2024年03月14日

かはたけ


さよふけてなかばたけゆくひさかたの月吹きかへせ秋の山風(古今和歌集)

に、

なかばたけゆく、

で、

かはたけ、

を詠みこんでいる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

かはたけ、

は、

川竹か、

とし、

あはれなるもの……夕暮れ暁に、川竹の風に吹かれたる、目さまして聞きたる(枕草子)

を引くが、また、一説に、

皮茸、

ともいう(仝上)とある。

たけゆく、

は、

長けゆく、

で、

盛りをすぎること、

とある(仝上)。これは、

たけなわ

の、

たけ、

で、これについては触れたことがある。

かはたけ、

は、

革茸、
茅蕈、
皮茸、

等々と当て、、

いまのこうたけ(岩波古語辞典)、
コウタケの別称(広辞苑)、

という。

こうたけ(広辞苑).jpg

(こうたけ 広辞苑より)

こうたけ、

は、秋、

松など広葉樹林の中に群生する、

が、

革茸、
茅蕈、
香茸、
皮茸、

等々と当て、別名、

鹿茸(ししたけ)、
鹿茸(しかたけ)、
猪茸(いのししだけ)、
猪茸(ししたけ)、

ともいい(精選版日本国語大辞典)、馬も喜んで食べるとの例えから、

馬喰茸(ばくろうだけ)

ともいうhttps://hachimenroppi.com/item/6/58/2497/。ただ、

シシタケ、

は、

近縁種、

とするもの(日本大百科全書)があるが、

同種、

とする説もある(世界大百科事典)。

こうだけ、

は、

イボタケ目イボタケ科コウタケ属の食用キノコ、

で(栄養・生化学辞典)、かさの裏に剛毛状の針が密生しているのを野獣の毛皮と連想して、

カワタケ(皮茸)、

と名づけられ、それがなまって、

コウタケ、

となった。本来、

香茸、

という表記は、

シイタケ、

にあてられた名で本種を指すものではない(仝上)とある。

かさの径10~25cm、深い漏斗状で中央部には茎の根元まで達する深いくぼみがある。表面は淡紅褐色で濃色の大きなささくれがある。かさの裏面の針は0.5~1.2cm、灰白色のち暗褐色。胞子は類球形でいぼ状の突起がある。特有の香気があるので精進料理につかわれていた、

とある(仝上)。

一度ゆでこぼしてから料理するのがこつ、

とも(仝上)。乾かせば、

染革のような黒色となる、

ので(広辞苑)、

革茸、

と当てるのかもしれない。また、乾燥すると芳香があり(デジタル大辞泉)、保存がきく(広辞苑)。徒然草には、

鹿茸を鼻にあててかぐべからず、ちひさき虫ありて鼻より入て、脳をはむといへり、

とあり、江戸時代中期編纂の日本の類書(百科事典)『和漢三才図絵(わかんさんさいずえ)』(には、

案ずるに革茸は、山麓で落葉をかぶって発生する。形状は松茸に似て傘の外側は黒くて粒皺がある。晒し乾すとまさに黒くなって染革のようである。裏は黄赤で毛糸のようなものがある。柄には鱗甲がある。山城(京都)の北山、摂州の有馬の山中に多く出る。味は微かに苦く、灰汁を用いてゆがいて酢に和えて食べる。味は甘く脆美である。しかし腐敗し易い。それで晒し乾して売る。最も上等品である、

とあるhttp://www.ffpri-kys.affrc.go.jp/situ/TOK/neda/hanashi/hanasi23.htm

コウダケ1.jpg


コウダケ.jpg


なお、

かはたけ、

に、

川竹、
河竹、

と当てると、文字通り、

川のほとりに生えている竹、

の意で、冒頭の、

川竹の風に吹かれたる、目さまして聞きたる(枕草子)、

は、これになる。この、

かはたけ、

をとる説もあるhttp://www.milord-club.com/Kokin/uta0452.htm。この場合、

たけ、

は、

茸、

でなく、

竹、

で、

マダケあるいはメダケ、

となる(仝上)。ただ、

かはたけ、

は、

呉竹は葉細く、河竹は葉広し。御溝に近きは河竹、仁寿殿の方に寄りて植ゑられたるは呉竹なり(徒然草)、

とある、

溝竹(カハタケ)の義、(清涼殿の)御溝竹(ミカハミヅ)に因る称ならむ、歌に多く河竹の流れと詠むも、この縁なるべし、

とあり(大言海)、延喜式(927)に、

御輿一具、……盖(蓋)下桟料川竹十株、盖料菅一囲、

とある、

清涼殿東庭の御溝水(みかわみず)の傍に植えた竹、

をいう(仝上・広辞苑)。また、

かはたけ、

は、上述したように、

メダケの古名、
マダケの異称、

ともされ(広辞苑)、和名類聚抄(931~38年)に、

苦竹、加波多計、本朝式、用河竹字、

とあり、

マダケ(真竹)の古称、

とする(大言海)のは、

御溝(みかは)の竹、即ち、苦竹なりしよりの名ならむ、

とある(仝上)。別に、

メダケ(女竹)、

を、川端によく育つので、

川竹(かわたけ)、

ともいい(世界大百科事典)、

京都御所の清涼殿前の漢竹はメダケである、

とする説もある(仝上)。なお、

河竹、

は、

よよ経れど面(おも)がはりせぬかはたけは流れての世のためしなりけり(金塊集)、

と、

「ながる」「ながす」「よ(世)」にかかる枕詞、

として使われる(広辞苑)。「俊頼無名抄(俊頼髄脳)」(1112)には、

かはたけト云ヒテハ、流レテノ末ノ世、久シカルベキコトヲツヅクベキナリ、

とある。

なお、「たけ」、「たけ(茸)」、「たけ(竹)」、「裄丈(ゆきたけ)」については触れたが「たけ」は通じるようである。

「茸」.gif


「茸」(漢音ジョウ、呉音ニョウ)は、「ひらたけ」で触れたように、

会意。「艸+耳(柔らかい耳たぶ)」。柔らかい植物のこと、

とある(漢字源)。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川新字源ソフィア文庫Kindle版)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:14| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする