思へども身にしわけねば目に見えぬ心を君にたくへてぞやる(古今和歌集)
の、
たぐふ、
は、
寄り添わせる、
意(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)とある。
たぐふ、
は、
類ふ、
比ふ、
偶ふ、
副ふ、
などと当てる(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典・大言海)が、
似つかわしいもの、あるいは同質のものが二つ揃っている意。類義語ツル(連)は、つながって一線にある意、ナラブ(並)は、異質のものが凹凸なく揃う意、
とあり、ハ行四段活用の自動詞は、
語幹(たぐ)未然形(は)連用形(ひ)終止形(ふ)連体形( ふ)已然形(へ)命令形(へ)
と活用し(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%9F%E3%81%90%E3%81%B5)、
比ふ、
類ふ、
偶ふ、
と当て(仝上)、
鴛鴦(をし)二つ居て偶(たぐひ)よく陀虞陛(タグヘ)る妹を誰か率(ゐ)にけむ(日本書紀)、
と、
同じものが二つ並んでいる、
意味で、
並ぶ、
寄り添う、
いっしょにいる、
連れだっている、
意や、
道行く者も多遇譬(タグヒ)てぞ良き(日本書紀)、
と、
伴う、
連れだつ、
いっしょに行く、
意や、
御前の河波、嵐にたぐひ、山をひびかす(保元物語)、
と、
相応ずる、
呼応する、
意の状態表現で使い(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)、その対を、
君達の上(かみ)なき御選びには、ましていかばかりの人かは、たぐひ給はん(源氏物語)、
と、
似あう、
かなう、
適合する、
相当する、
という意や、さらに、
水の泡とも消え、底の水屑(みくず)ともたぐひなばやとぞ思し召す(保元物語)、
と、
仲間となる、
という意の価値表現としても使う(仝上)。この、他動詞、ハ行下二段活用は、
語幹(たぐ)未然形(へ)連用形(へ)終止形(ふ)連体形(ふる)已然形(ふれ)命令形(へよ)
と活用し(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%9F%E3%81%90%E3%81%B5)、
比ふ、
類ふ、
偶ふ、
供ふ
副ふ、
等々と当て(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典・大言海)、
花のかを風のたよりにたぐへてぞさそふしるべにはやる(古今和歌集)、
と、
(似つかわしいもの、あるいは同質のものとして)二つを一緒に揃える、
並ばせる、
添わせる、
いっしょに居させる、
意や、
おもへども身をしわけねば目に見えぬ心をきみにたぐへてぞやる(古今和歌集)、
と、
伴わせる、
連れだたせる、
いっしょに行かせる、
意、
松のひびきに秋風楽をたぐへ(方丈記)、
と、
合わせる、
意、
我にたぐへてあはれなるはこの里(謡曲・柏崎)、
と、
(似たものを)ならべる、
引き比べる、
意でつかい、そこから、その意をメタファに、
かさねては乞ひえまほしき移り香を花橘に今朝たぐへつつ(山家集)、
と、
なぞらえる、
似せる、
ならう、
意で使う。この名詞が、
たぐひ(類・偶・比・屬)、
で、色葉字類抄(平安末期)に、
類、屬、比倫、
新撰字鏡(平安前期)に、
儕、止毛加良(ともがら)、又、太久比(たぐひ)、
類聚名義抄(11~12世紀)に、
比、タグヒ、
平安後期の漢和辞書『字鏡』(じきょう)に、
儕、輩類也、太久比、
などとあり、
同じ並(なみ)なる物事、
で(大言海)、
同じ種類のもの、
よく似た物事、
同類、
同列、
同種、
の意で、当然、人に当てはめれば、
仲間、
同胞(はらから)
の意にもなる。ただ、この語源については
タテナラブの約略(万葉考)、
くらいしか見当たらない。
(「比」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%AF%94)
「比」(漢音ヒ、呉音ヒ・ビ)は、
会意文字。人が二人くっついて並んだことを示すこと、
とある(漢字源・角川新字源)。別に、
