秋来れど月の桂の実やはなる光を花と散らすばかりを(古今和歌集)
の、
月の桂、
は、
月に生えている伝説上の木、
とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
桂は、
桂を折る(文章生(もんじょうしょう)、試験、対策に応)、
桂男(かつらおとこ・かつらを 月で巨大な桂を永遠に切り続けている男の伝説)、
桂の眉(かつらのまゆ 三日月のように細く美しい眉)、
桂の影(かつらのかげ 月の光)、
桂の黛(かつらのまゆずみ 三日月のように細く美しく引いた眉墨)、
等々と使われるが、それは、「桂」が、
月の桂、
から、
月の異称、
として使われるようになったことによる。
(「つきのかつら、呉剛」(月岡芳年) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A1%82%E7%94%B7より)
「月の桂」は、「桂を折る」で触れたように、「酉陽雑俎‐天咫」に、
舊言月中有桂、有蟾蜍、故異書言月桂高五百丈、下有一人常斫之、樹創隨合。人姓吳名剛、西河人、學仙有過、謫令伐樹、
とあり、中国において、「月桂」は、
想像の説に、月の中に生ひてありと云ふ、月面に婆娑たる(揺れ動く)影を認めて云ふなるべし、手には取られぬものに喩ふ、
とある(大言海)。「懐風藻」に、
金漢星楡冷、銀河月桂秋(山田三方「七夕」)、
は、
月の中にあるという桂の木、
の意で、
玉俎風蘋薦。金罍月桂浮(藤原万里「仲秋釈奠」)、
では、
月影(光)、
の意で使われている(精選版日本国語大辞典)。万葉集では、
目には見て手には取らえぬ月内之楓(つきのうちのかつら)のごとき妹をいかにせむ、
と、
手には取られぬもの
の喩えとして詠われている。「毘沙門堂本古今集註」(鎌倉時代末期~南北朝期書写)では、
久方の月の桂と云者、左伝の註に曰、月は月天子の宮也。此宮の庭に有七本桂木、此の木春夏は葉繁して、月光薄く、秋冬は紅増故に月光まさると云也、
と解説する。また、月の人、「桂男」を、
月人、
とも言い(大言海)、
かつらをの月の船漕ぐあまの海を秋は明石の浦といはなん(「夫木抄(1310頃)」)、
桂壮士(カツラヲ)の人にはさまるすずみかな(「古今俳諧明題集(1763)」)、
等々と詠われる(精選版日本国語大辞典)。
桂を折る、
のは、
桂男(かつらおとこ・かつらを)、
といい、「酉陽雑俎‐天咫」(唐末860年頃)に、中国の古くからの言い伝えとして、
月の中に高さ五〇〇丈(1500メートル)の桂があり、その下で仙道を学んだ呉剛という男が、罪をおかした罰としていつも斧をふるって切り付けているが、切るそばからその切り口がふさがる、
という伝説がある(精選版日本国語大辞典)。シジフォスの岩に似た話である。
呉剛伐桂、
といい(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A1%82%E7%94%B7)、伝説には、ひとつには、炎帝の怒りを買って月に配流された呉剛不死の樹「月桂」を伐採するという説と、いまひとつは、上述した、
舊言月中有桂、有蟾蜍、故異書言月桂高五百丈、下有一人常斫之、樹創隨合。人姓吳名剛、西河人、學仙有過、謫令伐樹(酉陽雑俎)、
と、仙術を学んでいたが過ち犯し配流された呉剛が樹を切らされているという説とがある(仝上)。
ために、「月の桂」は、
月の異称、
とされ、略して、
かつら、
ともいい、月の影を、
かつらの影、
といったり、三日月を、
かつらのまゆ、
などという(大言海)。また「桂男」は、
桂の人、
などともいい、
かつらおとこも、同じ心にあはれとや見奉るらん(「狭衣物語(1069‐77頃)」)、
と、盛んに使われるが、さらに、
手にはとられぬかつらおとこの、ああいぶりさは、いつあをのりもかだのりと、身のさがらめをなのりそや(浄瑠璃「出世景清(1685)」)、
と、
美男子、
の意味でも使われるようになる(精選版日本国語大辞典)。
「桂」(漢音ケイ、呉音カイ)は、「桂」で触れたように、
会意兼形声。「木+音符圭(ケイ △型にきちんとして格好がよい)」で、全体が△型に育った良い形をしている木、
とあり(漢字源)、「肉桂(ニッケイ)」「筒桂(トウケイ)」「岩桂(ガンケイ)」「銀桂」「金桂」「丹桂」など香木の総称の他、伝説上の月の桂の意、である(仝上)。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川新字源ソフィア文庫Kindle版)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95