声すみて北斗にひゞく砧哉(芭蕉)、
の、
砧、
は、
碪、
とも当て、
衣板(きぬいた)の約、
とされるように、和名類聚抄(平安中期)には、
岐沼伊太、
と読ませ、
木槌(キヅチ)で布(洗濯した布や麻・楮(コウゾ)・葛(クズ)などで織った布や絹)を打って布地をやわらげ光沢を出すのに用いる、板や石の台、
の意だから(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A0%A7・デジタル大辞泉・学研全訳古語辞典)、
うちばん、
ともいう(大言海)が、
それで布を打つこと、
もいい、また、さらに、
その音、
にもいう(学研全訳古語辞典)。その「槌」は、
短き丸木に細き棒をつけたる、蒲の穂の如きを用ゐる、
とある(大言海)。歌語としては、
砧を打つ、
は、
白妙の衣うつ砧の音もかすかにこなたかなた聞きわたされ空飛ぶ雁の声取り集めて忍びがたきこと多かり(源氏物語)、
と、
秋、
のものとされ、
砧打ちは女の秋・冬の夜なべ仕事、
とされた(岩波古語辞典)。古くは、
夜になるとあちこちの家で砧の音がした、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A0%A7)。
(砧木 学研国語大辞典より)
(砧(和漢三才図会) 「枮」は木製のきぬた https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A0%A7より)
砧(きぬた)は、
厚布を棒に巻き付け、その上に織物の表を内側にして巻き付け、さらに外側を厚手の綿布で包み、これを木の台に乗せ、平均するように槌(つち)で打つ、
とされる(仝上)。装束に使う絹布などは、
糊をつけ、これを柔らかくし、光沢を出すために砧で打つ、
とされ(仝上・岩波古語辞典)、こうした衣を、
打衣(うちぎぬ)、
といい、
男子の衣(きぬ)・袙(あこめ)、女子の袿(うちき)、
などに使った(仝上)。「袙」は、「いだしあこめ」、「小袿(こうちぎ)」で触れた。
「砧」には、民具として木製のものが普及していたが、表記としては、材質にかかわらず、
砧、
が使われ、木製のものに、
枮、
の字が使われることもあった(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A0%A7)とある。
(月下砧打ち美人図(應為栄女) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A0%A7より)
当初は、
布を臼に入れ相対した2名の婦人が米をつくようにして打った、
が、後世には、
布を石板または木板の上に延べ、横杵で交互に打つ、
ようになった(ブリタニカ国際大百科事典)。
「砧」(チン)は、
会意兼形声。「石+音符占(セン・テン 一定の場所に固定する)」、
で、「きぬた」の意で、
布や衣の通夜を出すために、また洗うために使う石の台、
をいう(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(石+占)。「崖の下に落ちている、いし」の象形と「うらないに現れた形の象形と口の象形」(占いは亀の甲羅に特定の点を刻んで行われる事から、特定の点を「しめる」の意味)から、「一定の場所にすえて置く石の台」を意味する「砧」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2613.html)。
「碪」(漢音・呉音チン、漢音ガン、呉音ゴン)は、
会意兼形声。「石+音符甚(ずっしりと下がる、ずっしりと重みを受ける)」、
とある(漢字源)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95