2024年02月09日
からに
住の江の松を秋風吹くからに声うちそふる沖つ白波(古今和歌集)、
の、
からに、
は、
……するやいなや、
……すると同時に、
……する一方で、
という意味で、上の歌は、
松風の音に波の音が加わる。よく似た音の響き合い、
と注釈がある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
からに、
は、
原因、理由を意味する助詞の「から」に格助詞の「に」が付いたもの) 活用語の連体形を受け、全体で接続助詞的に働く(精選版日本国語大辞典)、
準体助詞「から」+格助詞「に」、活用語の連体形に付く。上代では格助詞「の」「が」にも付く(大辞泉)、
カラ(理由などの意)に格助詞ニが付いて接続助詞的に働く(広辞苑)、
接続助詞「から」に格助詞「に」の付いたもの(大辞林)、
等々とあり、
君が目の恋(こほ)しき舸羅儞(カラニ)泊(は)てて居てかくや恋ひむも君が目を欲(ほ)り(日本書紀)、
と、
……だけで、
……ばっかりで、
それだけの原因で、
の意で、
原因がきわめて軽いにもかかわらず結果の重いことを示す、
使い方と、中古以後の用法として、
うつせみのこゑきくからに物そ思ふ我も空しき世にしすまへは(後撰和歌集)、
と、
……と共に、
……と同時に、
……や否や、
の意で、
さして重くない原因によって、ある結果がただちに生ずることを示す。原因の結果に対する支配力は前述の「からに」よりやや弱いが、時間的関係が強い、
使い方と、
などかは女と言はんからに世にある事の公、私につけて、むげに知らず至らずしもあらむ(源氏物語)、
と、
…ゆえに、
の意で、
原因、結果を順接の関係において示す。逆接の意が感じられる例もあるが、それは反語によるものである、
使い方と、
秋をおきて時こそありけれ菊の花うつろふからに色のまされば(古今和歌集)、
と、上述の引用歌のように、
……と同時に、
……と共に、
の意や、反語を導いて、
など帝の御子ならむからに、見む人さへ、かたほならず物ほめ勝ちなる(源氏物語)、
と、
……だとて、……のことがあろうか、ありはしない、
の意で、
神宮といはむからに、国中にはらまれて、いかに奇恠(きくゎい)をばいたす(宇治拾遺)、
と、
逆接の関係において、原因、結果を示す。中世に現われ、その後見られない、
使い方で、これは、近世には、
てから、
てからが、
の形となる(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)。
上代、中古の例では「から」の体言性がかなり強いが、中世に現われた逆接用法に至って体言性は失われたと考えられる、
また、
順接条件を示す場合、中世末期には「に」を伴わない形で用いられるに至る、
とあり(精選版日本国語大辞典)、近世以降、文末におかれて、
年寄りの癖に出しゃばってからに(浮世風呂)、
と、
てからに、
の形で用いられることがある(仝上)とある。
からに、
は、
血族・血筋の意から自然の成り行きの意へと発展したカラと格助ニの結合、ほんの小さいことの結果として意外に大きいことの起こる場合にいうことが多い、
とある(岩波古語辞典)。
族、
柄、
と当てる、「から」は、
うから、
やから、
ともがら、
はらから、
の、
から、
で、
語源は名詞「から」と考えられる。「国から」「山から」「川から」「神から」などの「から」である。この「から」は、国や山や川や神の本来の性質を意味するとともに、それらの社会的な格をも意味する。「やから」「はらから」なども血筋のつながりを共有する社会的な一つの集りをいう。この血族・血筋の意から、自然のつながり、自然の成り行きの意に発展し、そこから、原因・理由を表し、動作の出発点・経由地、動作の直接続く意、ある動作にすぐ続いていま一つの動作作用が生起する意、手段の意を表すに至ったと思われる(岩波古語辞典)、
から(族・柄)は、満州語・蒙古語のkala、xala(族)と同系の語。上代では「はらから」「やから」など複合した例が多いが、血筋・素性という意味から発して、抽象的な出発点・成行き・原因などの意味にまで広がって用いられる。助詞カラもこの語の転(岩波古語辞典)、
万葉集に助詞「が」「の」に付いた例があり、語源は体言と推定でき、「うから」「やから」「はらから」などの「から」と同源とも。「国柄」「人柄」の「柄(から)」と同源とも(広辞苑)、
「うから、はらから、やから」と同源で、「血の繋がり」から転じた語です。転じて自然の繋がりを意味し、原因理由を示す接続助詞になった語です(日本語源広辞典)、
「から(柄)」という名詞が抽象化されて、動作・作用の経由地を表すようになったといわれる。上代から用いられているが、起点・原因を表すようになるのは中古以降の用法(大辞林)、
「から(柄)」と同語源) 名詞の下に付いて、その物事の本来持っている性質、品格、身分などの意、また、それらの性質、品格、身分などにふさわしいこと、また、その状態の意などを表わす。「人柄」「家柄」「身柄」「続柄」「国柄」「場所柄」「声柄」「時節柄」などと用いられる(精選版日本国語大辞典)、
ウカラ、ハラカラ等「血族」を意味する体言が、山カラ、川カラ等「事物の性質」を表わすに至り、更に抽象化して「自然のつながり」「自然のなりゆき」の意となり、そこから経由地・出発点・理由を示す助詞が出た(大野晉「日本語の黎明」)、
などとあるが、この、
族、
柄、
由来とする説以外に、「から」に、
自・従、
と当てて、
間(から)の轉用(大言海)、
とするもの、また、
「理由」または「間」という意の体言(山田孝雄、松尾捨治郎)、
ある事物に少しも積極的な力を加えない、という概念をもつ形式体言(石垣謙二)、
とする説もあるようだが、個人的には、
ウカラ、ハラカラのカラ、
とするのが妥当な気がする。この、
から、
は、格助詞としては、
出発する位置を表す、
使い方として、たとえば、
ほととぎす鳴きて過ぎにし岡辺(をかび)から秋風吹きぬよしもあらなくに(万葉集)、
と、場所を示す語に付いて、
窓から捨てる、
というように、
動作の経由点を示す、
が、平安時代以降は、
浪の花沖から咲きて散り来めり水の春とは風やなるらむ(古今和歌集)、
と、
起点となる場所・時を示す、
ようになり、日葡辞書(1603~04)にも、
コレカラアレマデ、
と載る。また、
惜しむから恋しきものを白雲の立ちなむ後は何心地せむ(古今和歌集)、
と、動詞連体形に付いて、
…するとすぐ、…するや否や、…だけでもう、
と、
後の事態が、前に引き続いて直ちに起こること、
をいう。それを人に当てて、
お乳の人はどこにぞ。御前から召します(浄瑠璃・丹波与作待夜の小室節)、
と、動作の発する人物を示し、
父から叱られた、
などと使う等々がある。また、
原因・理由を表す、
使い方として、
常世辺に住むべきものを剣大刀(つるぎたち)己(な)が心からおそやこの君(万葉集)、
と、
…によって、…のせいで、…ゆえ、…なので、
の意で使い、
手段を表す、
使い方として、
徒歩(カチ)からまかりていひ慰め侍らむ(落窪物語)、
と、
…で、…によって、
の意で使い、
資料・素材・原料を示す、
使い方として、
日本酒は米から作る、
と、
…を使って、…で、
の意で使ったりする(大辞林)。
「柄」(漢音ヘイ、呉音ヒョウ)は、
会意兼形声。「木+音符丙(ぴんと張る)」で、ぴんと張りだす意を含む、
とあり、別に、
会意兼形声文字です(木+丙)。「大地を覆う木」の象形と「脚の張り出た台」の象形(「張り出す」の意味)から、「道具の張り出した所、取っ手」を意味する「柄」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1426.html)が、他は、
形声。木と、音符丙(ヘイ)とから成る。手にとる木、「え」の意を表す(角川新字源)、
形声文字、「木」+ 音符「丙」(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9F%84)、
と、形声文字(意味を表す部分と音を表す部分を組み合わせて作られた文字)とする。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95