さよふけてなかばたけゆくひさかたの月吹きかへせ秋の山風(古今和歌集)
に、
なかばたけゆく、
で、
かはたけ、
を詠みこんでいる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
かはたけ、
は、
川竹か、
とし、
あはれなるもの……夕暮れ暁に、川竹の風に吹かれたる、目さまして聞きたる(枕草子)
を引くが、また、一説に、
皮茸、
ともいう(仝上)とある。
たけゆく、
は、
長けゆく、
で、
盛りをすぎること、
とある(仝上)。これは、
たけなわ、
の、
たけ、
で、これについては触れたことがある。
かはたけ、
は、
革茸、
茅蕈、
皮茸、
等々と当て、、
いまのこうたけ(岩波古語辞典)、
コウタケの別称(広辞苑)、
という。
(こうたけ 広辞苑より)
こうたけ、
は、秋、
松など広葉樹林の中に群生する、
が、
革茸、
茅蕈、
香茸、
皮茸、
等々と当て、別名、
鹿茸(ししたけ)、
鹿茸(しかたけ)、
猪茸(いのししだけ)、
猪茸(ししたけ)、
ともいい(精選版日本国語大辞典)、馬も喜んで食べるとの例えから、
馬喰茸(ばくろうだけ)
ともいう(https://hachimenroppi.com/item/6/58/2497/)。ただ、
シシタケ、
は、
近縁種、
とするもの(日本大百科全書)があるが、
同種、
とする説もある(世界大百科事典)。
こうだけ、
は、
イボタケ目イボタケ科コウタケ属の食用キノコ、
で(栄養・生化学辞典)、かさの裏に剛毛状の針が密生しているのを野獣の毛皮と連想して、
カワタケ(皮茸)、
と名づけられ、それがなまって、
コウタケ、
となった。本来、
香茸、
という表記は、
シイタケ、
にあてられた名で本種を指すものではない(仝上)とある。
かさの径10~25cm、深い漏斗状で中央部には茎の根元まで達する深いくぼみがある。表面は淡紅褐色で濃色の大きなささくれがある。かさの裏面の針は0.5~1.2cm、灰白色のち暗褐色。胞子は類球形でいぼ状の突起がある。特有の香気があるので精進料理につかわれていた、
とある(仝上)。
一度ゆでこぼしてから料理するのがこつ、
とも(仝上)。乾かせば、
染革のような黒色となる、
ので(広辞苑)、
革茸、
と当てるのかもしれない。また、乾燥すると芳香があり(デジタル大辞泉)、保存がきく(広辞苑)。徒然草には、
鹿茸を鼻にあててかぐべからず、ちひさき虫ありて鼻より入て、脳をはむといへり、
とあり、江戸時代中期編纂の日本の類書(百科事典)『和漢三才図絵(わかんさんさいずえ)』(には、
案ずるに革茸は、山麓で落葉をかぶって発生する。形状は松茸に似て傘の外側は黒くて粒皺がある。晒し乾すとまさに黒くなって染革のようである。裏は黄赤で毛糸のようなものがある。柄には鱗甲がある。山城(京都)の北山、摂州の有馬の山中に多く出る。味は微かに苦く、灰汁を用いてゆがいて酢に和えて食べる。味は甘く脆美である。しかし腐敗し易い。それで晒し乾して売る。最も上等品である、
とある(http://www.ffpri-kys.affrc.go.jp/situ/TOK/neda/hanashi/hanasi23.htm)。
なお、
かはたけ、
に、
川竹、
河竹、
と当てると、文字通り、
川のほとりに生えている竹、
の意で、冒頭の、
川竹の風に吹かれたる、目さまして聞きたる(枕草子)、
は、これになる。この、
かはたけ、
をとる説もある(http://www.milord-club.com/Kokin/uta0452.htm)。この場合、
たけ、
は、
茸、
でなく、
竹、
で、
マダケあるいはメダケ、
となる(仝上)。ただ、
かはたけ、
は、
呉竹は葉細く、河竹は葉広し。御溝に近きは河竹、仁寿殿の方に寄りて植ゑられたるは呉竹なり(徒然草)、
とある、
溝竹(カハタケ)の義、(清涼殿の)御溝竹(ミカハミヅ)に因る称ならむ、歌に多く河竹の流れと詠むも、この縁なるべし、
とあり(大言海)、延喜式(927)に、
御輿一具、……盖(蓋)下桟料川竹十株、盖料菅一囲、
とある、
清涼殿東庭の御溝水(みかわみず)の傍に植えた竹、
をいう(仝上・広辞苑)。また、
かはたけ、
は、上述したように、
メダケの古名、
マダケの異称、
ともされ(広辞苑)、和名類聚抄(931~38年)に、
苦竹、加波多計、本朝式、用河竹字、
とあり、
マダケ(真竹)の古称、
とする(大言海)のは、
御溝(みかは)の竹、即ち、苦竹なりしよりの名ならむ、
とある(仝上)。別に、
メダケ(女竹)、
を、川端によく育つので、
川竹(かわたけ)、
ともいい(世界大百科事典)、
京都御所の清涼殿前の漢竹はメダケである、
とする説もある(仝上)。なお、
河竹、
は、
よよ経れど面(おも)がはりせぬかはたけは流れての世のためしなりけり(金塊集)、
と、
「ながる」「ながす」「よ(世)」にかかる枕詞、
として使われる(広辞苑)。「俊頼無名抄(俊頼髄脳)」(1112)には、
かはたけト云ヒテハ、流レテノ末ノ世、久シカルベキコトヲツヅクベキナリ、
とある。
なお、「たけ」、「たけ(茸)」、「たけ(竹)」、「裄丈(ゆきたけ)」については触れたが「たけ」は通じるようである。
「茸」(漢音ジョウ、呉音ニョウ)は、「ひらたけ」で触れたように、
会意。「艸+耳(柔らかい耳たぶ)」。柔らかい植物のこと、
とある(漢字源)。
参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川新字源ソフィア文庫Kindle版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95