2024年03月09日

しをに


ふりはへていざ故里(ふるさと)の花見むと來しをにほひぞうつろひにける(古今和歌集)

で、

來しをにほひぞ、

と、

しをに、

を詠みこんでいる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

シオン 花.jpg


しをに

は、

紫苑、
紫菀、

と当て、

おにのしこぐさ、
おもいぐさ、

ともいい、

しをに、

というのは、字音(漢名である)、

しをん(紫苑)、

の転ではあるが、

しをん(紫苑)、

の、

nの後に母音iを加えてniとしたもの、

で、

エニ(縁)、
ゼニ(錢)、

の類(岩波古語辞典)とある。

キク科の多年草、

で、日本では、中国地方と九州の山地の草原に自生、

高さ一~二メートル。根ぎわに束生する葉は長楕円形で基部は柄に流れ、長さ約三〇センチメートル、茎につく葉は上部へ行くに従って無柄となり、披針形から線形となる。いずれもまばらに粗毛があり、縁に鋭い鋸歯(きょし)がある。茎は上部で多く分枝して、秋に、径約三センチメートルの淡紫色の頭花を多数つける。中心の管状花は黄色。冠毛は白色、

とある(精選版日本国語大辞典)。根は、煎(せん)じて鎮咳(ちんがい)薬に用いる(仝上)ともある。ただ、花の黄色なるものがあり、

黄苑、

といい、葉の小さく柔らかにして、花の白きを、

小紫苑、
姫紫苑、

という(大言海)ともある。

紫苑、

の花の色から、

八九人ばかり、朽葉の唐衣、薄色の裳に、しをん、萩など、をかしうて居並(ゐな)みたりつるかな(枕草子)、

と、

紫苑色(しおんいろ)、

の意でも使われ、

紫苑の花のような色、

つまり、

くすんだ青紫、

である(デジタル大辞泉)。また、

襲(かさね)の色目、

という、位色(いしょく)に関係ない、

公家男女の下着や私服の地質に、季節による配色を考慮して生じた表地と裏地の襲の色と、衣服数枚を重ねた場合の袖、襟、裾口などに見られる色合、

の、

紫苑(しおん)の襲色目、

は、

表は薄紫、裏は青。また、表は紫、裏は蘇芳(すおう)。秋に着用、

とある(大辞林)。

紫苑色.jpg

(紫苑色 デジタル大辞泉より)

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

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posted by Toshi at 04:09| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする