2023年12月15日

葛の葉


葛の葉の面見せけり今朝の霜(芭蕉)、

の、

葛の葉、

は、

風に白い葉裏を見せることから、

秋風の吹き裏返す葛の葉のうらみてもなほうらめしきかな(古今集)、

と、

「裏見」に「恨み」を掛けて詠むのが和歌の常套(松尾芭蕉(雲英末雄・佐藤勝明訳註)『芭蕉全句集』)とある。

葛.jpg


恋しくば尋ね来て見よ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉

の歌で名高い、浄瑠璃(『信田森女占』、『蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)』)などになった、

信田妻(しのだづま)、

の、

摂津国の阿倍野(現在の大阪市阿倍野区)に住んでいた安倍保名(あべのやすな)が和泉国の信太の森(現在の大阪府和泉市)で狩人に追われていた白狐を助けたが、その時に怪我をしてしまった。その時に保名を介抱したのが葛の葉である。ここから恋仲になり、童子丸という子をもうけた。しかしある時、葛の葉の正体を童子に見られてしまい、保名に助けられた狐であることが保名本人にバレてしまい、上記の一首を残して信太の森に帰っていった、この童子丸は後に安倍晴明として知られることになる、

という物語https://dic.pixiv.net/a/%E8%91%9B%E3%81%AE%E8%91%89がある。この話にはいくつか別系統の話があり、たとえば、

この子三歳の時に姿を消した母を、成人した晴明が信田の森に尋ねゆき、母なる狐と対面し、信田の明神である事を知る(近世初期の『簠簋抄(ほきしょう)』)、

とか、

残された童子が信田の森で白虎と再会後、亀を助けて竜宮城へ行き、9年後に帰ると、都の後涼殿震動騒ぎを聞き、龍王からもらった鳥語を解する二粒の龍仙丸で解決し、道満との奇特比べにも勝ち、安倍晴明として陰陽の頭(かみ)天文博士になった、

とかとある(日本伝奇伝説大辞典)。

きつね
百歳の狐
つかはしめ

などでも触れたように、「狐」は、古くから、

農耕神の示現、
田の神の使い、

として重要視され、それに豊凶の託宣を問う時代があり、「葛の葉」の説話は、

人間との結合が異常な能力を備えた子が生じる、

という説話(日本霊異記など)の流れの中にあるともいえる(日本昔話事典)が、

童子、

は、

大寺に隷属し、力役雑役に携わる寺奴、

の意で、彼らの集落を、

童子村、

と呼んだが、寺社が早くから卜占に従事させるために専属せしめたといい、

陰陽師、

が形成した、

陰陽師村、

もその流れに在り、

阿倍野の里、

は、

阿倍野童子、

と呼ばれ、四天王寺と関係を持ちながら、占い、祈祷に従事した、

陰陽師の集落、

が存在し、

こうした陰陽師が、

信田森の聖神社、もしくは、その末社の葛の葉神社、

の由来を、信田妻の物語として説く自らの本地語りに由来している(仝上)とされている。

信太森神社(葛の葉稲荷).jpg

(信太森神社(葛の葉稲荷) https://izbun.jp/introduction/shinoda/shinodanomorijinja.htmlより)

葛の葉、

の裏面には、

細かな白毛があり、風に吹かれて裏面が見えるのを「恨み(裏見)」に掛けて、

歌に詠んだhttps://www.uekipedia.jp/%E3%81%A4%E3%82%8B%E6%80%A7%E6%A4%8D%E7%89%A9/%E3%82%AF%E3%82%BA/

なお、「野干」、「きつね」、「きつねとたぬき」、「九尾の狐」については触れた。また、「」についても触れた。

「葛」 漢字.gif

(「葛」 https://kakijun.jp/page/kuzu200.htmlより)

「葛」 『説文解字』(後漢・許慎)・漢.png

(「葛」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%91%9Bより)

「葛」(漢音カツ、呉音カチ)は、

会意兼形声。「艸+音符曷(カツ 水分がない、かわく)」。茎がかわいてつる状をなし、切っても汁が出ない植物、

とある(漢字源)。「くず」の意である。また、

会意兼形声文字です(艸+曷)。「並び生えた草」の象形と「口と呼気の象形と死者の前で人が死者のよみがえる事を請い求める象形」(「祈りの言葉を言って、幸福を求める、高く上げる」の意味)から、木などにからみついて高く伸びていく草「くず」、「草・木のつる」を意味する「葛」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2110.htmlが、

かつて「会意形声文字」と解釈する説があったが、根拠のない憶測に基づく誤った分析である、

とありhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%91%9B

形声。「艸」+音符「曷 /*KAT/」(仝上)、
形声。艸と、音符曷(カツ)とから成る(角川新字源)、

とする説がある。

参考文献;
稲田浩二他編『日本昔話事典』(弘文堂)
乾克己他編『日本伝奇伝説大辞典』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:05| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする