2024年02月16日


夕暮れの籬(まがき)は山と見えななむ夜は越えじと宿りとるべく(古今和歌集)、

の、

ななむ、

は、

完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」とあつらえのぞむ意の助詞「なむ」、

籬(まがき)、

は、

柴などで編んだ粗末な垣根、

とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。和名類聚抄(平安中期)に、

籬、末加岐、一云、末世、以柴作之

字鏡(平安後期頃)には、

稱、曼世、

とあり、

籬、

は、

ませ、

とも訓ませ、

ませがき(籬垣・閒狭垣)、

ともいい(広辞苑・大言海)、

竹・柴などを粗く編んでつくった垣、

で(仝上)、

ませごし(籬越・馬柵越)、

という言葉があり、

籬垣(ませがき)を越えて、品物を授受したりなどすること、

あるいは、

馬柵(ませ)を越えて物事をすること、

という意味のように、

低く目のあらい垣、

のようである(仝上)。

籬(まがき)、

は、近世になって、

柵、

とも当て、

名におふ嶋原や、籬(マガキ)のかいまみに首尾をたどらぬはなし(仮名草子・都風俗鑑)、

と、

新吉原のの入口の土間と張見世(みせ)の間を仕切る格子戸、またはその張見世、

の意で使われるに至る(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。

まがき(籬)の由来は、

閒垣の義、閒閒を隔つる意(大言海)、
間垣の義(名語記・言元梯・名言通・和訓栞・本朝辞源=宇田甘冥)、
マヘガキ(前垣)の略か(万葉代匠記・日本釈名・北辺随筆・和訓栞)、
メカキ(目垣)の略(名語記・日本語原学=林甕臣)、
馬垣の義(箋注和名抄)、

ませ(籬)の由来は、

「間塞」または「馬塞」の意という(広辞苑)、
マ(間)セ(塞)の意(岩波古語辞典)、
「間狭ませ」の意か(デジタル大辞泉)、
閒狭の義と云ふ、或は云ふ馬塞の義(大言海)、
馬塞の義(万葉考・言元梯・日本語源=賀茂百樹)
ムマサエまたムマサケ(馬礙)の反(名語記)、

とある。どれかとする決め手はない。

間、

ともとれるし、それが、

狭い、

とも、
塞ぐ、

ともとれるが、共通する、

馬塞、

にちょっと惹かれるが。

ちなみに、垣の種類について、籬の他に、

我が背子に恋ひすべながり安之可伎能(アシカキノ)ほかに歎(なげ)かふ我(あれ)しかなしも(万葉集)、

の、

葦垣(あしがき)は葦で編んだ垣、

しばつち、あみたれじとみ、めぐりはひがき、ながや一つ、さぶらひ(宇津保物語)、

の、

檜垣(ひがき)はヒノキの薄板を網代(あじろ)のように編んだものを木製の枠に張ったもの、

所どころの立蔀 (たてじとみ) 、すいがきなどやうのもの、乱りがはし(枕草子)、

の、

透垣(すいがき)は割竹を縦に編むように木製の枠に張ったもの、

行くへも遠き山陰の、ししがきの道の険 (さが) しきに(謡曲・紅葉狩)、

の、

鹿垣(ししがき)は枝つきの木を人字形に組んだ柴垣、

大君の 御子の志婆加岐(シバカキ) 八節結(やふじま)り 結(しま)り廻(もとほ)し 截(き)れむ志婆加岐(シバカキ) 焼けむ志婆加岐(シバカキ)(古事記)、

の、

柴垣(しばがき、古くは「しばかき」)は柴木を編んで作った垣根、

門柱に椿井民部(つはゐみんぶ)と筆太に張札して、菱垣(ヒシカキ)のかりなる風情(浮世草子・武道伝来記)、

の、

菱垣(ひしがき)は割り竹をひしがたに組んで結った垣、

下手に建仁寺垣・竹の素戸(歌舞伎・お染久松色読販)、

の、

建仁寺垣(けんにんじがき)は、京都の建仁寺で初めて用いたという形式で、四つ割り竹を皮を外にして平たく並べ、竹の押縁(おしぶち)を横にとりつけ縄で結んだ垣、

等々がある(世界大百科事典・広辞苑・精選版日本国語大辞典)。

「籬」.gif


「籬」(リ)は、

会意兼形声。「竹+音符離(リ 別々のものをくっつける)」、

とある。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:籬(まがき)
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草枕


あさなけに見べき君としたのまねば思ひたちぬる草枕なり(古今和歌集)、

の、

草枕、

は、

くさのまくら(大辞林)、

つまり、

旅に、草を枕とすること(大言海)、

の意で、

草を結んで枕として野宿すること、

とある(広辞苑・岩波古語辞典)、

古へ、旅路の宿りに、、仮庵を作るを、草結ぶと云ひ、茅草などを束ねて枕としたり、

ということ(大言海)のようである。

笹枕(ささまくら)、
旅寝、
旅枕、
旅の仮寝、

ともいい、これが転じて、

草枕もみぢむしろに替へたらば心をくだくものならましや(後撰和歌集)、

と、

旅先でのわびしい宿泊や仮の宿、

を暗示したり、

さもこそは都のほかに宿りせめうたて露けき草まくらかな(後拾遺和歌集)、

と、

わびしい旅寝、

朝なけに見べき君とし頼まねば思ひ立ちぬるくさまくらなり(古今和歌集)、

と、

わびしい旅、

と、

旅寝、

あるいは、

旅、

の意で使われる(精選版日本国語大辞典)。この意の、

草枕、

が、転じて、

「たび(旅)」「むすぶ(結ぶ)」「ゆふ(結ふ)」「かり(仮)」「つゆ(露)」「たご(多胡)」、

等々にかかる、

枕詞、

として使わる(広辞苑)、たとえば、

久佐麻久良(クサマクラ)旅行く君を幸(さき)くあれと斎瓮(いはひへ)据ゑつ我が床の辺に(万葉集)、
家にあれば笥(ケ)に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る(仝上)、

と、

道の辺の草を枕にして寝る意で

旅、

にかかり、

草まくらこの旅寝にぞ思ひ知る月より外の友無かりけり(金葉和歌集)、

と、

「枕」の語に、寝るということとのつながりを感ずるところ、

からか、

旅寝、

にかかり、

草枕このたび経つる年月の憂きはかへりて嬉しからなん(後撰和歌集)、

と、


「旅(たび)」と同音の「たび(度)」または、それを含む連語、

にかかり、

草枕夕風寒くなりにけり衣うつなる宿や借らまし(新古今和歌集)、

と、

草の枕を「結ふ」意で、「結ふ」と同音の「ゆふ(夕)」を含む連語や地名「ゆふ山」、

等々にかかる(精選版日本国語大辞典)。

「草」.gif

(「草」 https://kakijun.jp/page/0965200.htmlより)

「草」(ソウ)の字は、「」で触れたが、

形声。「艸+音符早」。原義は、くぬぎ、またははんのきの実であるが、のち、原義は別の字であらわし、草の字を古くから艸の字に当てて代用する、

とある(漢字源・角川新字源)。別に、

形声。「艸」+音符「早」。「くさ」(cǎo)を意味する字は本来「艸」であり、「草」は「どんぐり」(zào)を意味したが、のちに「草」が「くさ」を意味するようになり、「どんぐり」の意味には「皁」(「皂」)を用いるようになった、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8D%89

形声文字です(艸+早)。「並び生えた草」の象形(「くさ」の意味)と「太陽の象形と人の頭の象形」(人の頭上に太陽があがりはじめる朝の意味から、「早い」の意味だが、ここでは、「艸(そう)」に通じ、「くさ」の意味)から、「くさ」を意味する「草」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji67.html

「艸」.gif


「艸」 中国最古の字書『説文解字』.png

(「艸」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%89%B8より)

「艸」(ソウ)は、

くさの並んで生え出るさまを表した字、「艹(くさかんむり)」の原形、

とありhttps://www.kanjipedia.jp/kanji/0004210000/

象形。草が並んで生えている形、

または、

「屮」(草の芽の出る様を象る)を並べた会意文字、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%89%B8

「枕」.gif


「枕」(慣用チン、漢音・呉音シン)は、「南枕」で触れたように、

会意兼形声。冘(イン・ユウ)は、人の肩や首を重荷でおさえて、下に押し下げるさま。古い字は、牛を川の中に沈めるさま。枕はそれを音符とし、木を加えた字で、頭でおしさげる木製のまくら、

とある(漢字源)。音符冘(イム)→(シム)と音変化したらしい(角川新字源)。別に、

会意形声。「木」+音符「冘」。「冘」は、H字形のもので押しつけ「沈」めることを意味。頭で押しつける木製のまくらを意味したものhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9E%95

会意兼形声文字です(木+冘)。「大地を覆う木」の象形と「人がまくらに頭を沈める」象形から、「(木製の)まくら」を意味する「枕」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji2133.html

等々の解釈もある。共通するのは、「木製のまくら」とである。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
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草枕


あさなけに見べき君としたのまねば思ひたちぬる草枕なり(古今和歌集)、

の、

草枕、

は、

くさのまくら(大辞林)、

つまり、

旅に、草を枕とすること(大言海)、

の意で、

草を結んで枕として野宿すること、

とある(広辞苑・岩波古語辞典)、

古へ、旅路の宿りに、、仮庵を作るを、草結ぶと云ひ、茅草などを束ねて枕としたり、

ということ(大言海)のようである。

笹枕(ささまくら)、
旅寝、
旅枕、
旅の仮寝、

ともいい、これが転じて、

草枕もみぢむしろに替へたらば心をくだくものならましや(後撰和歌集)、

と、

旅先でのわびしい宿泊や仮の宿、

を暗示したり、

さもこそは都のほかに宿りせめうたて露けき草まくらかな(後拾遺和歌集)、

と、

わびしい旅寝、

朝なけに見べき君とし頼まねば思ひ立ちぬるくさまくらなり(古今和歌集)、

と、

わびしい旅、

と、

旅寝、

あるいは、

旅、

の意で使われる(精選版日本国語大辞典)。この意の、

草枕、

が、転じて、

「たび(旅)」「むすぶ(結ぶ)」「ゆふ(結ふ)」「かり(仮)」「つゆ(露)」「たご(多胡)」、

等々にかかる、

枕詞、

として使わる(広辞苑)、たとえば、

久佐麻久良(クサマクラ)旅行く君を幸(さき)くあれと斎瓮(いはひへ)据ゑつ我が床の辺に(万葉集)、
家にあれば笥(ケ)に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る(仝上)、

と、

道の辺の草を枕にして寝る意で

旅、

にかかり、

草まくらこの旅寝にぞ思ひ知る月より外の友無かりけり(金葉和歌集)、

と、

「枕」の語に、寝るということとのつながりを感ずるところ、

からか、

旅寝、

にかかり、

草枕このたび経つる年月の憂きはかへりて嬉しからなん(後撰和歌集)、

と、


「旅(たび)」と同音の「たび(度)」または、それを含む連語、

にかかり、

草枕夕風寒くなりにけり衣うつなる宿や借らまし(新古今和歌集)、

と、

草の枕を「結ふ」意で、「結ふ」と同音の「ゆふ(夕)」を含む連語や地名「ゆふ山」、

等々にかかる(精選版日本国語大辞典)。

「草」.gif

(「草」 https://kakijun.jp/page/0965200.htmlより)

