2024年03月11日
からはぎ
うつせみのからは木ごとにとどむれど魂(たま)のゆくへを見ぬぞかなしき(古今和歌集)
は、
からはきごとに、
で、
からはぎ、
を詠みこんでいる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
からはぎ、
は、
唐萩、
と当てるが、
どんな植物か不明、
とある(仝上)。
からはぎ、
は、
「はぎ(萩)」の異名か、萩の一種なのかは未詳(精選版日本国語大辞典)、
萩の一種(季語・季題辞典)、
萩に同じ(広辞苑)、
萩に同じという(岩波古語辞典)、
等々とあるが、
語源も明らかでなく、「唐萩」の字をあてることの当否もわからない。弓や柱を作るほどに幹の大きくなる萩の記事は諸書に見えるが、これを「からはぎ」というのは「幹萩(からはぎ)」の意か、
とある(精選版日本国語大辞典)。ただ、
此萩草花にあらず木なり。一名をから萩(ハギ)といふ。よって弓などに是を作る(浄瑠璃「伽羅先代萩(1785)」)、
と、
萩の一種「きはぎ(木萩)」の異名か、
または、
萩の中でも特に幹の大きな品種をいうか、
ともあり、
木だちの萩で、幹が大きく、冬も枝が枯れないもの。弓を作るのに用いるという、
と(仝上)、ある。古今集のいう、
からはぎ、
が、何を指しているかは、はっきりしない。
はぎ、
は、
萩、
と当てるが、古くは、
芽子、
と記し、
ハギ、
と読み(岩波古語辞典・大言海・世界大百科事典)、
生芽、
とも当てる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%AE)。和名類聚抄(931~38年)に、
鹿鳴草、萩、波木、
貝原益軒編纂の『大和本草(1708)』に、
天竺花、ハギ、花史云、観音菊、天竺花是也、五月開至七月、花頭細小、其色純紫、枝葉如嫩柳、其幹之長與人等、
とある。漢名は、
胡枝子、
特に、
ヤマハギ、
を指すという(日中対訳辞典)。
タマミグサ、
ツキミグサ、
ノモリグサ、
ネザメグサ、
ニハミグサ、
ハナヅマ、
の異名をもつ(大言海)が、
ハギ、
というのは、
マメ科ハギ属の中のヤマハギ節、
に属する数種類を含むもので、特定の種類ではなく、外観の似ている種類の総称(世界大百科事典)らしく、ふつうにハギと呼ばれるのは、
ヤマハギ、
ミヤギノハギ、
ニシキハギ、
ツクシハギ、
マルバハギ、
を指す(仝上)が、特に、
ヤマハギ、
をさすことが多い(精選版日本国語大辞典)とある。
秋の七草、
のひとつ、花期は、
7月から10月、
で、
背の低い落葉低木ではあるが、木本とは言い難い面もある。茎は木質化して固くなるが、年々太くなって伸びるようなことはなく、根本から新しい芽が毎年出る。直立せず、先端はややしだれる。葉は3出複葉、秋に枝の先端から多数の花枝を出し、赤紫の花の房をつける。果実は種子を1つだけ含み、楕円形で扁平。荒れ地に生えるパイオニア植物で、放牧地や山火事跡などに一面に生えることがある、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%AE)。
ハギ、
の由来は、
生芽(ハエキ)の意(キ(芽)は気(キ)の転。芽を出すこと)。宿根より芽を生ずればなり、故に、芽子の字を用ゐる(大言海)、
ハヘクキ(延茎)の義(日本語原学=林甕臣)、
延木の義(国語の語根とその分類=大島正健)、
ハキ(葉木)の義(柴門和語類集)、
ヤマハギの朝鮮語名mo-hyong(牝荊)もしくはsyo-hyong(小荊)紀から転じたもの(植物和名の語源=深津正)、
等々あるが、その生態と、
芽子、
と記したことから見て、個人的には、
生芽(ハエキ)の意、
のように思える。なお、
秋の野をにほはすはぎは咲けれども見る験(しるし)なし旅にしあれば、
と、
万葉集以来、和歌の世界の題目として非常に愛好された(岩波古語辞典)が、平安時代以降、
秋萩にうらびれをればあしひきの山下とよみ鹿のなくらむ(古今和歌集)、
と、
鹿、露、雁、雨、風などと組み合わせて、花だけでなく下葉や枝も作詠の対象となり、歌合の題としても用いられた、。特に鹿や露との組み合わせは多く、「鹿の妻」「鹿鳴草」などの異名も生まれた。一方、露は、萩の枝をしなわせるありさまや、露による花や葉の変化などが歌われ、また、「涙」の比喩ともされ、「萩の下露」は、「荻の上風」と対として秋の寂寥感を表現するなどさまざまな相をもって詠まれた、
とある(精選版日本国語大辞典)。なお、「萩」には、
襲(かさね)の色目、
として、秋に用いる、
表は蘇芳(すおう)、裏は萌葱もえぎまたは青、
の、
萩襲(はぎがさね)、
がある(仝上)。
「萩」(漢音シュウ、呉音シュ)は、
会意兼形声。「艸+音符秋」で、秋の草の意、「よもぎ」の一種、特に「カワラニンジン」を指す、
とある(漢字源)。本来は、
ヨモギ類(あるいは特定の種を挙げる資料もある)、
の意味で、「はぎ」は国訓である。牧野富太郎(『植物一日一題』(1998)「中国の椿の字、日本の椿の字」)によると、これは、
艸+秋、
という会意による国字であり、ヨモギ類の意味の「萩」とは同形ではあるが別字、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%AE)。別に、
会意兼形声文字です(艸+秋)。「並び生えた草」の象形と「穂の先が茎の先端に垂れかかる象形(「稲」の意味)と燃え立つ炎の象形(「火」の意味)と亀(かめ)の象形(「亀」の意味)」から、「カメの甲羅に火をつけて占いを行う事を表し、そのカメの収穫時期が「秋」だった事と、穀物の収穫時期が「秋」だった事から「秋」の意味」を表し、そこから、秋に紫紅色・白色の花が群がって咲く落葉低木「はぎ」を意味する「萩」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2695.html)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95