2023年12月24日

した面(おもて)


月やその鉢木(はちのき)の日のした面(おもて)(芭蕉)、

の、

した面(おもて)、

は、

シテが面を付けず素顔で演じること、

をいう、

直面(ひたおもて)、

の訛言とされる(松尾芭蕉(雲英末雄・佐藤勝明訳註)『芭蕉全句集』)とある。

ひたおもて、

は、

ひためん、

の意である。

小面.jpg


直面、

は、

ちょくめん、

と訓ませると、

困難に直面する、

というような、

接に物事に対すること、
避けられないような状態で物事に出会うこと、

の意になるし、

じきめん、

と訓ませると、

御自身に御出なされませい、直面(ヂキメン)におわたしませふ(浮世草子「傾城仕送大臣(1703)」)、

と、

直接に面会すること、

の意となり、

ひたおもて、

と訓ませると、

ただかう殿上人のひたおもてにさしむかひ(「紫式部日記(1010頃)」)、

と、

ひたおもてなり、

という形容動詞で、

直接、顔を合わせてさし向かうこと、
覆いかくすところなく直接的であること、またそのさま、

の意で使う(学研全訳古語辞典・精選版日本国語大辞典)。ただ、

ひたおもて、

には、

ひためん(直面)、

の意があり、昔は、

直面(ひためん)、

は、

ひたおもて、

と訓ませ、

顔を隠さないでいること、

とされていた(https://nohmask21.com/hitamen.html)とある。世阿弥は、

ひためんこれ又、大事也(「風姿花伝(1400~02頃)」)、

と、

能を演ずるシテ、またはシテツレが、面をつけないこと、また、その役柄、

をいい(仝上)、

面をかけない場合でもかけた時と同じ心持で役を勤める

ことをいうhttps://db2.the-noh.com/jdic/2009/02/post_83.html。このため、

素顔の状態でも喜怒哀楽の表情を露骨に出すことはなく、面をかけた役との調和が図られている、

とある(仝上)。

白色尉(白式尉).jpg

(翁面(白色尉(白式尉)) https://www.nohgaku.or.jp/guide/%E8%83%BD%E3%81%AE%E9%9D%A2より)

素顔もまた面、

という考え方http://www.kamekawa-d.com/AON/article/%E7%9B%B4%E9%9D%A2%E3%81%A8%E3%81%AF/のようで、

文字通りの素顔で、歌舞伎役者のように厚化粧や隈取りを施すこともありませんし、顔や筋肉や目玉を派手に使う事も無く、全く能面そのものの如く、表情を動かさずに演技する事を要求されます、

とある(仝上)。直面を使用するのは、

およそ70歳にならないと難しい、

とされ、

その顔に刻まれた豊かな人生の経験、品格が積み重なってこそ、「直面」として使える、

とあるhttps://nohmask21.com/hitamen.html

直面物(ひためんもの)、

というと、

神や幽霊でない現実の男性の役、すなわち面を用いない役を主人公とする能、

で、

「鉢木」「安宅」など現在物に限られる、

とある(広辞苑・大辞林)。

「直」 漢字.gif



「直」 甲骨文字・殷.png

(「直」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%9B%B4より)


「直」 金文・西周.png

(「直」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%9B%B4より)

「直」(漢音チョク、呉音ジキ)は、

会意。原字は「―(まっすぐ)+目」で、まっすぐ目を向けること、

とある(漢字源)。『中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)では、

「十」+「目」+「𠃊」から構成される会意文字、

と説明されているが、これは誤った分析であるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%9B%B4とし、

会意。「|」(直線)+「目」から構成され、まっすぐな視線を象る。「まっすぐな」を意味する漢語{直 /*drək/}を表す字、

とある(仝上)。

「面」 漢字.gif


なお、「面」(漢音ベン、呉音メン)は、「面(おも)なし」で触れたように、

会意。「首(あたま)+外側をかこむ線」。頭の外側を線でかこんだその平面を表す、

とあり(漢字源)、

指事。𦣻(しゆ=首。あたま)と、それを包む線とにより、顔の意を表す(角川新字源)、
指事文字です。「人の頭部」の象形と「顔の輪郭をあらわす囲い」から、人の「かお・おもて」を意味する「面」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji541.html

も、漢字の造字法は、指事文字としているが、字源の解釈は同趣旨。別に、

仮面から目がのぞいている様を象る(白川静)、

との説https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9D%A2もある。

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:56| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする