み吉野の 山下風(やまのあらし)の寒(さむ)けくにはたや今夜(こよひ)もわが独り寝(ね)む(古今和歌集)
霞(かすみ)立つ春日(かすが)の里の梅の花山下風(やまのあらし)に散りこすなゆめ(仝上)
の、
山下風、
について、
万葉集では、下風をあらしと訓むことから、やまのあらし、と訓読する、
とあり(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)、古今時代は、
やましたかぜか、
ともある(仝上)。冒頭の歌については、
白雪の降りしく時はみ吉野の山下風に花ぞ散りける(古今和歌集)、
というように、
吉野の雪を花に見立てている、
とある(仝上)
山下風(やましたかぜ)、
は、
山から(ふもとへ)吹き下ろす風、
つまり、
やまおろし、
をいい(広辞苑・大辞泉・精選版日本国語大辞典)、
やまおろし、
は、
山颪、
と当て(仝上)、
山颪の風(かぜ)、
山のおろし、
おろし、
等々とも言う(仝上)。
おろし、
は、
太平洋沿岸一帯で言われ、山脈の山頂からあまり高くない高度に逆転層があるとき、山または、丘から吹き下りてくる滑降風である、
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A2%AA)、日本海側では、
陸地や山から吹き出してくる風という意味で、「だし風」または「だし」と呼ぶ、
とある(仝上)。
関東平野の空っ風、
山形県の清川だし、
岡山県の広戸風、
等々その土地土地での固有の名で呼ばれることが多い(仝上)とある。
山下(やました)、
は、文字通り、
山の下の方、
山のふもと、
山すそ、
等々、また、
山の木や草の繁みの下、
についてもいう(精選版日本国語大辞典)。万葉集では、
神名火の山下(やました)とよみ行く水にかはづ鳴くなり秋と言はむとや、
と、
本来あまり人目につかない場所で、激しく音を立てて流れる水、つややかに咲き誇る花、美しく色づいたもみじなどに着目して詠まれている、
とあり(仝上)、古今和歌集以降では、
あしひきの山下水の木隠(こがく)れてたぎつ心を堰(せ)きぞかねつる、
と、
人目にふれないでいることに、主眼が置かれるようになり、特に、木々の影で、激しく流れる水を、ひそかな恋情にたとえる例が多くなる、
とある(仝上)。
(「山」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B1%B1より)
「山」(漢音サン、呉音セン)は、
象形。△カタの間を描いたもので、△型をなした分水嶺のこと、
とある(漢字源)。象形文字では一致するが、
山岳の形を象る(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B1%B1)、
山岳のそびえているさまにかたどる。「やま」の意を表す(角川新字源)、
「連なったやま」の象形から「山」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji77.html)、
と、山容については異同がある。
会意。「下(ふきおろす)+風」
とあり(漢字源)、国字、つまり、和製漢字である(字源)。
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95