逢ふからもものはななほこそかなしけれ別むことをかねておもえば(古今和歌集)、
は、
からもものはな
を詠みこんでいるが、
からも、
は、
からに、
と同じで、
……すると同時に、
の意であり、
からもも、
は、
杏の古名、
とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
からもも、
は、
中国渡来のモモ、
意で、「天治字鏡(天治本新撰字鏡)」(898年~901年)に、
杏、辛桃、
「本草和名(ほんぞうわみょう)」(918年編纂)に、
杏子、加良毛毛、
「類聚名義抄」(11~12世紀)に、
杏・杏子、加良毛毛、
とある。
あんず、
は、
杏子の唐音(日本釈名・大言海・国語の中に於ける漢語の研究=山田孝雄)、
とされ、
杏子(きやうし)の宋音、禅僧の杏子(カラモモ)に読みつけたる語なるべし。本草和名に、「俗に、杏子、唐音に呼んで、アンズとも云ひ、杏仁をアンニンと云ふ」、銀杏(ギンキヤウ)を、ギンアンと云ふも是れなり、本草に、杏核、一名杏子とあれば、杏子は、元来、核(タネ)の名なりしが如し、
とある(大言海)ように、
ももになぞらえうる外来の植物ということで、別の種類の植物とともに「からもも」と呼ばれていたが、杏の果実である「杏子」を食する習慣が、アンズという音で普及するに及び、果実だけでなく、その木や花もアンズと呼ばれることになった。また種子であるアンニン(杏仁)を薬用とすることも、普及に寄与した、
とあり(日本語源大辞典)、
江戸時代になってから、漢名の杏子を唐音読みでアンズとなったといわれている、
という(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%BA)。
なお、
からもも、
には、
紫檀、蘇枋(すはう)、黒柿(くろがい)、唐桃(からもも)などいふ木どもを材木として、金銀、瑠璃、車渠(しやこ)、瑪瑙(めなう)の大殿を造り重ねて(宇津保物語)、
と、
寿星桃(じゅせいとう)、
江戸桃、
源平桃、
アメンドウ、
はなあんず、
西王母、
さきわけもも、
日月桃(じつげつとう)、
等々とも呼ぶ、
中国原産のモモの一種、
の桃の栽培品種がある。
葉は細長く密に茂り、小木であるが、花は多く咲き、幹は一メートルぐらいで、三〇センチメートルに足りない小木にも花や実がつく。葉は細長く、よく茂る。花は、一重、八重、紅色、白色、紅白のしぼりなどがある、
もので、一般には、
ハナモモ(花桃)、
という名で知られる。
アンズ、
は、
バラ科サクラ属の落葉高木。中国の原産。果樹として広く世界で栽培、日本では東北地方・長野県で栽培。幹の高さ約3メートル。葉は卵円形で鋸歯がある。早春、白色または淡紅色の花を開く。果実は梅に似て大きく、初夏に実り、果肉は砂糖漬・ジャムなどにする。種子は生薬の杏仁(きょうにん)で、咳どめ薬の原料、
である。
ハナモモ、
は、
バラ科モモ属の耐寒性落葉低木、幹は一メートルぐらいになるが、三〇センチメートルに足りない小木でも花や実がつく。葉は細長くて、よく茂る。花は、一重・八重、紅色・白色・紅白のしぼりなどの変化がある。結実するが実は小さく、食用には適さない。
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%8A%E3%83%A2%E3%83%A2・精選版日本国語大辞典・広辞苑)。
(「桃」 楚系簡帛文字(簡帛は竹簡・木簡・帛書全てを指す) 戦国時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A1%83より)
「桃」(漢音トウ、呉音ドウ)は、
会意兼形声。兆(チョウ)は、ぽんと二つに離れるさま。桃は「木+音符兆」で、その実が二つに割れるももの木、
とある(漢字源)。同趣旨で、
会意兼形声文字です(木+兆)。「大地を覆う木」の象形と「うらないの時に亀の甲羅に現れる割れ目」の象形(「前ぶれ」の意味だが、ここでは、「2つに割れる」の意味)から、2つにきれいに割れる木の実、「もも」を意味する「桃」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji308.html)が、
形声。「木」+音符「兆 /*LAW/」。「もも」を意味する漢語{桃 /*laaw/}を表す字、
と(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A1%83)、
形声。木と、音符兆(テウ)→(タウ)とから成る。「もも」の意を表す、
と(角川新字源)、形声文字とする説もある。
「杏」(慣用キョウ、唐音アン、漢音コウ、呉音ギョウ)は、
会意文字。「木+口」で、口に食べてみておいしい実のなる木をあらわす、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(木+口)。「大地を覆う木」の象形(「木」の意味)と「口」の象形(「種類、口」の意味)から、木の一種「あんず(バラ科の落葉高木)」、「ぎんなん(いちょうの木の実)」を意味する「杏」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2212.html)が、
形声。木と、音符向(キヤウ)→(カウ)(口は省略形)とから成る、
ともある(角川新字源)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95