形声。音符「匕 /*PI/」を二つ並べた文字[字源 1]。「ならぶ」「ならべる」を意味する漢語{比 /*piʔ/}を表す字。のち仮借して「くらべる」を意味する漢語{比 /*pis/}に用いる。『説文解字』では人が二人並んだ形で「从」を左右反転させた文字であると解釈されているが、甲骨文字から現代に至るまで「人」字と「匕」字は一貫して形状が異なるため、この分析は誤りである、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%AF%94)ある。
「類」(ルイ)は、
会意文字。もと「米(たくさんの植物の代表)+犬(種類の多い動物の代表)+頁(あたま)」で、多くの物の頭かずをそろえて、区分けすることをあらわす。多くの物を集めて系列をつける意を含む、
とある(漢字源)。また、
会意文字です(犬+米+頁)。「横線(穀物の穂)と六点(米)」の象形と「犬」の象形と「人の頭部を強調した」象形(「頭部」の意味)から、人・犬の顔も米も区別を認めにくい事から、「にる」を意味する「類」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji678.html)が、
形声。「犬」+音符「頪 /*RUT/」。「たぐい」を意味する漢語{類 /*ruts/}を表す字、
も(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%A1%9E)、
形声。意符犬(いぬ)と、音符頪(ルイ、ライ)とから成る。犬を犠牲として天を祭る意を表す。借りて「たぐい」、似るなどの意に用いる、
も(角川新字源)も、形声文字とする。
「偶」(慣用グウ、漢音ゴウ、呉音グ)は、
会意兼形声。禺は、上部が大きい頭、下部が尾で、大頭の人まね猿を描いた象形文字。偶は「人+禺(グウ)」で、人に似た姿であることから、人形の意となり、本物と並んで対をなすことから、偶数の偶の意となる、
とある(漢字源)。別に、
形声。人と、音符禺(グ)→(ゴウ)とから成る。ひとがたの意を表す。耦(グウ)・俱(グ)に通じ、転じて、つれあい、くみの意に用いる、
とも(角川新字源)
形声文字です(人+禺)。「横から見た人」の象形(「人」の意味)と「大きな頭と尾を持ったサル、おながざる又は、なまけもの」の象形(「おながざる・なまけもの」の意味だが、ここでは、「寓(ぐう)」に通じ(同じ読みを持つ「寓」と同じ意味を持つようになって)、「かりる」の意味)から、木を借りて人の形に似せたもの「人形(ひとがた・でく)」を意味する「偶」という漢字が成り立ちました、
とも(https://okjiten.jp/kanji1529.html)あり、形声文字(意味を表す文字(漢字) と音(読み)を表す文字(漢字)を組み 合わせてできた漢字)とする。会意兼形声文字は、会意文字(二文字以上の漢字の形・意味を組み合わせて作られた漢字)と形声文字の特徴を併せ持つ漢字となる。
(「副」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%89%AFより)
「副」(フク)は、
形声文字。畐(フク)は、腹がふくれ、一杯酒のはいるとっくりを描いた象形文字。副は、刀にそれを単なる音符としてそえたもの。原義とは関係ない。剖(ホウ)と同じく、もと二つに切り分けることであるが、むしろその二つかぴたりとくっついてペアを成す意に専用される。倍・逼(ヒョウ・ヒツ ぴたりとくつつく)・富(財貨がびっしりつまっている)とも縁が近い、
とある(漢字源)、別に、
形声。「刀」+音符「畐 /*PƏK/」。「わける」を意味する漢語{副 /*phrək/}を表す字。のち仮借して「二番目の」を意味する漢語{副 /*phəks/}に用いる、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%89%AF)、
形声。刀と、音符畐(フク)とから成る。刀で切り裂く意を表す。また、二つに裂かれた半分と半分とが並んでいることから、「そう」意に用いる、
とも(角川新字源)、
形声文字です(畐+刂(刀))。「神にささげる酒ツボ」の象形(器の中に酒などが「満ちる」の意味だが、ここでは「北」に通じ(「北」と同じ意味を持つようになって)、「1つの物が2つに離れる」事の意味)と「刀」の象形から、「刀でさく」意味する「副」という漢字が成り立ちました。また、2つのものでありながら、「寄りそっている」の意味も表します、
とも(https://okjiten.jp/kanji623.html)あり、ともに、形声文字とする。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95