2023年11月28日
葎(むぐら)
むぐらさへ若葉はやさし破レ家(いえ)(芭蕉)、
の、
むぐら、
は、
葎、
と当て、
うぐら、
もぐら、
とも訛り、
カナムグラ・ヤエムグラなど、蔦でからむ雑草の総称、
とあり、蓬(よもぎ)や浅茅(あさぢ)とともに、
貧しい家、荒廃した家の形容に使われることが多い、
とある(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。
荒れ地や野原に繁る雑草の総称、
なので、
葎生(むぐらふ)、
というと、
いかならむ時にか妹を牟具良布(ムグラフ)のきたなき屋戸(やど)に入れいませてむ(万葉集)、
と、
葎が生い茂っていること、また、その場所、
の意で使い、
葎の門(むぐらのかど)、
というと、
訪ふ人もなき宿なれど来る春は八重葎にもさはらざりけり(紀貫之)、
と、
葎が這いまつわった門、
の意で、
荒れた家や貧しい家のさま、
の意となる(広辞苑)
葎の宿、
も同じ意味で使う(仝上)。ただ、歌語としては、「葎の門」「葎の宿」は、
葎の門に住む女、
荒廃した屋敷に美女がひっそりと隠れ住む、
というようなロマン的な場面が、『伊勢物語』、『大和物語』、『うつほ物語』等々の物語によって形成され、類型化された(日本大百科全書)とある。
茂(も)く闇(くら)き儀、
が由来とある(大言海)が、他に、
繁茂しているところから、茂らの義、ラは助辞。またクラは木闇のクレの転で、草の暗く茂っている意(日本語源=賀茂百樹)、
一株で草むらのように生い茂った状態から(https://www.asahi-net.or.jp/~uu2n-mnt/yaso/yurai/yas_yur_yaemugura.html)、
ムグリツタ(潜蔦)の義(日本語原学=林甕臣)、
モレクグリ(漏潜)の義(名言通)、
世捨て人がとじこもっている室は、この草が茂って暗いことから、ムロクラキ(室暗)の義(和句解)、
と諸説あるが、どうもはっきりしないが、その状態をいう、
一株で草むらのように生い茂った状態、
を示しているとするのが、自然な気がする。なお、万葉集で、
思ふ人来むと知りせば八重葎おほへる庭に珠敷かましを(作者不詳)、
と歌われる、
やえむぐら(八重葎)、
は、
カナムグラ(鉄葎)、
を指している(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%A0%E3%82%B0%E3%83%A9)とされる。ヤエムグラ属は、
アカネ科、
に属し、カナムグラは、
アサ科カラハナソウ属、
とされる。「鉄葎」の、
カナは、鐵にて、此蔓、堅き墻(かきね)をも穿ち生ふると云ふ、
とあり(大言海)、
強靭な蔓を鉄に例え、「葎」は草が繁茂して絡み合った様を表すように、繁茂した本種の叢は強靭に絡み合っており、切ったり引き剥がしたりすることは困難である、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%A0%E3%82%B0%E3%83%A9)。「八重葎」は、
彌重葎、
の意で、
茎は直立、斜上し、またはつる性になり、4稜がある。葉は節ごとに対生する本来の2個の葉と、2~8個からなる葉と同形の托葉からなり、4個~多数個の葉が輪生しているように見える。花序は散集花序になり、茎先や葉腋につけて、ふつう多数の花をつける、
ためかと思われる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%82%A8%E3%83%A0%E3%82%B0%E3%83%A9%E5%B1%9E)。
『万葉集』から「八重(やへ)葎」「葎生(ふ)」などと用いられているが、平安時代以後は、歌語としては「八重葎」に固定して、
八重葎茂れる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり(恵慶(えぎょう)法師)、
などと詠まれた(日本大百科全書)。
「葎」(漢音リツ、呉音リチ)は、
会意兼形声。「艸+音符律(ならぶ)」、
とあり(漢字源)、つるくさの名である。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95