散りぬればのちは芥(あくた)になる花を思ひ知らずもまどふてふかな(古今和歌集)
は、
芥(あくた)になる花、
に、
くたに
を詠みこんでいる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
くたに、
は、
苦丹、
と当て、
竜胆
や
牡丹
とされる(仝上)。
卯の花の垣根ことさらにしわたして、昔おぼゆる花橘、撫子(なでしこ)、薔薇(さうび)、苦丹などやうの花草々を植ゑて、春秋の木草、そのなかにうち混ぜたり(源氏物語)、
とある、
くたに、
は、
くだに、
とも言い、
苦胆、
とも当て、貝原益軒編纂の『大和本草(1708)』にも、
龍膽、和名リンドウ、一名くたにと云ふ、
とあり、
リンドウの異称、
とされるが、一説に、
ボタンの異称、
ともあって未詳とされる(広辞苑・精選版日本国語大辞典・大辞林)。
リンドウ(竜胆)、
は、
リンドウ科リンドウ属の多年生植物、
で、別名、
イヤミグサ、
古くは、
えやみぐさ(疫病草、瘧草)、
とも呼ばれた(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%A6)。
山野に生え、高さ20~60センチ。葉は先のとがった楕円形で3本の脈が目立ち、対生する。秋、青紫色の鐘状の花を数個上向きに開く、
とある(デジタル大辞泉)。同科には、
ハルリンドウ・ミヤマリンドウ・センブリ、
等々も含まれる(仝上)。
りゅうたん、
と訓むと、漢方で健胃薬などに用いる、
リンドウの根および根茎、
を指す(仝上)。和名、
リンドウ、
は、漢名の、
竜胆(龍胆りゅうたん)の音読み、
に由来し、中国では代表的な苦味で古くから知られる熊胆(くまのい)よりも、さらに苦いという意味で「竜胆」と名付けられた、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%A6)。
ボタン(牡丹)、
は、
ボタン科ボタン属の落葉小低木、
または、
ボタン属の総称、
とあり、原産の中国名も、
牡丹、
別名は、
富貴草・富貴花・百花王・花王・花神・花中の王・百花の王・天香国色・名取草・深見草・二十日草(廿日草)・忘れ草・鎧草・ぼうたん・ぼうたんぐさ、
等々多数ある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%82%BF%E3%83%B3_%28%E6%A4%8D%E7%89%A9%29)が、「深見草」で触れた。
(「苦」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8B%A6より)
「苦」(漢音コ、呉音ク)は、
会意兼形声。古は、かたい頭骨を描いた象形文字で、かたくかわいたの意を含む。苦は「艸+音符古」で、口がこわばってつばがでない感じがする、つまり、にがい味のする植物のこと、
とある(漢字源)。別に、
形声。「艸」+音符「古 /*KA/」。「苦菜」を意味する漢語{苦 /*khaaʔs/}および「にがい」を意味する漢語{苦 /*khaaʔ/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8B%A6)、
形声。艸と、音符古(コ)とから成る。にがな、ひいて「にがい」、転じて「くるしい」意を表す(角川新字源)、
会意兼形声文字です(艸+古)。「並び生えた草」の象形と「固いかぶと(兜)」の象形(「固い」の意味)から、固い草⇒にがい草を意味し、さらに転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)「にがい・くるしい」を意味する「苦」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji262.html)、
と、ほぼ同趣旨の、「にがい植物」を指している。
(「丹」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%B9より)
「丹」(タン)は、
会意文字。土中に掘った井型の枠の中から、あかい丹砂があらわれでるさまをしめすもので、あかい物があらわれでることをあらわす。旃(セン 赤い旗)の音符となる、
とある(漢字源)。
会意。「井」+「丶」、木枠で囲んだ穴(丹井)から赤い丹砂が掘り出される様(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%B9)、
象形。採掘坑からほりだされた丹砂(朱色の鉱物)の形にかたどる。丹砂、ひいて、あかい色や顔料の意を表す(角川新字源)、
象形文字です。「丹砂(水銀と硫黄が化合した赤色の鉱石)を採掘する井戸」の象形から、「丹砂」、「赤色の土」、「濃い赤色」を意味する「丹」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji1213.html)、
も、ほぼ同趣旨である。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95