「草」(ソウ)の字は、「」で触れたが、

形声。「艸+音符早」。原義は、くぬぎ、またははんのきの実であるが、のち、原義は別の字であらわし、草の字を古くから艸の字に当てて代用する、

とある(漢字源・角川新字源)。別に、

形声。「艸」+音符「早」。「くさ」(cǎo)を意味する字は本来「艸」であり、「草」は「どんぐり」(zào)を意味したが、のちに「草」が「くさ」を意味するようになり、「どんぐり」の意味には「皁」(「皂」)を用いるようになった、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8D%89

形声文字です(艸+早)。「並び生えた草」の象形(「くさ」の意味)と「太陽の象形と人の頭の象形」(人の頭上に太陽があがりはじめる朝の意味から、「早い」の意味だが、ここでは、「艸(そう)」に通じ、「くさ」の意味)から、「くさ」を意味する「草」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji67.html

「艸」.gif


「艸」 中国最古の字書『説文解字』.png

(「艸」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%89%B8より)

「艸」(ソウ)は、

くさの並んで生え出るさまを表した字、「艹(くさかんむり)」の原形、

とありhttps://www.kanjipedia.jp/kanji/0004210000/

象形。草が並んで生えている形、

または、

「屮」(草の芽の出る様を象る)を並べた会意文字、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%89%B8

「枕」.gif


「枕」(慣用チン、漢音・呉音シン)は、「南枕」で触れたように、

会意兼形声。冘(イン・ユウ)は、人の肩や首を重荷でおさえて、下に押し下げるさま。古い字は、牛を川の中に沈めるさま。枕はそれを音符とし、木を加えた字で、頭でおしさげる木製のまくら、

とある(漢字源)。音符冘(イム)→(シム)と音変化したらしい(角川新字源)。別に、

会意形声。「木」+音符「冘」。「冘」は、H字形のもので押しつけ「沈」めることを意味。頭で押しつける木製のまくらを意味したものhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9E%95

会意兼形声文字です(木+冘)。「大地を覆う木」の象形と「人がまくらに頭を沈める」象形から、「(木製の)まくら」を意味する「枕」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji2133.html

等々の解釈もある。共通するのは、「木製のまくら」とである。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
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草枕


あさなけに見べき君としたのまねば思ひたちぬる草枕なり(古今和歌集)、

の、

草枕、

は、

くさのまくら(大辞林)、

つまり、

旅に、草を枕とすること(大言海)、

の意で、

草を結んで枕として野宿すること、

とある(広辞苑・岩波古語辞典)、

古へ、旅路の宿りに、、仮庵を作るを、草結ぶと云ひ、茅草などを束ねて枕としたり、

ということ(大言海)のようである。

笹枕(ささまくら)、
旅寝、
旅枕、
旅の仮寝、

ともいい、これが転じて、

草枕もみぢむしろに替へたらば心をくだくものならましや(後撰和歌集)、

と、

旅先でのわびしい宿泊や仮の宿、

を暗示したり、

さもこそは都のほかに宿りせめうたて露けき草まくらかな(後拾遺和歌集)、

と、

わびしい旅寝、

朝なけに見べき君とし頼まねば思ひ立ちぬるくさまくらなり(古今和歌集)、

と、

わびしい旅、

と、

旅寝、

あるいは、

旅、

の意で使われる(精選版日本国語大辞典)。この意の、

草枕、

が、転じて、

「たび(旅)」「むすぶ(結ぶ)」「ゆふ(結ふ)」「かり(仮)」「つゆ(露)」「たご(多胡)」、

等々にかかる、

枕詞、

として使わる(広辞苑)、たとえば、

久佐麻久良(クサマクラ)旅行く君を幸(さき)くあれと斎瓮(いはひへ)据ゑつ我が床の辺に(万葉集)、
家にあれば笥(ケ)に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る(仝上)、

と、

道の辺の草を枕にして寝る意で

旅、

にかかり、

草まくらこの旅寝にぞ思ひ知る月より外の友無かりけり(金葉和歌集)、

と、

「枕」の語に、寝るということとのつながりを感ずるところ、

からか、

旅寝、

にかかり、

草枕このたび経つる年月の憂きはかへりて嬉しからなん(後撰和歌集)、

と、


「旅(たび)」と同音の「たび(度)」または、それを含む連語、

にかかり、

草枕夕風寒くなりにけり衣うつなる宿や借らまし(新古今和歌集)、

と、

草の枕を「結ふ」意で、「結ふ」と同音の「ゆふ(夕)」を含む連語や地名「ゆふ山」、

等々にかかる(精選版日本国語大辞典)。

「草」.gif

(「草」 https://kakijun.jp/page/0965200.htmlより)

「草」(ソウ)の字は、「」で触れたが、

形声。「艸+音符早」。原義は、くぬぎ、またははんのきの実であるが、のち、原義は別の字であらわし、草の字を古くから艸の字に当てて代用する、

とある(漢字源・角川新字源)。別に、

形声。「艸」+音符「早」。「くさ」(cǎo)を意味する字は本来「艸」であり、「草」は「どんぐり」(zào)を意味したが、のちに「草」が「くさ」を意味するようになり、「どんぐり」の意味には「皁」(「皂」)を用いるようになった、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8D%89

形声文字です(艸+早)。「並び生えた草」の象形(「くさ」の意味)と「太陽の象形と人の頭の象形」(人の頭上に太陽があがりはじめる朝の意味から、「早い」の意味だが、ここでは、「艸(そう)」に通じ、「くさ」の意味)から、「くさ」を意味する「草」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji67.html

「艸」.gif


「艸」 中国最古の字書『説文解字』.png

(「艸」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%89%B8より)

「艸」(ソウ)は、

くさの並んで生え出るさまを表した字、「艹(くさかんむり)」の原形、

とありhttps://www.kanjipedia.jp/kanji/0004210000/

象形。草が並んで生えている形、

または、

「屮」(草の芽の出る様を象る)を並べた会意文字、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%89%B8

「枕」.gif


「枕」(慣用チン、漢音・呉音シン)は、「南枕」で触れたように、

会意兼形声。冘(イン・ユウ)は、人の肩や首を重荷でおさえて、下に押し下げるさま。古い字は、牛を川の中に沈めるさま。枕はそれを音符とし、木を加えた字で、頭でおしさげる木製のまくら、

とある(漢字源)。音符冘(イム)→(シム)と音変化したらしい(角川新字源)。別に、

会意形声。「木」+音符「冘」。「冘」は、H字形のもので押しつけ「沈」めることを意味。頭で押しつける木製のまくらを意味したものhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9E%95

会意兼形声文字です(木+冘)。「大地を覆う木」の象形と「人がまくらに頭を沈める」象形から、「(木製の)まくら」を意味する「枕」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji2133.html

等々の解釈もある。共通するのは、「木製のまくら」とである。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
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草枕


あさなけに見べき君としたのまねば思ひたちぬる草枕なり(古今和歌集)、

の、

草枕、

は、

くさのまくら(大辞林)、

つまり、

旅に、草を枕とすること(大言海)、

の意で、

草を結んで枕として野宿すること、

とある(広辞苑・岩波古語辞典)、

古へ、旅路の宿りに、、仮庵を作るを、草結ぶと云ひ、茅草などを束ねて枕としたり、

ということ(大言海)のようである。

笹枕(ささまくら)、
旅寝、
旅枕、
旅の仮寝、

ともいい、これが転じて、

草枕もみぢむしろに替へたらば心をくだくものならましや(後撰和歌集)、

と、

旅先でのわびしい宿泊や仮の宿、

を暗示したり、

さもこそは都のほかに宿りせめうたて露けき草まくらかな(後拾遺和歌集)、

と、

わびしい旅寝、

朝なけに見べき君とし頼まねば思ひ立ちぬるくさまくらなり(古今和歌集)、

と、

わびしい旅、

と、

旅寝、

あるいは、

旅、

の意で使われる(精選版日本国語大辞典)。この意の、

草枕、

が、転じて、

「たび(旅)」「むすぶ(結ぶ)」「ゆふ(結ふ)」「かり(仮)」「つゆ(露)」「たご(多胡)」、

等々にかかる、

枕詞、

として使わる(広辞苑)、たとえば、

久佐麻久良(クサマクラ)旅行く君を幸(さき)くあれと斎瓮(いはひへ)据ゑつ我が床の辺に(万葉集)、
家にあれば笥(ケ)に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る(仝上)、

と、

道の辺の草を枕にして寝る意で

旅、

にかかり、

草まくらこの旅寝にぞ思ひ知る月より外の友無かりけり(金葉和歌集)、

と、

「枕」の語に、寝るということとのつながりを感ずるところ、

からか、

旅寝、

にかかり、

草枕このたび経つる年月の憂きはかへりて嬉しからなん(後撰和歌集)、

と、


「旅(たび)」と同音の「たび(度)」または、それを含む連語、

にかかり、

草枕夕風寒くなりにけり衣うつなる宿や借らまし(新古今和歌集)、

と、

草の枕を「結ふ」意で、「結ふ」と同音の「ゆふ(夕)」を含む連語や地名「ゆふ山」、

等々にかかる(精選版日本国語大辞典)。

「草」.gif

(「草」 https://kakijun.jp/page/0965200.htmlより)

「草」(ソウ)の字は、「」で触れたが、

形声。「艸+音符早」。原義は、くぬぎ、またははんのきの実であるが、のち、原義は別の字であらわし、草の字を古くから艸の字に当てて代用する、

とある(漢字源・角川新字源)。別に、

形声。「艸」+音符「早」。「くさ」(cǎo)を意味する字は本来「艸」であり、「草」は「どんぐり」(zào)を意味したが、のちに「草」が「くさ」を意味するようになり、「どんぐり」の意味には「皁」(「皂」)を用いるようになった、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8D%89

形声文字です(艸+早)。「並び生えた草」の象形(「くさ」の意味)と「太陽の象形と人の頭の象形」(人の頭上に太陽があがりはじめる朝の意味から、「早い」の意味だが、ここでは、「艸(そう)」に通じ、「くさ」の意味)から、「くさ」を意味する「草」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji67.html

「艸」.gif


「艸」 中国最古の字書『説文解字』.png

(「艸」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%89%B8より)

「艸」(ソウ)は、

くさの並んで生え出るさまを表した字、「艹(くさかんむり)」の原形、

とありhttps://www.kanjipedia.jp/kanji/0004210000/

象形。草が並んで生えている形、

または、

「屮」(草の芽の出る様を象る)を並べた会意文字、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%89%B8

「枕」.gif


「枕」(慣用チン、漢音・呉音シン)は、「南枕」で触れたように、

会意兼形声。冘(イン・ユウ)は、人の肩や首を重荷でおさえて、下に押し下げるさま。古い字は、牛を川の中に沈めるさま。枕はそれを音符とし、木を加えた字で、頭でおしさげる木製のまくら、

とある(漢字源)。音符冘(イム)→(シム)と音変化したらしい(角川新字源)。別に、

会意形声。「木」+音符「冘」。「冘」は、H字形のもので押しつけ「沈」めることを意味。頭で押しつける木製のまくらを意味したものhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9E%95

会意兼形声文字です(木+冘)。「大地を覆う木」の象形と「人がまくらに頭を沈める」象形から、「(木製の)まくら」を意味する「枕」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji2133.html

等々の解釈もある。共通するのは、「木製のまくら」とである。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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草枕


