2024年02月11日

むまのはなむけ


今日別れ明日はあふみと思へども夜やふけぬらむ袖の露けき(古今和歌集)、

の、前文にある、

むまのはなむけしける夜にめる、

とある、

むまのはなむけ、

の、

「むま」は馬、

で、

馬のはなむけ、

の意で、ここでは、

送別の宴、

を意味し、

もともと、旅立つ人の馬の鼻をその旅先の方へむけたことからいう、

とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

(はなむけ)」で触れたが、

うまのはなむけ、

は、

はなむけ(餞)、

に同じで、平安後期の漢和辞書『字鏡』(じきょう)に、

餞、馬乃波奈牟介、

とあり、

はなむけ、

は、

馬のはなむけの略、

ともある(大言海)。下っては、室町時代の意義分類体の辞書『下學集』に、

餞別、はなむけ、

とあるので、

別れに際して贈る贈り物、

の意となる。

うまのはなむけ、

は、

馬鼻向、
馬餞、
馬贐、
餞、

等々と当て(大言海・精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)、本来は、

いづみのくにまでと、たひらかに願たつ。ふじはらのときざね、ふなぢなれど、むまのはなむけす(土佐日記)、

と、

旅立つ人の前途の無事を祈って、出発にあたり旅行者と酒食をともにすること(精選版日本国語大辞典)、
古代、旅に出る人の安全を祈って、出発時にその人の乗馬の鼻を行き先の方に向けた習慣から、……送別の宴を行ったりすること(学研全訳古語辞典)、

という、いわゆる、

門出を祝う宴会、
壮行会、
送別会、

の意のようだ。そこから、

県(あがた)へゆく人に、むまのはなむけせむとて、よびて、うとき人にしあらざりければ、家刀自(いへとうじ)さかづきささせて、女の装束かづけんとす(伊勢物語)、

と、

旅立つ人に金品や詩歌などを贈ること。また、そのもの。餞別(精選版日本国語大辞典)、
旅立つ人を送り、其馬の鼻へ向けて物を贈ること、転じて、旅行く人に贈る凡ての品物、又は詩歌(大言海)、
旅立つ人に餞別(せんべつ)の金品を贈ったり……すること(学研全訳古語辞典)、

と、今日の、

餞別、

の意になっていく。

鼻向け、

は、

その方に鼻を向けること。匂いを嗅ぐために、その方向に鼻を向けること、

とあり(広辞苑・日本国語大辞典)

旅立つ人の馬の鼻を行くべき方へ向けて見送った習慣による、

とある(広辞苑・学研国語大辞典)。

馬の鼻を立て直す、

と言い方もあり、これは、

馬の鼻先をもと来た方へ向け変える、

意となる(日本国語大辞典)。

「馬のはなむけ」の由来は、文字通り、

旅に出る人の安全を祈って、出発時にその人の乗馬の鼻を行き先の方に向けた習慣(学研全訳古語辞典)、
旅に出る人を送る時馬の鼻を行き先に向けたことからという(岩波古語辞典)、
行くべき方向へ馬の鼻をむけてやる意(安斎随筆・俚言集覧)、
馬の鼻の向かう方の意(和句解)、

と、「馬の鼻を行き先へ向ける」意とする説と、

馬の鼻に向かって餞別する意(和句解・日本語源=賀茂百樹・大言海)、

と、「馬の鼻に餞別する」意とする説とに分かれるが、常識的には前者のような気がする。

なお、「うま」については触れた。

「馬」 漢字.gif

(「馬」 https://kakijun.jp/page/uma200.htmlより)


「馬」 金文・殷.png

(「馬」 金文・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%A6%ACより)


「馬」甲骨文字・殷.png

(「馬」甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%A6%ACより)

「馬」(漢音バ、呉音メ、唐音マ)は、

象形。うまをえがいたもの。古代中国で馬の最も大切な用途は戦車を引くことであった。向う見ずに突き進む宿直を含む、

とある(漢字源)。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:47| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする