別れてはほどをへだつと思へばやかつ見ながらにかねて恋しき(古今和歌集)
の、
かつ、
は、
同時に起きている二つの事柄の一方をさす、
とあり(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)、
ほど、
は、
距離、
の意とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
かつ、
は、
且つ、
と当て、
二つの動作・状態が並行して同時に存在することを表す。二つの「かつ」が相対して用いられる場合と、一方にのみ「かつ」が用いられる場合とがある(広辞苑)、
二つのことが同時にまたは相前後して行われることを表す(大辞林)、
ある行為や心情が、他の行為や心情と並んで存在する関係にあることを表わす(日本国語大辞典)、
(「…かつ…」または「かつ…かつ…」の形で)二つの行為や事柄が並行して行われることを表す(大辞泉)、
対(ムカ)ひたるものの片一方の意(大言海)、
一方で、ある動作・作用の行われると同時に、他方で、もう一つの動作・作用の行われる意。相反する二つが対照的に行われる場合と、二つのことが連鎖的に行われる場合とがある(岩波古語辞典)、
等々で、二つのことが連鎖的に行われる場合(岩波古語辞典)、
一方では、
の意となる。接続詞として使う場合、漢文訓読に由来して、
先行の事柄に、後行の事柄が並列添加される関係にあること、
を示し(日本国語大辞典)、
学び、かつ遊ぶ、
必要にしてかつ十分な条件、
と、
それとともに、
その上に、
の意で使う(広辞苑・仝上)。
当然、相反する二つが対照的に行われる場合(岩波古語辞典)、
うつせみの世にも似たるか花ざくら咲くと見しまにかつ散りにけり(古今和歌集)、
と、
(ある行為や心情が、他の行為や心情(特にしばしばこれと矛盾するような行為や心情)に、直ちに移ること、
を表わし(岩波古語辞典・日本国語大辞典)、
…する間もなく、
…するとすぐ、
たちまち、
すぐに、
と連続した意味で使う。それとつながるが、
二つの動作の間隔がごく短い場合(岩波古語辞典)、
筆にまかせつつあぢきなきすさびにて、かつ遣り捨つべきものなれば(徒然草)、
と、
……するはしから、
という意でも使ったり(日本国語大辞典)、
かつあらはるるをも顧みず、口に任せて言ひ散らすは(徒然草)、
と、
すぐに、
の意で使う(広辞苑)。その連続性の隙間になれば、
ある行為や心情が、本格的でない形で、短時間だけ、またはかりそめに成り立つこと、
を表わし(日本国語大辞典)、
かつ見るにだにあかぬ御様をいかで隔てつる年月ぞ(源氏物語)、
と、
とりあえず、
ついちょっと、
わずかに、
かりに、
といった意味になる(広辞苑・仝上)。また、同時並行の特殊な例として、
ある行為や心情が、他の行為や心情に先立って成り立つ、
ことを表わし、
後世の苦しみかつ思ふこそかなしけれ(平家物語)、
というような、
あらかじめ、
前もって、
事前に、
という意で使う例もある(仝上)。さらに、
「知る」「見る」「聞く」などの動詞の上にきて、
それが先行しているという意味からか、
世の中し常かくのみとかつ知れど痛き心は忍びかねつも(万葉集)、
と、
すでに、
もう、
という意味で使う例もある(広辞苑)。この、
かつ、
の由来は、
片と通ず(籠(かたま)、かつみ。熱海(あつみ)、あたみ)(大言海)、
カタ(片)の義(国語溯原=大矢徹)、
つきあわせて一緒にする意のカテ(合・糅)と同根か(岩波古語辞典)、
動詞カテ(加)の転で、又の意(日本古語大辞典=松岡静雄)、
物を混ぜ合わせる意のカツ(搗)と同源の語か(角川古語大辞典)、
とあるが、
かてて加えて、
という言い方がある。
糅てて加えて、
と当て、
かててくわへておかちが煩ひ、伯父の難儀(油地獄)、
と、
ある事柄にさらに他の事柄が加わって、
と、
その上、
おまけに、
の意で、多く、
よくないことが重なるときに使われる、
とある(デジタル大辞泉)。この、
「かて」は動詞「か(糅)つ」(下二)の連用形、
で、
かてて加えて、
は、混ぜ合わせたところに更に加えるの意味から、「さらに」「その上に」、
を表す(語源由来辞典)、強調した言い方になっている。後からできた言葉ではあるが、
つきあわせて一緒にする意のカテ(合・糅)と同根か(岩波古語辞典)、
に軍配を上げたい気分である。
(「且」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%94より)
「且」(①漢音・呉音シャ、②漢音ショ、呉音ソ)は、
象形。物を積み重ねた形を描いたもので、物を積み重ねること。転じて、重ねる意の接続詞となる。また、物の上に仮にちょっとのせたものの意から、とりあえず、間に合わせの意にも転じた、
とあり(漢字源)、接続詞として「かつ」「その上に」が①の音、「其樂只且(其れ楽しまんかな)」(詩経)と、詩句で語調を整える助辞の場合は、②の音、とある(仝上)。別に、
象形。もと「俎」の略体で、小さな台を象る。「まないた」を意味する漢語{俎 /*tsraʔ/}を表す字。のち仮借して「かつ」「さらに」を意味する接続詞{且 /*tshaʔ/}に用いる、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%94)、
象形。肉を入れて神に供える、重ね形になっている器の形にかたどる。「俎(シヨ、ソ)」の原字。借りて「かつ」「かりに」などの意の助字に用いる、
とも(角川新字源)、
象形文字です。「台上に神へのいけにえを積み重ねた」象形から、「まないた」を意味する「且」という漢字が成り立ちました。借りて(同じ読みの部分に当て字として使って)、「かつ(さらに、その上)」、「まさに・・・す(今にも・・・しようとする)」などの意味も表すようになりました、
とも(https://okjiten.jp/kanji1789.html)ある。この漢字の意味は、和語「かつ」にも反映している。「且」を当てたせいかどうかはわからないが。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95