あさなけに見べき君としたのまねば思ひたちぬる草枕なり(古今和歌集)、

の、

草枕、

は、

くさのまくら(大辞林)、

つまり、

旅に、草を枕とすること(大言海)、

の意で、

草を結んで枕として野宿すること、

とある(広辞苑・岩波古語辞典)、

古へ、旅路の宿りに、、仮庵を作るを、草結ぶと云ひ、茅草などを束ねて枕としたり、

ということ(大言海)のようである。

笹枕(ささまくら)、
旅寝、
旅枕、
旅の仮寝、

ともいい、これが転じて、

草枕もみぢむしろに替へたらば心をくだくものならましや(後撰和歌集)、

と、

旅先でのわびしい宿泊や仮の宿、

を暗示したり、

さもこそは都のほかに宿りせめうたて露けき草まくらかな(後拾遺和歌集)、

と、

わびしい旅寝、

朝なけに見べき君とし頼まねば思ひ立ちぬるくさまくらなり(古今和歌集)、

と、

わびしい旅、

と、

旅寝、

あるいは、

旅、

の意で使われる(精選版日本国語大辞典)。この意の、

草枕、

が、転じて、

「たび(旅)」「むすぶ(結ぶ)」「ゆふ(結ふ)」「かり(仮)」「つゆ(露)」「たご(多胡)」、

等々にかかる、

枕詞、

として使わる(広辞苑)、たとえば、

久佐麻久良(クサマクラ)旅行く君を幸(さき)くあれと斎瓮(いはひへ)据ゑつ我が床の辺に(万葉集)、
家にあれば笥(ケ)に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る(仝上)、

と、

道の辺の草を枕にして寝る意で

旅、

にかかり、

草まくらこの旅寝にぞ思ひ知る月より外の友無かりけり(金葉和歌集)、

と、

「枕」の語に、寝るということとのつながりを感ずるところ、

からか、

旅寝、

にかかり、

草枕このたび経つる年月の憂きはかへりて嬉しからなん(後撰和歌集)、

と、


「旅(たび)」と同音の「たび(度)」または、それを含む連語、

にかかり、

草枕夕風寒くなりにけり衣うつなる宿や借らまし(新古今和歌集)、

と、

草の枕を「結ふ」意で、「結ふ」と同音の「ゆふ(夕)」を含む連語や地名「ゆふ山」、

等々にかかる(精選版日本国語大辞典)。

「草」.gif

(「草」 https://kakijun.jp/page/0965200.htmlより)

「草」(ソウ)の字は、「」で触れたが、

形声。「艸+音符早」。原義は、くぬぎ、またははんのきの実であるが、のち、原義は別の字であらわし、草の字を古くから艸の字に当てて代用する、

とある(漢字源・角川新字源)。別に、

形声。「艸」+音符「早」。「くさ」(cǎo)を意味する字は本来「艸」であり、「草」は「どんぐり」(zào)を意味したが、のちに「草」が「くさ」を意味するようになり、「どんぐり」の意味には「皁」(「皂」)を用いるようになった、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8D%89

形声文字です(艸+早)。「並び生えた草」の象形(「くさ」の意味)と「太陽の象形と人の頭の象形」(人の頭上に太陽があがりはじめる朝の意味から、「早い」の意味だが、ここでは、「艸(そう)」に通じ、「くさ」の意味)から、「くさ」を意味する「草」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji67.html

「艸」.gif


「艸」 中国最古の字書『説文解字』.png

(「艸」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%89%B8より)

「艸」(ソウ)は、

くさの並んで生え出るさまを表した字、「艹(くさかんむり)」の原形、

とありhttps://www.kanjipedia.jp/kanji/0004210000/

象形。草が並んで生えている形、

または、

「屮」(草の芽の出る様を象る)を並べた会意文字、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%89%B8

「枕」.gif


「枕」(慣用チン、漢音・呉音シン)は、「南枕」で触れたように、

会意兼形声。冘(イン・ユウ)は、人の肩や首を重荷でおさえて、下に押し下げるさま。古い字は、牛を川の中に沈めるさま。枕はそれを音符とし、木を加えた字で、頭でおしさげる木製のまくら、

とある(漢字源)。音符冘(イム)→(シム)と音変化したらしい(角川新字源)。別に、

会意形声。「木」+音符「冘」。「冘」は、H字形のもので押しつけ「沈」めることを意味。頭で押しつける木製のまくらを意味したものhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9E%95

会意兼形声文字です(木+冘)。「大地を覆う木」の象形と「人がまくらに頭を沈める」象形から、「(木製の)まくら」を意味する「枕」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji2133.html

等々の解釈もある。共通するのは、「木製のまくら」とである。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
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2024年02月17日


夕暮れの籬(まがき)は山と見えななむ夜は越えじと宿りとるべく(古今和歌集)、

の、

ななむ、

は、

完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」とあつらえのぞむ意の助詞「なむ」、

籬(まがき)、

は、

柴などで編んだ粗末な垣根、

とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。和名類聚抄(平安中期)に、

籬、末加岐、一云、末世、以柴作之

字鏡(平安後期頃)には、

稱、曼世、

とあり、

籬、

は、

ませ、

とも訓ませ、

ませがき(籬垣・閒狭垣)、

ともいい(広辞苑・大言海)、

竹・柴などを粗く編んでつくった垣、

で(仝上)、

ませごし(籬越・馬柵越)、

という言葉があり、

籬垣(ませがき)を越えて、品物を授受したりなどすること、

あるいは、

馬柵(ませ)を越えて物事をすること、

という意味のように、

低く目のあらい垣、

のようである(仝上)。

籬(まがき)、

は、近世になって、

柵、

とも当て、

名におふ嶋原や、籬(マガキ)のかいまみに首尾をたどらぬはなし(仮名草子・都風俗鑑)、

と、

新吉原のの入口の土間と張見世(みせ)の間を仕切る格子戸、またはその張見世、

の意で使われるに至る(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。

まがき(籬)の由来は、

閒垣の義、閒閒を隔つる意(大言海)、
間垣の義(名語記・言元梯・名言通・和訓栞・本朝辞源=宇田甘冥)、
マヘガキ(前垣)の略か(万葉代匠記・日本釈名・北辺随筆・和訓栞)、
メカキ(目垣)の略(名語記・日本語原学=林甕臣)、
馬垣の義(箋注和名抄)、

ませ(籬)の由来は、

「間塞」または「馬塞」の意という(広辞苑)、
マ(間)セ(塞)の意(岩波古語辞典)、
「間狭ませ」の意か(デジタル大辞泉)、
閒狭の義と云ふ、或は云ふ馬塞の義(大言海)、
馬塞の義(万葉考・言元梯・日本語源=賀茂百樹)
ムマサエまたムマサケ(馬礙)の反(名語記)、

とある。どれかとする決め手はない。

間、

ともとれるし、それが、

狭い、

とも、
塞ぐ、

ともとれるが、共通する、

馬塞、

にちょっと惹かれるが。

ちなみに、垣の種類について、籬の他に、

我が背子に恋ひすべながり安之可伎能(アシカキノ)ほかに歎(なげ)かふ我(あれ)しかなしも(万葉集)、

の、

葦垣(あしがき)は葦で編んだ垣、

しばつち、あみたれじとみ、めぐりはひがき、ながや一つ、さぶらひ(宇津保物語)、

の、

檜垣(ひがき)はヒノキの薄板を網代(あじろ)のように編んだものを木製の枠に張ったもの、

所どころの立蔀 (たてじとみ) 、すいがきなどやうのもの、乱りがはし(枕草子)、

の、

透垣(すいがき)は割竹を縦に編むように木製の枠に張ったもの、

行くへも遠き山陰の、ししがきの道の険 (さが) しきに(謡曲・紅葉狩)、

の、

鹿垣(ししがき)は枝つきの木を人字形に組んだ柴垣、

大君の 御子の志婆加岐(シバカキ) 八節結(やふじま)り 結(しま)り廻(もとほ)し 截(き)れむ志婆加岐(シバカキ) 焼けむ志婆加岐(シバカキ)(古事記)、

の、

柴垣(しばがき、古くは「しばかき」)は柴木を編んで作った垣根、

門柱に椿井民部(つはゐみんぶ)と筆太に張札して、菱垣(ヒシカキ)のかりなる風情(浮世草子・武道伝来記)、

の、

菱垣(ひしがき)は割り竹をひしがたに組んで結った垣、

下手に建仁寺垣・竹の素戸(歌舞伎・お染久松色読販)、

の、

建仁寺垣(けんにんじがき)は、京都の建仁寺で初めて用いたという形式で、四つ割り竹を皮を外にして平たく並べ、竹の押縁(おしぶち)を横にとりつけ縄で結んだ垣、

等々がある(世界大百科事典・広辞苑・精選版日本国語大辞典)。

「籬」.gif


「籬」(リ)は、

会意兼形声。「竹+音符離(リ 別々のものをくっつける)」、

とある。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
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2024年02月18日

都鳥


名にしおはばいざこととはむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと(古今和歌集)、

の、

詞詞に、

白き鳥のはしと足と赤き、川(隅田川)のほとりにあそびけり、京には見えぬ鳥なりければ、みな人見知らず、

とある。これは、『伊勢物語』九段の、

なほ行き行きて、武蔵の国と下つ総の国との中に、いと大きなる河あり。それを隅田河といふ。その河のほとりにむれゐて、思ひやれば、かぎりなく遠くも来にけるかな、と、わびあへるに、渡守、「はや舟に乗れ、日も暮れ暮れぬ」と言ふに、乗りて、渡らむとするに、みな人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。さるをりしも、白き鳥の、はしとあしと赤き、鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ魚を食ふ。京には見えぬ鳥なれば、みな人見知らず。渡守に問ひければ、「これなむ都鳥」と言ふを聞きて、
名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと
とよめりければ、舟こぞりて泣きにけり。

とそのままで(石田穣二訳注『伊勢物語』)、物語の文章を直接取り込んだ印象がある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)とある。この、

都鳥、

は、

チドリ科のミヤコドリ

とするものと、

カモメ科のユリカモメ

とするものとに説が分かれる(仝上)。

ミヤコドリ(都鳥、学名: Haematopus ostralegus)、

は、

チドリ目ミヤコドリ科、

に分類されhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%A4%E3%82%B3%E3%83%89%E3%83%AA)

全長45cm。赤白黒の目立つ色彩のチドリの仲間、メスオス同色です。頭から背、翼の上面は黒色で腹は白色。飛行時には翼に太い白帯が出るほか、腰は白色。尾も白く、黒い帯があります。くちばしは赤色で、太く見えますが、正面から見ると上下くちばしとも横から押されたように薄い形。脚は桃赤色。群性があり、同種でばかり群をつくっていることが多い、

とあるhttps://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/4617.htmlが、かつては旅鳥または冬鳥としてふつうに見られたが、近年は非常に少ない(精選版日本国語大辞典)という。

ユリカモメ (百合鴎、学名:Chroicocephalus ridibundus)、

は、

チドリ目カモメ科、

に分類されhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%83%A2%E3%83%A1

全長40cm。冬鳥として、全国の河、河口、湖沼、海岸に至る水辺に来ます。赤いくちばしと足がきれいな小型のカモメの仲間で、水上に群がる姿は白い花が一面に咲いたようです、

とありhttps://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1506.html

カモメ類ではいちばん内陸にまで飛来する鳥で、海岸から数10キロも入った川岸の街や牧草地でエサをあさったりしています、

という(仝上)。大きさは、

カモメ・ウミネコより小さく、あしとくちばしが黄色でなく赤色なので区別できる。冬羽は背が淡い灰青色、耳羽が褐色を呈するほかは白色。夏羽では頭部全体が黒褐色になる、

とある(精選版日本国語大辞典)。

ミヤコドリ.jpg


ユリカモメ、冬羽.jpg


白き鳥の、はしとあしと赤き、鴫の大きさなる、水の上に遊びつつ魚を食ふ。京には見えぬ鳥、

とあるので、

ゆりかもめ、

と目されている。

冬鳥で、水辺に棲み、くちばしとあしが赤いという点で共通するが、体色、体形、食物等は異なる、

として(日本語源大辞典)、

ユリカモメ、

に照応し、順徳天皇が著した歌論書『八雲御抄』(1221)にも、

城鳥 すみだ川ならでも、ただ京ちかき河にも有、白とりのはしあかき也、

も、そう解している。なお、

現在の京都ではユリカモメは鴨川などで普通に見られるありふれた鳥であるが、鴨川に姿を見せるようになったのは、1974年のことである。それ以前は「京には見えぬ鳥」であった、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%83%A2%E3%83%A1。また、食性も、「ミヤコドリ」が、

カキなどの貝類を食べる、

のにたいして、「ユリカモメ」は、

近くに水草が生えている河川や池では昆虫や雑草の種子などを食べ、港では不要な捨てられた魚を食べ、時には人の食べ物や売られている魚を横取りすることも少なくない、

と異なる(仝上)。万葉集の、

船競ふ堀江の川の水際に来ゐつつ鳴くは美夜故杼里(ミヤコドリ)かも、

も、同様、

ユリカモメ、

と目されている。

ユリカモメ、

の由来は、

ユリの花のように美しいところからとする説、
イリエカモメ(入江鴎)」が転じたとする説、
「ユリ」は「のち・あと(後)」を意味する古語説、

等々があり(語源由来辞典)、

ミヤコドリ、

の由来は、

ミヤ小鳥の義、ミヤは鳴き声ミヤミヤから(松屋筆記)、
ミメアテヤカトリ(容貌貴鳥)の義(日本語原学=林甕臣)、

等々がある(日本語源大辞典)が、確定しがたい。「ミヤコドリ」の鳴き声は、

「ギィー」とか「ギュゥーィ」と聞こえる、

とあるhttps://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1506.htmlので、ちょっと違うようだ。

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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2024年02月19日

たうぶ


ふたみの浦といふ所に泊まりて、夕さりのかれいひたうべけるに(古今和歌集)、

の、

かれいひ、

は、

乾飯、

と当て(学研全訳古語辞典)、

米を蒸してかためたもの、旅の携行食で、水や湯で戻して食べる、

とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

たうぶ、

は、

食ぶ、

と当て、

いただく、

意である(仝上)。

たうぶ、

は、

賜ぶ、
給ぶ、
食ぶ、

などと当て(学研全訳古語辞典・岩波古語辞典)、

賜ふの転、いただく意(岩波古語辞典)、
「たまふ」から変化した語で同じ系統に「たぶ」がある。「たうぶ」は、おもに中古に用いられた語で「たまふ」よりは敬意の度合いがやや低い。男性言葉である(学研全訳古語辞典)、
食ぶの延、食ぶは賜ぶの転、賜ぶは給ふに同じ(大言海)、

等々とあり、

給ふ→たうぶ→たんぶ→たぶ、

と変化したhttps://hohoemashi.com/tabu/ともある。

たまふ」で触れたように、「たまふ」は、

目下の者の求める心と、目上の者の与えようとする心とが合わさって、目上の者が目下の者へ物を与えるという意が原義、転じて、目上の者の好意に対する目下の者の感謝・敬意を表す、

(目下の者に)お与えになる、
(慣用句として「いざ~賜へ」と命令形で)是非どうぞ、是非~してください(見給へ、来給へ)、

意の他動詞(岩波古語辞典)と、それが、

タマ(魂)アフ(合)の約か。(求める)心と(与えたいと思う)心とが合う意で、それが行為として具体的に実現する意。古語では、「恨み」「憎しみ」「思ひ」など情意に関する語は、心の内に思う意味が発展して、それを外に具体的行動として表す意味を持つ、

助動詞として、動詞の意味の外延を引きずって、

天皇が自己の動作につけて用いる。天皇は他人から常に敬語を使われる位置にあるので、自分の動作にも敬語を用いたもの、

として、

~してつかわす(「「労(ね)ぎたまふ」)、

意と、さらに、

~してくださる(「いざなひたまひ」)、

と、目上の者の行為に対する感謝・敬意をあらわし、また、

~なさる(「位につきたまふ」)、

と、広く動作に敬意を表す(仝上)使い方をする。助動詞「たまふ」は、

元来、ものを下賜する意で、それが動詞連用形(体言の資格をもつ)を承けるように用法が拡大されて、「選び玉ヒデ」「御心をしづめたまふ」などと用い、奈良時代以後ずっと使われた。そこから、相手の動作に対する尊敬の助動詞へと転用されていったものと考えられる。つまり相手の動作を相手が(自分などに対して)下賜するものとして把握し表現したのである。
平安時代になると、単独の「たまふ」よりも一層厚い敬意を表す表現として、……使役の「す」「さす」「しむ」と、「たまふ」とを組み合わせる形が発達した。「せ給ふ」「させ給ふ」「しめ給ふ」という形式…である。それは、「~おさせになる」という、人を使役する行為を貴人が下賜することを意味し、その意味で使われた例も多く存在する。しかし、貴人自身の行為であっても、それを侍者にさせるという表現を用いることによって単に「~し給ふ」と表現するよりも一層厚い敬意を表すこととになったものである、

とある(仝上)。さらに、「たまふ」には、

タマフの受動形。のちにタブ(食)に転じる語、

である下二段動詞として、

(飲み物などを)いただく、
主として自己の知覚を表す動詞「思ふ」「聞く」「知る」「見る」などの連用形について、思うこと、聞くこと、知ること、見ることを(相手から)いただく意を表し、謙譲語、

として、

伺う、
拝見する、

等々の意としても使う。尊敬語(下さる)の受け身なのだから、謙譲語(していただく)になるのは、当然かもしれない。

食べる」で触れたように、「たまふ」と同義の、

たぶ(賜)、
たうぶ(賜)、

があり、「たぶ」は、

タマフの轉、

であり(岩波古語辞典)、「たうぶ」も、

「たまふ」あるいは「たぶ」の音変化で、主として平安時代に用いた、

とあり、「たぶ」も、

「たまふ」の訛ったもので、

tamafu→tamfu→tambu→tabu

という転訛と思われる(岩波古語辞典)。で、大言海は、「たうぶ」を、

たうぶ(賜) たぶ(賜、四段)の延、賜ふ意、
たうぶ(給) たぶ(給、四段)の延、他の動作に添えて云ふ語、
たうぶ(給) 上二段、仝上の意、
たうぶ(食) たぶ(食、下二段)の延、

と四項に分ける。それは、「たぶ」が、

たぶ(賜・給、自動四段) 君、親、又饗(あるじ)まうけする人より賜るに就きて、崇め云ふ語、音便にたうぶ、
たぶ(賜、他動四段) たまふに同じ、
たぶ(食、他動四段) 賜ぶの転、食ふ、

とある(仝上)のと対応する。もともと自動詞の「たぶ」自体に、

飲み食ふの敬語、

の用例があるので、その意味が、

謙譲語、

としての「食ぶ」の用法につながっていくとも見え、

下二段の活用の「たまふ(給)」と同じく、本来は「いただく」の意であるが、特に、「飲食物をいただく」場合に限定してもちいられる、

にいたる(日本語源大辞典)。

なお、「たぶ(賜・給、自動四段)」にある「饗(あるじ)まうけ」とは、「あるじ(主・主人)」は、

客人(まらうど)に対して云ふが元なり、饗応を、主設(あるじまうけ)と云ふ、

の意味である(大言海)。「たぶ」は、「たまふ」の、

たまふ(賜、他動四段) 授ける、与えるの敬語、
たまふ(給、自動四段) 他の動作の助詞に、敬語として言ひ添ふる、
たまふ(自動下ニ) 己れが動作の動詞に、敬語として言ひ添ふる語、

と対応して(大言海)、

賜ぶ→食ぶ→食べる、

という転訛になる。

なお、「食う」については触れた。

「食」.gif



「食」 甲骨文字・殷.png

(「食」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%A3%9F

「食」(①漢音ショク、呉音ジキ、②漢音シ、呉音ジ、③漢・呉音イ)は、「食う」で触れたように、

会意。「あつめて、ふたをするしるし+穀物を盛ったさま」をあわせたもの。容器に入れて手を加え、柔らかくして食べることを意味する、

とある(漢字源)。「飲食」「食糧」「断食」「配食」「日食」などが、①の音、「飲之食之(コレニ飲マセコレニ食ラハス)(詩経)、「一簞食、一瓢飲」(論語)等々は、②の音、「審食其(シンイキ)」は、③の音、人名に用いる、とある(仝上)。別に、

象形文字です。「食器に食べ物を盛り、それに蓋(ふた)をした象形」から「たべる」を意味する「食・飠・𩙿」という漢字が成り立ちました、

ともhttps://okjiten.jp/kanji346.html

象形。容器に食物を盛り(=㿝)、上からふたをしたさま(=亼)にかたどり、食物、ひいて「くう」意を表す、

とも(角川新字源)あるが、

「亼」を食器の蓋を象ったものと解釈する説もあるが、甲骨文字において食器の蓋は「亼」とは描かれない、また「亼」は「口」を上下反転させたもので、「食器の蓋」は誤った解釈である、

として、

会意。「亼 (口)」+「皀 (たべものを盛った食器)」。食べ物を食べるさまを象る。「たべる」を意味する漢語{食 /*mlək/}を表す字、

としているhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%A3%9F

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
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2024年02月20日

玉匣(たまくしげ)


夕月夜(ゆふづくよ)おぼつかなきを玉くしげふたみの浦はあけてこそ見め(古今和歌集)

玉くしげ、

は、

櫛などを入れる箱、

で、

蓋にかかる枕詞、

とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

玉櫛笥、

とも当て、

たま、

は、接頭語、歌語として使われ、

をとめらが珠篋(たまくしげ)なる玉櫛の神さびけむも妹(いも)に逢はずあれば(万葉集)、
ふた方に言ひもてゆけば玉くしけ我が身離れぬかけごなりけり(源氏物語)、

など、

美称、

として使われ、

櫛(くし)などの化粧道具を入れる美しい箱、

の意(学研全訳古語辞典)で、

くしばこ、

ともいう、

くしげ、

の美称ということになる(広辞苑)が、

玉飾りのある櫛笥(くしげ)、

の意が転じて、

女の持つ手箱の美称、

となった(岩波古語辞典)ともあり、

たま、

は、

霊魂を意味し、神仙としての霊性とかかわりのある箱の意、

ともある(仝上)。

たま(魂・魄)」で触れたように、

「たま」は、

魂、
魄、
霊、

と当てるが、「たま(玉・珠)」で触れたように、

玉、
球、
珠、

とも当て、

球体・楕円体、またはそれに類した形のもの、

をいうが、もともと、

たま(玉・珠)、

は、

タマ(魂)と同根。人間を見守りたすける働きを持つ精霊の憑代となる、丸い石などの物体が原義、

とある(岩波古語辞典)。依り代の「たま(珠)」と依る「たま(魂)」というが同一視されたということであろうか。

呪術・装飾などに用いる美しい石、宝石、

であり、

特に真珠、

を指し、転じて、

美しいもの、
球形をしたもの、

と意味が広がったと見られる。

なお、形の丸については「まる」で触れたように、「まる」「まどか」という言葉が別にあり、

中世期までは「丸」は一般に「まろ」と読んだが、中世後期以降、「まる」が一般化した。それでも『万葉-二〇・四四一六』の防人歌には「丸寝」の意で「麻流禰」とあり、『塵袋-二〇』には「下臈は円(まろき)をばまるうてなんどと云ふ」とあるなど、方言や俗語としては「まる」が用いられていたようである。本来は、「球状のさま」という立体としての形状を指すことが多い、

とあり(日本語源大辞典)、更に、

平面としての「円形のさま」は、上代は「まと」、中古以降は加えて、「まどか」「まとか」が用いられた。「まと」「まどか」の使用が減る中世には、「丸」が平面の意をも表すことが多くなる、

と(仝上)、本来、

「まろ(丸)」は球状、
「まどか(円)」は平面の円形、

と使い分けていた。やがて、「まどか」の使用が減り、「まろ」は「まる」へと転訛した「まる」にとってかわられた。『岩波古語辞典』の「まろ」が球形であるのに対して、「まどか(まとか)」の項には、

ものの輪郭が真円であるさま。欠けた所なく円いさま、

とある。平面は、「円」であり、球形は、「丸」と表記していたということなのだろう。漢字をもたないときは、「まどか」と「まる」の区別が必要であったが、「円」「丸」で表記するようになれば、区別は次第に薄れていく。いずれも「まる」で済ませた。

とすると、本来「たま」は「魂」で、形を指さなかった。魂に形をイメージしなかったのではないか。それが、

丸い石、

を精霊の憑代とすることから、その憑代が「魂」となり、その石をも「たま」と呼んだことから、その形を「たま」と呼んだと、いうことのように思える。その「たま」は、単なる球形という意味以上に、特別の意味があったのではないか。

たま、

は、

魂、
でもあり、
依代、

でもある。何やら、

神の居る山そのものがご神体、

となったのに似ているように思われる。しかし憑代としての面影が消えて、形としては、「たま」は、「丸」とも「円」とも差のない「玉」となった。しかし、

掌中の珠、

とは言うが、

掌中の丸、

とは言わない。かすかにかつての含意の翳が残っている。

さて、そうした陰影のある「たま」の美称をもつ、

玉匣(たまくしげ)、

は、

枕詞、

に転じ、

くしげを開く、

意から、

吾が思ひを人に知るれや玉匣(たまくしげ)開きあけつと夢(いめ)にし見ゆる(万葉集)、

と、

「ひらく」「あく」に、

珠匣(たまくしげ)蘆城の河を今日見ては万代(よろづよ)までに忘らえめやも(万葉集)、

と、

「開(あく)」の「あ」と同音を含む地名「あしき」に、

かかり、

くしげの蓋(ふた)をする、

意から、

玉匣(たまくしげ)覆ふをやすみ明けていなば君が名はあれど吾が名し惜しも(万葉集)、

と、

「おほふ」に、

かかり、

くしげの蓋、

の意から、「ふた」と同音の、

ぬばたまの夜はふけぬらし多末久之気(タマクシゲ)二上山に月傾きぬ(万葉集)、

と、

地名「二上山」「二見」「二村山」、

ほととぎす鳴くや五月(さつき)のたまくしげ二声聞きて明くる夜もがな(新勅撰和歌集)、

と、

「二年(ふたとせ)」「二声」「二尋(ふたひろ)」「二つ」、

などを含む語にかかり、

くしげの身の、

意から、

玉匣(たまくしげ)みもろの山のさなかづらさ寝ずは遂にありかつましじ(万葉集)、

と、

「身」と同音を含む「三諸(みもろ)」「三室戸(みむろと)」「恨み」に、

かかる。一説に、くしげを開けて見る意で、「見」と同音を含む語にかかるともいう。また、

くしげの箱、

の意から、

たまくしげ箱の浦波立たぬ日は海を鏡と誰か見ざらん(土佐日記)、

と、

「箱」と同音または同音を含む地名「箱根」、または「箱」、

などにかかり、

たまくしげかけごに塵もすゑざりし二親ながらなき身とを知れ(金葉集)、

と、

くしげと縁の深いものとして「掛子(かけご)」にかかり、また、鏡と同音の地名「鏡の山」、

にかかり、

大切なもの、

の意で、

あきづはの袖振る妹を珠匣(たまくしげ)奥に思ふを見給へ吾が君(万葉集)、

と、

奥に思ふ、

にかかり、

くしげが美しい、

の意から、

玉匣かがやく国、苫枕(こもまくら)宝ある国(播磨風土記逸文)、

と、

「輝く」にかかる(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)。

なお、

玉匣、

を、

ぎょっこう、

と読むと、漢語で、

宝玉で装飾した箱、

をいい、

玉手箱、
鏡箱(かがみばこ)、

ともいう(精選版日本国語大辞典)。

「匣」.gif


「匣」(漢音コウ、呉音ギョウ、慣用ゴウ)は、「」で触れたように、

会意兼形声。甲(コウ)は、ぴったりと蓋、または覆いのかぶさる意を含む。からだにかぶせるよろいを甲といい、水路にかぶせて流れを塞ぐ水門を閘(コウ)という。匣は、「匚(かごい)+音符甲」で、ふたをかぶせるはこ、

とある(漢字源)。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

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2024年02月21日

つづり


手向けにはつづりの袖もきるべきに紅葉に飽ける神や返さむ(古今和歌集)、

の、

つづり、

は、

布地を継ぎあわせて作った着物、

の意で、転じて、

粗末な着物、
僧衣、

の意とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

つづれ(綴れ・襤褸)、

ともいう(精選版日本国語大辞典)が、この動詞、

つづる(綴)、

は、

つづら(葛)と同根、

とあり(岩波古語辞典)、「つづら」は、

綴葛(ツラツラ)の約にて、組み綴るより云ふ、

で(大言海)、「つづる」は、

蔓(繊維)を突き通して物を縫い合わせる、

意で(岩波古語辞典)、

同類のものを二つ以上つぎ合わせる、

意とある(精選版日本国語大辞典)。で、

手を以て衣を縫(ツツリ)き(「大智度論平安初期点(850頃)」)、

と、

糸などで二つ以上のものをつなぎ合わせて布地や衣服にする、また、欠けたり破れたりした所をつぎ合わせる、

意や、

障子をつづりて倹約をしめしたるは時頼の母とかや(「俳諧・類船集(1676)」)、

と、

布、紙などをつぎ合わせる、

意で使い、それを広く、

紙を糸・紐などでとじる、とじ合わせる、

意でも、それをメタファに、

コトバヲ tçuzzuru(ツヅル)(「日葡辞書(1603~04)」)、

ことばを組み合わせて文を作る、
また、
文章に書き表わす、

意や、

さるによりて、他力の本願にほこりて、いよいよ悪をつづり、首題の超過をよりどころとして仏をそしり他をなみす(談義本「艷道通鑑(1715)」)、

と、

ある行為や物事をとぎれなくつづける、

意でも使う(精選版日本国語大辞典)。この連用形の名詞形が、

つづり、

だから、

此等は外穢内浄の句なるべし。たとへば、金(こがね)をつづりに裹(つつ)みたるごとし(「ささめごと(1463~64頃)」)、

と、

布きれをつぎ合わせたもの、

をさし、そこから、

粗末な衣服、
ぼろぼろの着物、

となり、さらに、上記引用のように、

種々のきれをつぎ合わせてつくった袈裟、

または、

法衣、

をも指す。

「綴」.gif



「綴」 説文解字・漢.png

(「綴」 説文解字・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%B6%B4

「綴」(漢音テイ・テツ、呉音タイ・テチ)は、

会意兼形声。叕(テツ)は断片をつなぎ合わせるさまを描いた象形文字。綴はそれを音符とし、糸を加えた字で、糸で綴り合せることを示す、

とある(漢字源)。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

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2024年02月22日

とよむ


來べきほど時すぎぬれや待ちわびて鳴くなる人をとよむる(古今和歌集)、

の、

とよむ、

は、

音や声を鳴り響かせる、

意とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

どよむ(響)」で触れたように、今日の「どよむ」は、色葉字類抄(平安末期)に、

動、とよむ、

とあり、平安時代までは、

とよむ、

と清音で、

「どよむ」に変わったのは、平安中期以後

とされ(日本語源大辞典)、

響む、
動む、
響動む、

等々と当てる(広辞苑・岩波古語辞典・日本語源大辞典・大言海)。

「とよむ」の「とよ」は、

擬声語(広辞苑)、
擬音語(岩波古語辞典)、
音の鳴り響く義(大言海)、

の、

動詞化、

とあり(広辞苑)、古くは、

雷神(なるかみ)の少しとよみて降らずとも我はとまらむ妹しとどめば(万葉集)、

と、

鳴り響く、響き渡る、

意や、

さ野つ鳥雉(きぎし)は登与牟(トヨム)(古事記・歌謡)、

と、

鳥獣の鳴き声が鳴り響く、

意のように、

人の聲よりはむしろ、鳥や獣の声や、波や地震の鳴動など自然現象が中心であったのに対して、濁音化してからは、主として人の声の騒がしく鳴り響くのに用いられるようになった、

とある(日本語源大辞典)。

とよむ、

には、上述の、

雷神なるかみの少しとよみて降らずとも我はとまらむ妹しとどめば(万葉集)、

と、

鳴なり響ひびく、
大声おおごえをあげ騒さわぐ、

意の、自動詞で、マ行四段活用の、

語幹(とよ)未然形(ま)連用形(み)終止形(む)連体形(む)已然形(め)命令形(め)

と、

恋ひ死なば恋ひも死ねとやほととぎす物思もふ時に来鳴きとよむる(万葉集)、

と、

鳴り響かせる、
とよもす、
どよむ、

意の、他動詞、マ行下二段活用の、

語幹(とよ)未然形(め)連用形(め)終止形(む)連体形(むる)已然形(むれ)命令形(めよ)

とがある(大言海・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%A8%E3%82%88%E3%82%80・広辞苑)。

「響」.gif

(「響」 https://kakijun.jp/page/2014200.htmlより)

「響」(漢音キョウ、呉音コウ)は、「どよむ(響)」で触れたように、

会意兼形声。卿(郷 ケイ)は「人の向き合った姿+皀(ごちそう)」で、向き合って会食するさま。饗(キョウ)の原字。郷は「邑(むらざと)+音符卿の略体」の会意兼形声文字で、向き合ったむらざと、視線や方向が空間をとおって先方に伝わる意を含む。響は「音+音符卿」で、音が空気に乗って向こうに伝わること、

とある(漢字源)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

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2024年02月23日

うつせみ


ありと見てたのむぞかたき空蝉の世をばなしとや思ひなしてむ(古今和歌集む)

は、

世をばなしとや、

で、

をばな、

を詠みこんでいる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。この、

空蝉(うつせみ)、

は、

世の枕詞、

として使われている。

うつせみ、

は、

ウツシ(現)オミ(臣)の約ウツソミが更に転じたもの。「空蝉」は当て字、

とあり、

打蝉(うつせみ)と思ひし妹がたまかぎるほのかにだにも見えなく思へば(万葉集)、

と、

この世に生きている人、
生存している人間、

の意で、

うつしおみ、
うつそみ、

ともいい、また、

香具山は畝火(うねび)雄々(をを)しと耳成(みみなし)と相(あひ)争ひき神代よりかくにあるらし古(いにしえ)もしかにあれこそうつせみも妻を争ふらしき(万葉集)、

と、

この世、
現世、

また、
世間の人、
世人、

の意で、

うつそみ、

ともいう(精選版日本国語大辞典・広辞苑)。

セミの抜け殻.jpg

(セミの抜け殻 学研国語辞典より)

空蝉、

は、

「現人(うつせみ)」に「空蝉」の字を当てた結果、平安時代以降にできた語、

とあり(広辞苑)、万葉集では「この世」、「この世の人」という意味で使われ、

虚しいもの、

というニュアンスはない(日本語源大辞典)が、

空蝉、
虚蝉、
打蟬、

等々と表記して、

うつ‐せみ、

と、

はかないもの、

を意識して、

空蝉のからは木ごとにとどむれどたまのゆくへをみぬぞかなしき(古今和歌集)、

と、

蝉のぬけがら、

さらに、

うつせみの声きくからに物ぞ思ふ我も空しき世にしすまへば(後撰和歌集)、

と、

蝉、

の意で使い、そこから、

その音が蝉の声に似るところから、

と、

説法しける道場に鳥の形なりけるこゑをうつせみの聴聞の人の中にいひける(菟玖波集)、

と、

楽器の一種「けい(磬)」の異称、

ともなり、その「抜け殻」のイメージをメタファに、

わがこいはもぬけの衣(きぬ)のうつせみの一夜(ひとよ)きてこそ猶(なほ)(狂言「鳴子」)、

と、

魂が抜け去ったさま、
気ぬけ、
虚脱状態、

の意や、

御台所は忙然と歎に心空蝉(ウツセミ)のもぬけのごとくにおはせしが(浄瑠璃「神霊矢口渡」)、

と、

蛻(もぬけ)の殻の形容、
からっぽ、

の意へと広がり、

うつ蝉(セミ)とて用をかなへに行ふりで、かふろを雪隠(せっちん)の口につけ置、我みはあひにゆきます(評判記「難波鉦(1680)」)、

と、

遊里の語。客に揚げられた遊女が手洗いに立ったふりをして、他のなじみ客の所に行って逢うこと、

また、

それによる空床、

の意や、形は島田髷に似て、蝉のぬけがらを連想させるところからの名づけなのか、安永(1772~81)頃の、

遊女の髷(まげ)の名、

等々にまで意味が広がる(精選版日本国語大辞典)。

うつせみ 遊女の髷(まげ)の名.bmp

(うつせみ(遊女の髷(まげ)の名) 精選版日本国語大辞典より)

空蝉の、

という枕詞は、「空蝉」「虚蝉」という表記から「むなしい」という意が生じて、

うつせみの命を惜しみ波にぬれ伊良虞(いらご)の島の玉藻刈りをす(万葉集)、

と、

命、身、人、空(むな)し、かれる身、

などにかかる(仝上・大辞林)。で、

空蝉の世(よ)、

というと、

この世、
現世、

の意で、やはり「空蝉」という表記から、仏教の無常感と結び付いて、

うつせみの世にもにたるか花ざくらさくとみしまにかつちりにけり(古今和歌集)、

と、

はかないこの世、

という含意になる(仝上)。

さて、この「空蝉」と当てる前の、

うつせみ、

の語源は、

ウツシ(現)オミ(臣)の約ウツソミが更に転じたもの(広辞苑)、
「うつしおみ(現人)」の転。「うつそみ」とも(大辞林)、
「うつしおみ」が「うつそみ」を経て音変化したもの(大辞泉)、
ウツソミの転、ウツソミは、ウツシ(現)オミの約、ウツセミの古形(岩波古語辞典)、

とするのが大勢で、

「現実に生きているこの身」という意味でウツシミ(現し身)といったのが、ウツセミ(空蝉)になり、さらにウツソミ(現身・顕身)に母交[i][e][o]をとげた(日本語の語源)、
現身(ウツシミ)の転と云ふ(さしもぐさ、させもぐさ)、空蝉は借字なり、死して見えぬに対して云ふ、ウツソミは、再転なり(れせはせはし、そはそはし)(大言海)、

と、

うつしみ(現身)の転、

とする説は、

「現身」と解する説は誤り、ミ(身)は、上代ではmï(乙音)の音、ウツソミのミはmi(甲音)の音(岩波古語辞典)、
「み」は万葉仮名の甲類の文字で書かれているから「身(乙類)」ではなく、「現身」とすることはできない。「うつしおみ(現臣)」が「うつそみ」となり、さらに変化した語という(精選版日本国語大辞典)
ミが甲乙別音である(日本語源広辞典)、

と上代特殊仮名遣から否定されていて、

現身(うつしみ)、

は、

ウツシ(現世の・現実の)+ミ(身)、

が、

ウツセミ、

と転訛した別語とある(日本語の語源)。

ただ、大勢となっている、

うつしおみ→うつそみ→うつせみ、

の語形変化が正しいとは言えず、

「うつしおみ」を、「現実の臣」と解釈すると、このつながりは説明できない、
乙類のソが甲類のセに転じるという変化は考えにくい、
「うつそみ」が「うつせみ」より古いという確証がない、

等々から、

ウツソミ→ウツセミ、

の変化を想定するのは妥当ではなく、

ウツソミ、

は、

擬古的にもちられたもの、

ではないかとしている(日本語源大辞典)。結局、語源はわからないのだが、意味的に言えば、音韻的な妥当性を欠くにしても、

ウツシミ(現身)→ウツセミ(現人)→ウツセミ(空蝉)、

が通りがいい。万葉集の時代、

ウツセミ、

は、萬葉集時代には、

ウツセミ(現人)、

の意味であったのだから。

なお、「もぬけ」、「セミ」については触れた。

「蝉」.gif

(「蝉(蟬)」 https://kakijun.jp/page/semi15200.htmlより)


「蝉(蟬)」 金文・西周.png

(「蝉(蟬)」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%9F%ACより)

「蝉(蟬)」(漢音セン、呉音ゼン)の字は、「セミ」で触れたが、

会意兼形声。「虫+音符單(薄く平ら)」。うすく平らな羽根をびりびり震わせて鳴く虫、

で(漢字源)、「せみ」を指す。「蟬」の字は、「嬋」に通ずというので「うつくし」という意味もある(字源)。別に、

会意兼形声文字です(虫+單)。「頭が大きくてグロテスクな、まむし」の象形(「虫」の意味)と「先端が両股(また)になっている弾(はじ)き弓」の象形(「弾く」の意味)から羽を振るわせて鳴く虫「せみ」を意味する「蝉」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2723.html。ただ、

形声。「虫」+音符「單 /*TAN/」。「セミ」を意味する漢語{蟬 /*dan/}を表す字。なお、音符を変更して「蟺」とも書かれるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%9F%AC
形声。虫と、音符單(タン)→(セン)とから成る。「せみ」の意を表す(角川新字源)、

と、形声文字(意味を表す部分と音を表す部分を組み合わせて作られた文字)とする説もある。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

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2024年02月24日

かづく


かづけども波の中にはさぐられで風吹くごとに浮き沈む玉(古今和歌集)、

は、

中にはさぐられで、

で、

かにはさくら(樺桜)、

を詠みこんでいる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。また、

かづく、

は、万葉集では、

かづく、

平安後期では、

かつぐ、

となる、

水に潜る、

意である(仝上)。

頭に被るもの、

の意の、

かづき

で触れたが、この動詞「かづく(被)」は、

かづく(潜)と同根(岩波古語辞典)、

とあり、

あたまにすっぽりかぶる、

意とあり、

伊知遅島(いちぢしま)美島(みしま)に着(と)き鳰鳥(みほどり)の潜(かづ)き息づき(古事記)、

と、

水に頭を突っ込む、
水にくぐる、

意や、

伊勢のあまの朝な夕なにかづくとふあはびの貝の片思もひにして(万葉集)、

と、

水に潜って貝・海藻などをとる、

意で使う。この四段自動詞の他に、

隠(こも)り口(く)の泊瀬(はつせ)の川の上(かみ)つ瀬に鵜(う)を八頭(やつ)かづけ(万葉集)、

と、下二段の他動詞で、

(水中に)もぐらせる、
鵜などを水中に潜らせて魚を取らせる、

意でも使う(仝上・学研全訳古語辞典)。この、

かづく(潜)、

の由来は、

頭突(かぶつ)くの約か、額突ぬかつ)く、頂突(うなづ)くの例(大言海)、
頭をツキイル(衝入)意(雅言考・俗語考・和訓栞)、
水ヲ-カヅク(被)の義か(俚言集覧)、

等々あるが、

かづく(被)、

と同源とするなら、

水ヲ-カヅク(被)の義、

なのではないか、という気がする。因みに、

かづく(被)、

の由来は、

上から被う意のカヅク(頭附)(国語の語根とその分類=大島正健)、
カはカシラ(頭)、カミ(髪)の原語。頭部を着くという義(日本古語大辞典=松岡静雄)、

等々がある。

被衣、
被き、

と当てる、

かづき

は、

女子が外出に頭に被(かづ)く(かぶる)衣服、

のことで、平安時代からみられ、女子は素顔で外出しない風習があり、衣をかぶったので、

その衣、

を指し、多く単(ひとえ)の衣(きぬ)が便宜的に用いられ、

衣かずき(衣被き・被衣)、
きぬかぶり(衣被り)、

ともよばれた。

すっぽりと頭に被る、

という意味の、

かづく(被)、

からすると、

かづく(潜)、

も、

水にすっぽり被る、

意で、

頭にかぶる意で、特に、水を頭上におおうというところから、

と(日本国語大辞典)、

水ヲ-カヅク(被)の義、

の語源説に惹かれる。

「潜」.gif

(「潜」 https://kakijun.jp/page/1558200.htmlより)

「濳」.gif

(「濳」 https://kakijun.jp/page/E04A200.htmlより)


「潛」.gif

(「潛」 https://kakijun.jp/page/E049200.htmlより)


「潜(潛・濳)」 説文解字.png

(「潜(潛・濳)」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)  https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%BD%9Bより)

「潜(潛・濳)」(漢音セン、呉音ゼン)は、

会意兼形声。朁は、かんざしを二つ描いた象形文字で、髪の毛のすきまに深く入り込んむ簪(シン かんざし)の原字。簪の朁は、「かんざし二つ+日」からなり、すきまにわりこんで人を悪く言うこと。譖(そしる)の原字。潜は、それを音符とし、水を加えた字で、水中に深く割り込んでもぐること。すきまから中にもぐりこむ意を含む、

とある(漢字源)。

「簪」 説文解字.png

(「簪」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%B0%AAより)

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
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2024年02月25日

からもも


逢ふからもものはななほこそかなしけれ別むことをかねておもえば(古今和歌集)、

は、

からもものはな

を詠みこんでいるが、

からも、

は、

からに、

と同じで、

……すると同時に、

の意であり、

からもも、

は、

杏の古名、

とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

アンズ.jpg


からもも、

は、

中国渡来のモモ、

意で、「天治字鏡(天治本新撰字鏡)」(898年~901年)に、

杏、辛桃、

「本草和名(ほんぞうわみょう)」(918年編纂)に、

杏子、加良毛毛、

「類聚名義抄」(11~12世紀)に、

杏・杏子、加良毛毛、

とある。

あんず、

は、

杏子の唐音(日本釈名・大言海・国語の中に於ける漢語の研究=山田孝雄)、

とされ、

杏子(きやうし)の宋音、禅僧の杏子(カラモモ)に読みつけたる語なるべし。本草和名に、「俗に、杏子、唐音に呼んで、アンズとも云ひ、杏仁をアンニンと云ふ」、銀杏(ギンキヤウ)を、ギンアンと云ふも是れなり、本草に、杏核、一名杏子とあれば、杏子は、元来、核(タネ)の名なりしが如し、

