにぶんきょう)、

などの一つをさし、

経文の一段、または全体の終わりにある韻文体の詩句、

をいう(精選版日本国語大辞典)とされる。

十二分教、

は、

(1)契経(教説を直接散文で述べたもの) 、
(2)応頌(散文の教説の内容を韻文で重説したもの)、
(3)諷頌(最初から独立して韻文で述べたもの)、
(4)因縁 (経や律の由来を述べたもの)、
(5)本事(仏弟子の過去世の行為を述べたもの)、
(6)本生(仏の過去世の修行を述べたもの)、
(7)希法(仏の神秘的なことや功徳を嘆じたもの)、
(8)譬喩(教説を譬喩で述べたもの)、
(9)論議(教説を解説したもの)、
(10)自説(質問なしに仏がみずから進んで教説を述べたもの)、
(11)方広 (広く深い意味を述べたもの)、
(12)記別(仏弟子の未来について証言を述べたもの)、

と(日本大百科全書)、仏教の経典の形態を形式、内容から12種に分類したものをいうが、九種の分類法である、

九部経、

がより古い形態とされているが、その九種については諸説あり、

戒律制定の事情を述べるニダーナ(因縁(いんねん)物語)、
過去仏の世のできごとを物語るアバダーナ(過去世物語)、
解釈説明の形式ウパデーシャ(釈論)、

を加えたものとする(仝上)他、

因縁 諸経の因縁を説くもの、
譬喩 譬え話となるべき過去の物語
論議 教法、

あるいは、

譬喩(教説を譬喩で述べたもの)、
論議(教説を解説したもの)、
自説(質問なしに仏がみずから進んで教説を述べたもの)、

を加えたもの(http://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E5%8D%81%E4%BA%8C%E5%88%86%E6%95%99・ブリタニカ国際大百科事典)等々諸説ある。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:58| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする