2024年03月05日

くたに


散りぬればのちは芥(あくた)になる花を思ひ知らずもまどふてふかな(古今和歌集)

は、

芥(あくた)になる花、

に、

くたに

を詠みこんでいる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

くたに、

は、

苦丹、

と当て、

竜胆

牡丹

とされる(仝上)。

卯の花の垣根ことさらにしわたして、昔おぼゆる花橘、撫子(なでしこ)、薔薇(さうび)、苦丹などやうの花草々を植ゑて、春秋の木草、そのなかにうち混ぜたり(源氏物語)、

とある、

くたに、

は、

くだに、

とも言い、

苦胆、

とも当て、貝原益軒編纂の『大和本草(1708)』にも、

龍膽、和名リンドウ、一名くたにと云ふ、

とあり、

リンドウの異称、

とされるが、一説に、

ボタンの異称、

ともあって未詳とされる(広辞苑・精選版日本国語大辞典・大辞林)。

リンドウ.jpg



ボタン.jpg


リンドウ(竜胆)、

は、

リンドウ科リンドウ属の多年生植物、

で、別名、

イヤミグサ、

古くは、

えやみぐさ(疫病草、瘧草)、

とも呼ばれたhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%A6

山野に生え、高さ20~60センチ。葉は先のとがった楕円形で3本の脈が目立ち、対生する。秋、青紫色の鐘状の花を数個上向きに開く、

とある(デジタル大辞泉)。同科には、

ハルリンドウ・ミヤマリンドウ・センブリ、

等々も含まれる(仝上)。

りゅうたん、

と訓むと、漢方で健胃薬などに用いる、

リンドウの根および根茎、

を指す(仝上)。和名、

リンドウ、

は、漢名の、

竜胆(龍胆りゅうたん)の音読み、

に由来し、中国では代表的な苦味で古くから知られる熊胆(くまのい)よりも、さらに苦いという意味で「竜胆」と名付けられた、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%A6

ボタン(牡丹)、

は、

ボタン科ボタン属の落葉小低木、
または、
ボタン属の総称、

とあり、原産の中国名も、

牡丹、

別名は、

富貴草・富貴花・百花王・花王・花神・花中の王・百花の王・天香国色・名取草・深見草・二十日草(廿日草)・忘れ草・鎧草・ぼうたん・ぼうたんぐさ、

等々多数あるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%82%BF%E3%83%B3_%28%E6%A4%8D%E7%89%A9%29が、「深見草」で触れた。

「苦」.gif

(「苦」 https://kakijun.jp/page/0894200.htmlより)

「苦」 中国最古の字書『説文解字.png

(「苦」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)・漢 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8B%A6より)

「苦」(漢音コ、呉音ク)は、

会意兼形声。古は、かたい頭骨を描いた象形文字で、かたくかわいたの意を含む。苦は「艸+音符古」で、口がこわばってつばがでない感じがする、つまり、にがい味のする植物のこと、

とある(漢字源)。別に、

形声。「艸」+音符「古 /*KA/」。「苦菜」を意味する漢語{苦 /*khaaʔs/}および「にがい」を意味する漢語{苦 /*khaaʔ/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8B%A6)

形声。艸と、音符古(コ)とから成る。にがな、ひいて「にがい」、転じて「くるしい」意を表す(角川新字源)、

会意兼形声文字です(艸+古)。「並び生えた草」の象形と「固いかぶと(兜)」の象形(「固い」の意味)から、固い草⇒にがい草を意味し、さらに転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)「にがい・くるしい」を意味する「苦」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji262.html

と、ほぼ同趣旨の、「にがい植物」を指している。

「丹」.gif

(「丹」 https://kakijun.jp/page/0405200.htmlより)

「丹」 甲骨文字・殷.png

(「丹」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%B9より)

「丹」(タン)は、

会意文字。土中に掘った井型の枠の中から、あかい丹砂があらわれでるさまをしめすもので、あかい物があらわれでることをあらわす。旃(セン 赤い旗)の音符となる、

とある(漢字源)。

会意。「井」+「丶」、木枠で囲んだ穴(丹井)から赤い丹砂が掘り出される様https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%B9

象形。採掘坑からほりだされた丹砂(朱色の鉱物)の形にかたどる。丹砂、ひいて、あかい色や顔料の意を表す(角川新字源)、

象形文字です。「丹砂(水銀と硫黄が化合した赤色の鉱石)を採掘する井戸」の象形から、「丹砂」、「赤色の土」、「濃い赤色」を意味する「丹」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji1213.html

も、ほぼ同趣旨である。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:24| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする