ふりはへていざ故里(ふるさと)の花見むと來しをにほひぞうつろひにける(古今和歌集)
で、
來しをにほひぞ、
と、
しをに、
を詠みこんでいる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
しをに
は、
紫苑、
紫菀、
と当て、
おにのしこぐさ、
おもいぐさ、
ともいい、
しをに、
というのは、字音(漢名である)、
しをん(紫苑)、
の転ではあるが、
しをん(紫苑)、
の、
nの後に母音iを加えてniとしたもの、
で、
エニ(縁)、
ゼニ(錢)、
の類(岩波古語辞典)とある。
キク科の多年草、
で、日本では、中国地方と九州の山地の草原に自生、
高さ一~二メートル。根ぎわに束生する葉は長楕円形で基部は柄に流れ、長さ約三〇センチメートル、茎につく葉は上部へ行くに従って無柄となり、披針形から線形となる。いずれもまばらに粗毛があり、縁に鋭い鋸歯(きょし)がある。茎は上部で多く分枝して、秋に、径約三センチメートルの淡紫色の頭花を多数つける。中心の管状花は黄色。冠毛は白色、
とある(精選版日本国語大辞典)。根は、煎(せん)じて鎮咳(ちんがい)薬に用いる(仝上)ともある。ただ、花の黄色なるものがあり、
黄苑、
といい、葉の小さく柔らかにして、花の白きを、
小紫苑、
姫紫苑、
という(大言海)ともある。
紫苑、
の花の色から、
八九人ばかり、朽葉の唐衣、薄色の裳に、しをん、萩など、をかしうて居並(ゐな)みたりつるかな(枕草子)、
と、
紫苑色(しおんいろ)、
の意でも使われ、
紫苑の花のような色、
つまり、
くすんだ青紫、
である(デジタル大辞泉)。また、
襲(かさね)の色目、
という、位色(いしょく)に関係ない、
公家男女の下着や私服の地質に、季節による配色を考慮して生じた表地と裏地の襲の色と、衣服数枚を重ねた場合の袖、襟、裾口などに見られる色合、
の、
紫苑(しおん)の襲色目、
は、
表は薄紫、裏は青。また、表は紫、裏は蘇芳(すおう)。秋に着用、
とある(大辞林)。
(紫苑色 デジタル大辞泉より)
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95