2024年03月07日
綜(ふ)
白露を玉にぬくとやささがにの花にも葉にも糸をみな綜(へ)し(古今和歌集)
の、
糸をみな綜(へ)し、
に、
をみなへし、
を詠みこんでいる(仝上)が、
へ(綜)、
は、終止形、
綜(ふ)、
で、
縦糸を機(はた)にかけて、織れるようにすること、
とある(仝上)。和名類聚抄(931~38年)には、
綜、和名閉(へ)、機縷持絲交者也、
とある、
綜(ふ)、
は、
縦糸(たていと)を整えて織機にかける(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%B5)、
とあるが、
経(たていと)を引きのばして機(はた)織り機にかける、織るために経をのばし整える(精選版日本国語大辞典)、
経糸(たていと)を一本ずつ順次、機にかける、経糸布の長さに伸ばして、そろえる(岩波古語辞典)、
経絲を引き延(は)へて織るに供す(大言海)、
織る長さにそろえて機 (はた) にかける(大辞泉)、
とあるのが分かりやすい。
綜(ふ)、
は、
語幹(語幹無し) 未然形(へ)連用形(へ)終止形(ふ)連体形(ふる)已然形(ふれ)命令形(へよ)
の、
ハ行下二段活用、
である(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%81%B5)。意味から見ると、
経(ふ)と同根、
という(岩波古語辞典)のはよく分かる。
経(ふ)、
は、
歷、
とも当て、色葉字類抄(1177~81)に、
経、フ、歴、フ、
とあり、
語幹(語幹無し) 未然形(へ)連用形(へ)終止形(ふ)連体形(ふる)已然形(ふれ)命令形(へよ)
の、
ハ行下二段活用、
で、綜(ふ)と同じで、
場所とか日月とかを順次、欠かすことなく経過していく、
意で、
あらたまの年経(ふ)るまでに白栲(しろたえ)の衣も干さず朝夕にありつる君は(万葉集)、
と、
めぐる日・月・年・時を、一区切りずつわたっていく、
つまり、
時が来てまた、去っていく、
時間が過ぎていく、
経過する、
意で使い、それを主体側に置き換えれば、
貧しくへても、猶昔よかりし時の心ながら、世の常のことも知らず(伊勢物語)
日月を送る、
歳月を送る、
時を過ごす、
意になり、それを空間に転用すると、
黒崎の松原をへていく(土佐日記)、
と、
地点を次々に通っていく、
意や、それをメタファに、
同二年に太政大臣に上る。左右を経(へ)ずしてこの位に至る事(源平盛衰記)、
と、
ある段階を通る、
ある地位や段階を経験する、
意や、
左右をへずして内大臣より太政大臣従一位へあがる(平家物語)、
と、
所定の手続をふむ、
他の人の認可などを求めてその過程を通る、
意でも使う(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。
経(ふ)、
という一般的な用例を、
綜(ふ)、
の特殊用例に収斂したのか、その逆に、
綜(ふ)、
の特殊用例を、
経(ふ)、
と一般化したのかははっきりしないが、漢字で当て分けるまでは、
経(ふ)に通ず、或は云ふ、延(はふ)るの略、
とある(大言海)ので、共通して、
延ばす、
という意味であったことだけは確かである。
「綜」(漢音ソウ、呉音ソ)は、
会意兼形声。「糸+音符宗(ソウ たてに通す)」、
とあり(漢字源)、
縦糸を上下させて、横糸の杼(ヒ)の通る道をつくるための、機織の道具、
とあり、
綜絖(そうこう)、
といい、
一枚の綜絖に貼られた縦糸は一斉に上下する、
とある(仝上)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95