2024年02月15日
あさなけに
あさなけに見べき君としたのまねば思ひたちぬる草枕なり(古今和歌集)、
の、
あさなけに、
は、
朝日、
とも当て(精選版日本国語大辞典)、
「朝にけに」の転、
で、
け、
は、
晝、
とあり(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)、
あるいは、
朝にけに、
朝な朝な、
などとの混交、
ともある(仝上)。
朝も昼も、
いつも、
の意となる(広辞苑)。
け、
は、
カ(日)の転、
ヒ(日)が一日をいうのに対して二日以上にわたる期間をまとめていう語、
とあり、
日(ヒ)の複数名詞で、këの音、
となる(岩波古語辞典)、この場合、「け」は、上代特殊仮名遣(じょうだいとくしゅかなづかい)の、
乙類、
成句「日(ひ)にけに」(日ましにの意)の「け」は、
異(ケ)、
で、
keの音で別語、
であり、この場合は、
甲類、
となる。ただ、
このように複数だけを表す単語は日本語では他例がない、
とある(仝上)。「万葉集」では、すべて、
青山の嶺の白雲朝爾食爾(あさニけニ)常に見れどもめづらしあが君、
というように、
あさにけに(朝爾日爾、朝爾食爾)、
である(精選版日本国語大辞典)。
ただ、別に、
ケは、來経(キヘ)の約、
とする説(大言海)があり、その場合、「け」は、
き、への約と云うふ(八年経(ヤトシヘ)、八年(ヤトセ)、高嶺(タカネ)、嶽(タケ))…、幾日(イクカ)のカ、日讀(暦 コヨミ)のコ、この語の転、
で、
年月の、來つつ、経行くこと、
とする(仝上)。
きふ(來経)、
は、
あらたまのとしかきふればあらたまのつきはきへゆくうへなうへな(古事記)、
萬世に年は岐布(キフ)とも梅の花絶ゆることなく咲きわたるべし(万葉集)、
と、
年月、経來(へきた)る、
意とする(仝上)。ただ、
ケはカ(日)の転、
とする説が大勢(日本古語大辞典=松岡静雄・時代別国語大辞典-上代編・精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典・広辞苑等々)であるが、是非の判断はつかない。個人的には、毎朝の意の、
朝な朝な、
があるのだから、
日の転、
というよりは、
経來(へきた)る、
の方がいい気がするが、まあ、個人的嗜好でしかない。
「朝」(①漢音・呉音チョウ、②漢音チョウ、呉音ジョウ)は、「後朝(きぬぎぬ)」で触れたように、
会意→形声。もと「艸+日+水」の会意文字で、草の間から太陽がのぼり、潮がみちてくる時をしめす。のち「幹(はたが上るように日がのぼる)+音符舟」からなる形声文字となり、東方から太陽の抜け出るあさ、
とある(漢字源)。①は、「太陽の出てくるとき」の意の「あさ」に、②は「来朝」のように、「宮中に参内して、天子や身分の高い人のおめにかかる」意の時の音となる(仝上)。同趣旨で、
形声。意符倝(かん 日がのぼるさま。𠦝は省略形)と、音符舟(シウ)→(テウ)(は変わった形)とから成る。日の出時、早朝の意を表す、
とも(角川新字源)、
会意文字です。「草原に上がる太陽(日)」の象形から「あさ」を意味する「朝」という漢字が成り立ちました。潮流が岸に至る象形は後で付された物です、
とも(https://okjiten.jp/kanji152.html)あるが、
「朝」には今日伝わっている文字とは別に、甲骨文字にも便宜的に「朝」と隷定される文字が存在する、
として(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9C%9D)、
会意文字。「艸」(草)+「日」(太陽)+「月」から構成され、月がまだ出ている間に太陽が昇る明け方の様子を象る。「あさ」を意味する漢語{朝 /*traw/}を表す字。この文字は西周の時代に使われなくなり、後世には伝わっていない、
とは別に、
形声。「川」(または「水」)+音符「𠦝 /*TAW/」。「しお」を意味する漢語{潮 /*draw/}を表す字。のち仮借して「あさ」を意味する漢語{朝 /*traw/}に用いる。今日使われている「朝」という漢字はこちらに由来する、
とし、
『説文解字』では「倝」+音符「舟」と説明されているが、これは誤った分析である。金文の形を見ればわかるように、「倝」とも「舟」とも関係が無い、
とある(仝上)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95