とある(大言海)ように、

ももになぞらえうる外来の植物ということで、別の種類の植物とともに「からもも」と呼ばれていたが、杏の果実である「杏子」を食する習慣が、アンズという音で普及するに及び、果実だけでなく、その木や花もアンズと呼ばれることになった。また種子であるアンニン(杏仁)を薬用とすることも、普及に寄与した、

とあり(日本語源大辞典)、

江戸時代になってから、漢名の杏子を唐音読みでアンズとなったといわれている、

というhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%BA

なお、

からもも、

には、

紫檀、蘇枋(すはう)、黒柿(くろがい)、唐桃(からもも)などいふ木どもを材木として、金銀、瑠璃、車渠(しやこ)、瑪瑙(めなう)の大殿を造り重ねて(宇津保物語)、

と、

寿星桃(じゅせいとう)、
江戸桃、
源平桃、
アメンドウ、
はなあんず、
西王母、
さきわけもも、
日月桃(じつげつとう)、

等々とも呼ぶ、

中国原産のモモの一種、

の桃の栽培品種がある。

ハナモモ(花桃).JPG


葉は細長く密に茂り、小木であるが、花は多く咲き、幹は一メートルぐらいで、三〇センチメートルに足りない小木にも花や実がつく。葉は細長く、よく茂る。花は、一重、八重、紅色、白色、紅白のしぼりなどがある、

もので、一般には、

ハナモモ(花桃)、

という名で知られる。

アンズ、

は、

バラ科サクラ属の落葉高木。中国の原産。果樹として広く世界で栽培、日本では東北地方・長野県で栽培。幹の高さ約3メートル。葉は卵円形で鋸歯がある。早春、白色または淡紅色の花を開く。果実は梅に似て大きく、初夏に実り、果肉は砂糖漬・ジャムなどにする。種子は生薬の杏仁(きょうにん)で、咳どめ薬の原料、

である。

ハナモモ、

は、

バラ科モモ属の耐寒性落葉低木、幹は一メートルぐらいになるが、三〇センチメートルに足りない小木でも花や実がつく。葉は細長くて、よく茂る。花は、一重・八重、紅色・白色・紅白のしぼりなどの変化がある。結実するが実は小さく、食用には適さない。

とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%8A%E3%83%A2%E3%83%A2・精選版日本国語大辞典・広辞苑)。

「桃」.gif


「桃」 楚系簡帛文字.png

(「桃」 楚系簡帛文字(簡帛は竹簡・木簡・帛書全てを指す) 戦国時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A1%83より)

「桃」(漢音トウ、呉音ドウ)は、

会意兼形声。兆(チョウ)は、ぽんと二つに離れるさま。桃は「木+音符兆」で、その実が二つに割れるももの木、

とある(漢字源)。同趣旨で、

会意兼形声文字です(木+兆)。「大地を覆う木」の象形と「うらないの時に亀の甲羅に現れる割れ目」の象形(「前ぶれ」の意味だが、ここでは、「2つに割れる」の意味)から、2つにきれいに割れる木の実、「もも」を意味する「桃」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji308.htmlが、

形声。「木」+音符「兆 /*LAW/」。「もも」を意味する漢語{桃 /*laaw/}を表す字、

https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A1%83

形声。木と、音符兆(テウ)→(タウ)とから成る。「もも」の意を表す、

と(角川新字源)、形声文字とする説もある。

「杏」.gif


「杏」(慣用キョウ、唐音アン、漢音コウ、呉音ギョウ)は、

会意文字。「木+口」で、口に食べてみておいしい実のなる木をあらわす、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(木+口)。「大地を覆う木」の象形(「木」の意味)と「口」の象形(「種類、口」の意味)から、木の一種「あんず(バラ科の落葉高木)」、「ぎんなん(いちょうの木の実)」を意味する「杏」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2212.htmlが、

形声。木と、音符向(キヤウ)→(カウ)(口は省略形)とから成る、

ともある(角川新字源)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

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ラベル:からもも 杏子
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2024年02月26日

鵲(かささぎ)の橋


くもゐ」で触れたように、

かささぎの雲井の橋の遠ければ渡らぬ中に行く月日哉(続古今集)、

の、

雲居の橋(くもいのはし)、

は、

雲のかなたにかかっている橋、

で、

鵲(かささぎ)の橋、

を指す。

梅田の橋をかささぎのはしとちぎりていつ迄も我とそなたは女夫(めおと)星(近松門左衛門『曾根崎心中』)、

の、

鵲(かささぎ)の橋、

は、

烏鵲橋(うじゃくきょう)、
烏鵲の橋(うじゃくのはし)、
鵲橋(じゃっきょう)、

ともいい(精選版日本国語大辞典・大辞泉)、

星の橋、
行合(ゆきあひ)の橋、
寄羽の橋、
天の小夜橋、
紅葉の橋、

等々の名もあるhttps://kigosai.sub.jp/001/archives/9973

七夕(たなばた)の夜、天の川にかけられるという鵲(かささぎ)の橋、

を指し、そこから、

宮中の階段、

をもいう(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。これは、後漢末の応劭著『風俗通』(『風俗通義(ふうぞくつうぎ)』)に、

織女七夕、当渡河、使鵲為橋、

とあるのにより、

陰暦七月七日の夜、牽牛(けんぎゅう)、織女(しょくじょ)の二星が会うときに、鵲が翼を並べて天の川に渡すという想像上の橋、

をいい、

男女の仲をとりもつもの、男女の契りの橋渡しの意のたとえ、

としても用いられ(精選版日本国語大辞典)、唐代の類書『白氏六帖』(はくしりくじょう 白居易撰)にも、

烏鵲塡河成橋、而渡織女、

とある(字源)。ただ、中国では、

織女を渡らしむ、

とあるのに、日本では、

ひこ星の行あひをまつかささぎの渡せる橋をわれにかさなむ(菅原道真)、

と詠い、

牽牛星が橋を渡るものとされていた、

ようであるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B5%B2%E6%A9%8B。因みに、

類書(るいしょ)、

とは、

事項別に分類・編集した書物。特に中国で、事項別に、それに関する詩文などの文献をまとめた書。あらゆる単語について、その用例を過去の書籍から引用した上で、それらの単語を天地人草木鳥獣などの分類順または字韻順に配列して検索の便をはかった、字引きのことである。結果として百科事典の機能ももつ、

とある(精選版日本国語大辞典・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A1%9E%E6%9B%B8)。

難波吉士磐金(きしのいわかね)、新羅より至(まゐ)りて、鵲(カササキ)二隻(ふたつ)を献る(日本書紀・推古紀)、

とあり、

鵲、

は、

烏鵲(うじゃく)、

ともいい、和名類聚抄(平安中期)に、

鵲、加佐佐木、

とあり、

カラス科の鳥。全長約四五センチメートルで、カラスより小さい。腹面および肩羽は白色で、ほかは金属光沢を帯びた黒色。尾羽は長く、二六センチメートルにも達する。村落近くにすみ、雑食性で、樹上に大きな巣をつくる。中国、朝鮮に多く分布するが、日本では佐賀平野を中心に九州北西部にだけみられ(朝鮮出兵の際九州の大名らが朝鮮半島から持ち帰り繁殖したものとする説がある)、天然記念物に指定されている、

とある(精選版日本国語大辞典・大辞泉)。鳴き声がカチカチと聞こえるので、

カチガラス、

ともいい(仝上)、

高麗鴉、
挑戦鴉、
唐鴉、

という別名を持ち、筑後に多いので、

筑後鴉、

の名もある(大言海)。古代の日本には、もともとカササギは生息しなかったらしく、「魏志倭人伝」も「日本にはカササギがいない」とあり、

七夕の架け橋を作る伝説の鳥、

として、カササギの存在は日本に知られることとなり、奈良時代、

鵲の渡せる橋におく霜のしろきを見れば夜ぞ更けにける(小倉百人一首)、

と詠われるに至ったと見られるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%B5%E3%82%B5%E3%82%AE

カササギ.jpg



羽を広げたカササギ.jpg


鵲、

の由来は、

カサは朝鮮の古名カス、又は、カシの転と云ふ(今はカアチ)、サギは鵲(サク)の音、韓、漢、雙擧の語なり、同地にて、火をフルハアと云ふ、フルは、其国語にて、ハアは火(フア)の字音と合して云ふ、此例の多し(大言海)、
朝鮮語にkat∫iという鳴き声からの命名か(岩波古語辞典)、
カサはこの鳥の朝鮮の方言、サギは鷺の意(名言通)、
カサは、鵲をいう朝鮮の方言カシの転、サギはサワギ(噪)から(東雅)、

等々あるが、基本、日本では認識されていなかった鳥なので、

朝鮮由来、

ということはあるかもしれない。また漢字「鵲」自体が、擬声語なので、鳴声由来はありえそうである。

上述のように日本書紀に、

難波吉士磐金、至自新羅、而献鵲、

とあり、二羽の鵲を持ち帰ったが、この「鵲」には万葉仮名が振られておらず、「かささぎ」という読みが初めて登場するのは、上述した和名類聚抄(平安中期)である。ために、

七夕のカササギの伝承、

は日本では、サギの仲間と考えてサギで代用され、八坂神社の祇園祭にて奉納された、

鷺舞、

は、中国の七夕伝説を端緒にするものとされる。また、名前は鷺舞であるが、この鷺は鵲であり、七夕伝説に於いて、牽牛と織女のため、天の川に桟を渡した伝承に因んだものであるが、京都では鵲は飛来してこないため鵲という存在を知らず、そのため鵲とは鷺の一種であろうと笠を被った白鷺をカササギに見立てたものとされている、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B7%BA%E8%88%9E

なお、「たなばた」については触れた。

「鵲」.gif

(「鵲」 https://kakijun.jp/page/EA46200.htmlより)

