2024年02月26日

鵲(かささぎ)の橋


くもゐ」で触れたように、

かささぎの雲井の橋の遠ければ渡らぬ中に行く月日哉(続古今集)、

の、

雲居の橋(くもいのはし)、

は、

雲のかなたにかかっている橋、

で、

鵲(かささぎ)の橋、

を指す。

梅田の橋をかささぎのはしとちぎりていつ迄も我とそなたは女夫(めおと)星(近松門左衛門『曾根崎心中』)、

の、

鵲(かささぎ)の橋、

は、

烏鵲橋(うじゃくきょう)、
烏鵲の橋(うじゃくのはし)、
鵲橋(じゃっきょう)、

ともいい(精選版日本国語大辞典・大辞泉)、

星の橋、
行合(ゆきあひ)の橋、
寄羽の橋、
天の小夜橋、
紅葉の橋、

等々の名もあるhttps://kigosai.sub.jp/001/archives/9973

七夕(たなばた)の夜、天の川にかけられるという鵲(かささぎ)の橋、

を指し、そこから、

宮中の階段、

をもいう(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。これは、後漢末の応劭著『風俗通』(『風俗通義(ふうぞくつうぎ)』)に、

織女七夕、当渡河、使鵲為橋、

とあるのにより、

陰暦七月七日の夜、牽牛(けんぎゅう)、織女(しょくじょ)の二星が会うときに、鵲が翼を並べて天の川に渡すという想像上の橋、

をいい、

男女の仲をとりもつもの、男女の契りの橋渡しの意のたとえ、

としても用いられ(精選版日本国語大辞典)、唐代の類書『白氏六帖』(はくしりくじょう 白居易撰)にも、

烏鵲塡河成橋、而渡織女、

とある(字源)。ただ、中国では、

織女を渡らしむ、

とあるのに、日本では、

ひこ星の行あひをまつかささぎの渡せる橋をわれにかさなむ(菅原道真)、

と詠い、

牽牛星が橋を渡るものとされていた、

ようであるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B5%B2%E6%A9%8B。因みに、

類書(るいしょ)、

とは、

事項別に分類・編集した書物。特に中国で、事項別に、それに関する詩文などの文献をまとめた書。あらゆる単語について、その用例を過去の書籍から引用した上で、それらの単語を天地人草木鳥獣などの分類順または字韻順に配列して検索の便をはかった、字引きのことである。結果として百科事典の機能ももつ、

とある(精選版日本国語大辞典・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A1%9E%E6%9B%B8)。

難波吉士磐金(きしのいわかね)、新羅より至(まゐ)りて、鵲(カササキ)二隻(ふたつ)を献る(日本書紀・推古紀)、

とあり、

鵲、

は、

烏鵲(うじゃく)、

ともいい、和名類聚抄(平安中期)に、

鵲、加佐佐木、

とあり、

カラス科の鳥。全長約四五センチメートルで、カラスより小さい。腹面および肩羽は白色で、ほかは金属光沢を帯びた黒色。尾羽は長く、二六センチメートルにも達する。村落近くにすみ、雑食性で、樹上に大きな巣をつくる。中国、朝鮮に多く分布するが、日本では佐賀平野を中心に九州北西部にだけみられ(朝鮮出兵の際九州の大名らが朝鮮半島から持ち帰り繁殖したものとする説がある)、天然記念物に指定されている、

とある(精選版日本国語大辞典・大辞泉)。鳴き声がカチカチと聞こえるので、

カチガラス、

ともいい(仝上)、

高麗鴉、
挑戦鴉、
唐鴉、

という別名を持ち、筑後に多いので、

筑後鴉、

の名もある(大言海)。古代の日本には、もともとカササギは生息しなかったらしく、「魏志倭人伝」も「日本にはカササギがいない」とあり、

七夕の架け橋を作る伝説の鳥、

として、カササギの存在は日本に知られることとなり、奈良時代、

鵲の渡せる橋におく霜のしろきを見れば夜ぞ更けにける(小倉百人一首)、

と詠われるに至ったと見られるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%B5%E3%82%B5%E3%82%AE

カササギ.jpg



羽を広げたカササギ.jpg


鵲、

の由来は、

カサは朝鮮の古名カス、又は、カシの転と云ふ(今はカアチ)、サギは鵲(サク)の音、韓、漢、雙擧の語なり、同地にて、火をフルハアと云ふ、フルは、其国語にて、ハアは火(フア)の字音と合して云ふ、此例の多し(大言海)、
朝鮮語にkat∫iという鳴き声からの命名か(岩波古語辞典)、
カサはこの鳥の朝鮮の方言、サギは鷺の意(名言通)、
カサは、鵲をいう朝鮮の方言カシの転、サギはサワギ(噪)から(東雅)、

等々あるが、基本、日本では認識されていなかった鳥なので、

朝鮮由来、

ということはあるかもしれない。また漢字「鵲」自体が、擬声語なので、鳴声由来はありえそうである。

上述のように日本書紀に、

難波吉士磐金、至自新羅、而献鵲、

とあり、二羽の鵲を持ち帰ったが、この「鵲」には万葉仮名が振られておらず、「かささぎ」という読みが初めて登場するのは、上述した和名類聚抄(平安中期)である。ために、

七夕のカササギの伝承、

は日本では、サギの仲間と考えてサギで代用され、八坂神社の祇園祭にて奉納された、

鷺舞、

は、中国の七夕伝説を端緒にするものとされる。また、名前は鷺舞であるが、この鷺は鵲であり、七夕伝説に於いて、牽牛と織女のため、天の川に桟を渡した伝承に因んだものであるが、京都では鵲は飛来してこないため鵲という存在を知らず、そのため鵲とは鷺の一種であろうと笠を被った白鷺をカササギに見立てたものとされている、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B7%BA%E8%88%9E

なお、「たなばた」については触れた。

「鵲」.gif

(「鵲」 https://kakijun.jp/page/EA46200.htmlより)

「鵲」(慣用ジャク、漢音シャク、呉音サク)は、

形声。「鳥+音符昔」。ちゃっちゃと鳴く声をまねた擬声語、

とある(漢字源)。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:24| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする