わたつうみの浜の真砂(まさご)君がちとせ(千年)のあ(有)り數にせむ(古今和歌集)、
の、
わたつうみ、
は、
海神、
の意、
転じて、上記歌では、
海、
の意で使われている。
わたつうみ、
は、
わたつみの転か、
とあり、
わだつうみ、
ともいう(広辞苑)とある。ただ、
ワタツウミの語形、
は、
ミをウミ(海)のミと俗解したところから現れたもので平安時代以降にみえる、
とあり(日本語源大辞典)、それは、
わたつみ、
が、
渡津海、
綿津海、
などと書くため、
「み」が「海」の意に意識されてできた語、
なのである(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。
わたづうみ、
わだつうみ、
も、その転訛である(仝上)。
「うみ」で触れたように、「わたつみ」は、
海神、
海津見、
綿津見、
等々と当て、
わだつみ、
わたづみ、
わだづみ、
ともいい(精選版日本国語大辞典)、
海(わた)つ霊(み)の意。ツは連体助詞(岩波古語辞典)、
ツは助詞「の」と同じ、ミは神霊の意(広辞苑)、
「つ」は格助詞、「み」は神霊の意(大辞林)、
「つ」は「の」の意の古い格助詞。「海つ霊(み)」の意。後世は「わたづみ」「わだづみ」「わだつみ」とも(精選版日本国語大辞典)、
ツは之、ミは霊異(クシビ)のビと通ず、或は云ふ、海(ワタ)ツ海(ウミ)と(大言海)、
わた(さらに古形は「わだ」)」は海の非常に古い語形、「つみ」は同系語に、山の神を意味する「やまつみ(cf.オオヤマツミ)」等が見られるように、「つ」は同格の助詞「の」の古形であり、「み」は神霊を意味する(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%82%8F%E3%81%9F%E3%81%A4%E3%81%BF)、
ワタ(海)+ツ(の)+ミ(水)、ワタノハラとも(日本語源広辞典)、
ワタツカミ(海津神)―ワタツミ(綿津見)(日本語の語源)、
ワタツミ(海之龍)の義(名言通)、
ワタツモリ(海之守)の義(日本語原学=林甕臣)、
等々あるが、ほぼ、
ツはの、ミは霊(ミ)、
と解されている。個人的には、
ワタツカミ(海津神)―ワタツミ(綿津見)、
と、神のなから転じたと見るのが、意味から見ても妥当な気がする。ただ、『古事記』には、
綿津見神(わたつみのかみ)、
綿津見大神(おおわたつみのかみ)、
と表記されているのが、ダブりになるので難点ではある。ともかく、
ミをウミのミと俗解した、
というのは、「海津神」が、意識されなくなったところから来ているのだろう。
わた、
は、
海、
と当てているが、
渡るの意と云ふ、百済語ホタイ、朝鮮語バタ(大言海)、
船で渡るところからワタ(渡)の義(色葉和難集・冠辞考・俚言集覧・月斎雜考・答問雜稿・名言通・和訓栞・言葉の根しらべの=鈴木潔子・日本古語大辞典=松岡静雄)、
「わた(さらに古形は「わだ」)」は海の非常に古い語形、現代朝鮮語「바다(/pada/ 海)」の祖語との説は根拠が無い(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%82%8F%E3%81%9F%E3%81%A4%E3%81%BF)
ワダとも、朝鮮語pata(海)と同源(岩波古語辞典)、一説に、ヲチ(遠)の転(広辞苑)、
等々あるが、確定は出来そうもないが、
わたつみ、
は、和名類聚抄(平安中期)に、
海神、和太豆美乃加美、
とあり、
海を領する神、
つまり、
海神、
の意である。そして、海の神がいる所の意から転じて、
海、
海原、
の意で使う。また、その意味から、枕詞として、
わたつみの、
として、
海が深いことから、
棹(さを)させど底(そこ)ひも知らぬわたつみの深きこころを君に見るかな(土佐日記)、
と、
深き心、
にかかり、また、
わたつみのそこのありかはしりなからかつきていらむなみのまそなき(後撰和歌集)、
と、海の底の意で、
そこ、
にかかる(精選版日本国語大辞典)。
(「海」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%B5%B7より)
「海」(カイ)は、
会意兼形声。「水+音符毎」で、暗い色のうみのこと。北方の中国人の知っていたのは、玄海、渤海などの暗い色の海だった。音符の毎は、子音が変化し、海・晦・悔などにおいてはカイの音を表す、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(氵(水)+每)。「流れる水」の象形(「水」の意味)と「髪飾りを付けて結髪する婦人」の象形(黒い髪を結髪する様(さま)から「暗い」の意味)から、広く深く暗い「うみ」を意味する「海」という漢字が成り立ちました、
とある(https://okjiten.jp/kanji79.html)が、他は、
形声。「水」+音符「每 /*MƏ/」。「うみ」を意味する漢語{海 /*hməəʔ/}を表す字、
も(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%B5%B7)、
形声。水と、音符每(バイ)→(カイ)とから成る。くろぐろと深い「うみ」の意を表す、
も(角川新字源)、形声文字(意味を表す部分と音を表す部分を組み合わせて作られた文字)としている。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95