「鵲」(慣用ジャク、漢音シャク、呉音サク)は、

形声。「鳥+音符昔」。ちゃっちゃと鳴く声をまねた擬声語、

とある(漢字源)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

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2024年02月27日

心もしのに


淡海(あふみ)の海夕浪千鳥(ゆふなみちどり)汝(な)が鳴けば心もしのにいにしへ思(おも)ほゆ(万葉集)、

の、

心もしのに、

は、

心が萎(しを)れて、

の意とある(斎藤茂吉「万葉秀歌」)。

しの、

は、

草や藻などが風や波などになびきしなうさまをいう、

とある(精選版日本国語大辞典)ので、

心もしなうばかりに、
心もぐったりして、

という意になるが、

心もうちひしがれて、
心もしおれるように、

のほうが(学研全訳古語辞典)ぴったりくる気がする。ときに、

しのに、



しぬに、

とするのは、上記の、

淡海の海夕浪千鳥汝が鳴けば情毛思努爾(こころモシノニ)古(いにしへ)思ほゆ、

の万葉仮名、

情毛思努爾(こころモシノニ)、

の、

努、

などを、

ヌと読み誤ってつくられた語、

とある(岩波古語辞典)。鎌倉時代の歌学書『袖中抄(しゅうちゅうしょう)』に、

しぬぬれてとは、之怒怒と書きてしとどぬれてともよみ、又しぬぬにぬれてともよめり、

とある。

しのに、

は、

秋の穂(ほ)をしのに押しなべ置く露(つゆ)の消(け)かもしなまし恋ひつつあらずは(万葉集)、

と、文字通り、

(露などで)しっとりと濡れて、草木のしおれなびくさま、

の意(広辞苑・精選版日本国語大辞典)で、それをメタファに、上記のように、

淡海(あふみ)の海夕浪千鳥(ゆふなみちどり)汝(な)が鳴けば心もしのにいにしへ思(おも)ほゆ(万葉集)、

と、

心のしおれるさまなどを表わす語、

として、

しおれて、
しっとり、しみじみした気分になって、
ぐったりと、

といった意味で使う(仝上)。中世以降になると、

しのに、

は、

あふことはかたのの里のささの庵(いほ)しのに露散る夜半(よは)の床かな(新古今和歌集)、

と、

しげく、
しきりに、

の意で使うようになる(岩波古語辞典・学研国語大辞典)。

しのに、

と似た、

聞きつやと君が問はせるほととぎすしののに濡れて此(こ)ゆ鳴き渡る(万葉集)、

と、

びっしょりと濡れるさまを表わす語、

で、

ぐっしょりと、
しとどに、
しっとりと、

の意味の、

しののに、

がある。これも、

朝霧に之努努爾(シノノニ)濡れて呼子鳥三船の山ゆ鳴き渡る見ゆ(万葉集)、

とある、

努、

を、

ぬ、

と読み誤って、

しぬぬに、

とつくる(岩波古語辞典)とある。ただ、

しのに、

を、

しぬにの転、

とし、

撓(しな)ひ靡きて、

とする(大言海)説もある。その場合、

しぬに、

は、

撓ふの意、

とする。しかし、

撓(しな)ふ、

は、

しなやかな曲線を示す意。類義語撓むは加えられた力を跳ね返す力を中に持ちながらも、押されて曲がる意、

とあり、

生気を失ってうちしおれる、

意の、

萎(しな)ゆ、

は、

しおれる、

で別語ともあり(岩波古語辞典)、どうも意味からは、

撓ふ、

ではなく、

萎ゆ、

らしいが、「こころもしのに」の、打ちひしがれている感じは、

撓ふ、

にも思える。

葉の上の露.jpg


つゆ」については触れた。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

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2024年02月28日

をがたまの木


みよしのの吉野の滝に浮かびいづる泡をか玉の消ゆと見つらむ(古今和歌集)、

は、

をか玉の消ゆ、

に、

をがたま、

を詠みこんでいる。

をがたま、

は、

古今三木(さんぼく)、

のひとつ、

古今伝授の秘説、

とされる、

モクレン科の常緑高木、

とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

ヲガタマ、

は、多く、

ヲガタマノキ、

と呼ばれ(日本国語大辞典)、古今伝授では、

榊の異名、

とされる(岩波古語辞典)。で、

ヲガタマノキ、

は、

小賀玉榊(オガタマサカキ)、

という異名を持つ(動植物名よみかた辞典)。

古今伝授(こきんでんじゅ)の三種の木は、

をがたまの木、
めどにけづり花、
かはな草、

をいうが、他に、

をがたまの木、
さがりごけ、
かはな草、

とも、

相生(あいおい)の松、
めどにけづり花、
をがたまの木、

とも、

をがたまの木、
とし木、
めど木、

ともあり、諸説があって一定しない(精選版日本国語大辞典)。また、古今伝授で、解釈上の秘伝とされた、

三種の草、

というのもあり、異伝があるが、

めどにけずりばな、
かわなぐさ、
さがりごけ、

をさし、「さがりごけ」のかわりに「おがたまの木」を入れた三木とも関連深い(仝上)とある。

オガタマノキ.jpg



オガタマノキの葉.jpg



オガタマノキ 花.jpg

(オガタマノキの花 https://matsue-hana.com/hana/ogatamanoki.htmlより)

をがたまの木、

は、

小賀玉木、
黄心樹、
招霊木、

などと当て(広辞苑・日本大百科全書)、

モクレン科の常緑高木。日本南西部の暖地に自生。高さ18メートルに達する。樹皮は暗緑色で平滑。葉は長楕円形で、光沢ある革質。春、葉腋にやや紫色を帯びた白色の小花を開き、芳香がある。果実は集まって球果状。材は床柱または器具とし、葉は香料、

とある(広辞苑)。古来、

榊(サカキ)の代用、

とし(大辞泉)、神社の境内によく植えられている(世界大百科事典)。

招靈(ヲキタマ)の転、神霊を招禱(ヲキ)奉るものなれば云ふ(大言海)、
招霊(おきたま)が転じてオガタマの名になった(世界大百科事典)、
招魂(ヲギタマ)の義(和訓栞)、

等々が、その由来とされる。因みに、

大賀玉の木(おがたまのき)、

と呼ばれる正月の飾りは、邪気を払うために1月14日の夜に門前や門松に、

クルミ、
や、
ネムノキの枝、

を飾ったものであるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%82%AC%E3%82%BF%E3%83%9E%E3%83%8E%E3%82%AD

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

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2024年02月29日

さかき


天香山(あめのかぐやま)の五百(いほ)つ真(ま)賢木(さかき)を根許士爾許士(ねこじにこじ)て(古事記)、
ひさかたの天の原より生(あ)れ来(きた)神の命(みこと)奥山の賢木(さかき)の枝に白香(しらか)つけ木綿(ゆふ)とりつけて(万葉集)、

の、

さかき、

は、

神域に植える常緑樹の総称。また、神事に用いる木(大辞林)、
常緑樹の総称。特に神事に用いる木をいう(広辞苑)
神域にある、また、神事に用いる常緑樹の総称(学研古語辞典)、
神域にある、また、神事に用いる常緑樹の総称(精選版日本国語大辞典)、
神木として神に供せられる常緑樹の総称(大辞泉)、

等々、総じて、

常緑樹、

殊に、

神域にある、
ないし、
神事に用いる、

神木、

を指している。で、

さかき、

は、

榊、
楊桐、
賢木、
栄木、
神樹、

等々とあて(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%AB%E3%82%AD・大言海・岩波古語辞典・広辞苑他)、

境(さか)木の意か(広辞苑)、
「栄える木」の意(精選版日本国語大辞典・大辞林)、
栄える木の意か。一説に境の木の意とも(デジタル大辞泉)
「栄(サカ)木」または「境(サカ)木」からか(学研全訳古語辞典)、
サカキ(小香木)の義(松屋叢考)、
サカキ(社香木)の義(言元梯)、
サカはサという精霊が発動することで、サカキは精霊の宿っている木の意(六歌仙前後=高崎正秀)、

等々あるが、大勢は、

常に枝葉が繫っているところから、サカエキ(栄木)の義(仙覚抄・名語記・日本紀和歌略注・箋注和名抄・名言通・和訓栞・柴門和語類集・日本古語大辞典=松岡静雄)、

と、

サカキ(境木)の義で、神の鎮まります地のサカヒ(区域)の木の意。もと神樹を意味したが、常緑で、葉が枯れない榊を祭神の用としたことから榊一本を言うようになった(大言海)、

の、

境木、
と、
栄木、

に分かれるが、

(サカキのサカは)サカ(境)の第一アクセントと同じ。神聖なる地の境に植える木の意か。サカエ(栄)とはアクセントが別だから、「栄木」とする説は考えにくい、

とある(岩波古語辞典)。

境木、

説を採る、大言海は、

磐境(いはさか)の木の意、

とし、さらに、

(鎌倉時代初期)『萬葉集抄』(仙覚)「さかきト云ヘルハ、彼木、常緑ニシテ、枝葉、繁ケレバ、さかきト云フ、さかきトハ、サカエタル木ト云フ也」、是れは、後世の榊に就きて考へたるにて、古書に、坂樹(サカキ)、賢木(サカキ)など、借字に記したるはあれど、栄、又は、常緑の意の字に記したるを見ず、賢(ケン)の字を宛てたるは、さかしき、すぐれたる意もあるべく、又畏(かしこ)き意にもあるべし(畏所(かしこどころ)、賢所)、

とする。なお、

磐境(いはさか)、

の、

磐(いは)、

は、

堅固なる意か、磐座(いはくら)又斎(いは)ふの語根か、

とあり、

境(さか)、

は、

界、

とも当て(仝上・岩波古語辞典)、

サは割(さ)くの語根、割處(かきか)の義なるべし、塚も、塚處(つきか)、竈尖(くど)も漏處(くどなり)(招鳥(ヲキドリ)、をどり。引剥(ひきはぎ)、ひはぎ)、此語に活用をつけて、境、境ひと云ふ(大言海)、
サカ(坂)と同根。古くは、坂が、区域のはずれであることが多く、自然の境になっていた(岩波古語辞典)、
(坂は)サカヒ(境)の義(古事記伝・山島民譚集=柳田國男)、
(坂の)サはサキ(割)などの原語で、刺・挿の義。カは処を意味する語。分割所の意から境の意を生じ、更に山の境の意から坂の義に転じた(日本古語大辞典=松岡静雄)、

と、

境目、

を指していて、

サカキ、

は、

神域との境を示す木、

ということになる。上代(奈良時代以前)では、

サカキ、ヒサカキ、シキミ、アセビ、ツバキ、

等々、神仏に捧げる常緑樹の総称が、

サカキ、

であったhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%AB%E3%82%ADが、平安時代以降になると「サカキ」が特定の植物を指すようになり、収斂して、

一木の名、

となり(大言海)、

榊、

を指すことになり、

此樹常緑にして、葉が霜に遭へども、枯れぬほどなれば、専ら、祭神の用となれるならむ。榊は、神木の合字なり、

という次第である(大言海)。和名類聚抄(平安中期)に、

祭樹為榊、

とある。この

榊、

は、

ツバキ科の常緑小高木。暖地の山中に自生。高さ約10メートル。葉は互生し、厚い革質、深緑色で光沢がある。5〜6月頃、葉のつけ根に白色の細花をつけ、紫黒色の球形の液果を結ぶ。古来神木として枝葉は神に供し、材は細工物・建築などに用いる、

とある(広辞苑・大辞林)。

サカキ.jpg

(サカキ 学研古語辞典より)

別名、

ホンサカキ、
ノコギリバサカキ、
マサカキ、

ともよばれるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%AB%E3%82%AD)

今、多く、

ヒサカキ、

を代用す(大言海)とあるのは、

サカキは関東以南の比較的温暖な地域で生育するため、関東以北では類似種のヒサカキをサカキとして代用している、

ためであるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%AB%E3%82%AD。ヒサカキは仏壇にも供えられる植物で、早春に咲き、独特のにおいがある。名の由来は小さいことから、

姫榊(ヒメサカキ→ヒサカキの転訛)、

とも、サカキでないことから、

非榊、

とも呼ばれる(仝上)。独特のにおいのあるのは、こちらである。このヒサカキは、

常緑広葉樹の小高木で、サカキよりやや小型、普通は樹高が4~7メートル程度、一年枝は緑色で、葉柄が枝に流れて稜をつくる。枝は横向きに出て、葉が左右交互にでて、平面を作る傾向がある。花期は3 ~4月。葉腋から枝の下側に短くぶら下がるように径3~6ミリメートルほどの白い花が下向きに多数咲く。都市ガスのような独特の強い芳香を放つ、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%82%B5%E3%82%AB%E3%82%AD

ヒサカキ.jpg


「榊」.gif


「榊」(サカキ)は、

会意文字。「木+神」で、神に捧げる木の意からの日本製の漢字、

である(漢字源)。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:21| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする