2024年03月08日
ふりはへて
ふりはへていざ故里(ふるさと)の花見むと來しをにほひぞうつろひにける(古今和歌集)
の、
ふりはへて、
は、
振り延へて、
とあて、
ふりはえ(振り延え)、
と同じで、
わざわざ、
ことさら、
という意になる(広辞苑)。これは、動詞、
ふりはふ(振延)、
を、
ふりはへて、
の形で、副詞的に用いるもの(精選版日本国語大辞典)で、
ふりはふ、
は、
フリは人目を引くような動作、ハフは遠くへ這わせる、
意とある(岩波古語辞典)。この、
はふ、
は、
「心ばえ」の、
心延え、
(心の動きを)敷きのばす、
意味と同じで(大言海・岩波古語辞典)、「心延え」は、
心映え、
とも書くが、
映え、
はもと、
延へ、
で、
延ふ、
は、
這ふ、
の他動詞形、
外に伸ばすこと、
つまり、
心のはたらきを外におしおよぼしていくこと、
になる(岩波古語辞典)。で、
ふりはふ、
は、
ことさらに物事をする、
わざわざする、
意で使い、多く、
ゆくての御ことは、なほざりにも思ひ給へなされしを、ふりはへさせ給へるに、聞こえさせむかたなくなむ。まだ難波津をだに、はかばかしう続け侍らざめれば、かひなくなむ(源氏物語)、
と、
困難なことをあえてする、
遠路わざわざ行く、
等々の意に用いる(精選版日本国語大辞典)とある。
「延」(エン)は、
会意文字。「止(あし)+廴(ひく)+ノ印(のばす)」で、長く引きのばして進むこと、
とある(漢字源)。別に、会意文字ながら、
会意。「彳(道路)」+「止 (人の足)」で、長い道のりを連想させる。「のびる」を意味する漢語{延 /*lan/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BB%B6)、
会意文字です(廴+正)。「十字路の左半分を取り出しさらにそれをのばした」象形と「国や村の象形と立ち止まる足の象形」(「まっすぐ進む」の意味)から、道がまっすぐ「のびる」を意味する「延」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji1012.html)、
と、構成を異にするが、
形声。意符㢟(てん)(原形は𢓊。ゆく、うつる)と、音符𠂆(エイ)→(エン)とから成る。遠くまで歩く、ひいて、「のびる」意を表す(角川新字源)、
と形声文字とする説もある。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95