桑田碧海

節風風光不相待(節風風光、相待たず) 桑田碧海須臾改(桑田碧海、須臾にして改まる)(盧照鄰。長安古意) の、 桑田碧海(そうでんへきかい)、 は、 麻姑という仙女が王方平という仙人と宴会をしたとき、「この前お会いしてから、東の海が桑畑に変わり、また海になったのを三度みました」と語ったという故事にもとづく。人の世の変転のはげしいことにたとえる、 とある(前野直彬…

続きを読む

鶴髪

宛轉娥眉能幾時(宛轉たる娥眉、能く幾時ぞ) 須臾鶴髪亂如絲(須臾にして鶴髪(かくはつ) 亂れて絲の如し)(劉廷芝・代悲白頭翁) の、 鶴髪(かくはつ)、 は、 鶴のように白い髪、北周の庾信の「竹杖の賦」に、老人を形容して、「鶴髪雞皮」とあるのにもとづく、 とある(前野直彬注解『唐詩選』)。つまり、 鶴髪(かくはつ)、 は、 鶴髪雞皮 蓬頭歷…

続きを読む

仮名文学の濫觴

高田祐彦訳注『新版古今和歌集』を読む。 漢詩から和歌へと立ち戻ろうとする、いわば脱唐風の流れと、仮名の誕生とによって、仮名による文学表現の嚆矢ともいうべきものとして位置づけられる。漢字を真名というのに対して、かなを仮名と当てた意図については、高橋睦郎『漢詩百首』で触れたが、それは、 日本人は中国から文字の読み書きを教わると同時に、花鳥風月を賞でることも学んだ。花に関しては…

続きを読む

烏號

赤土流星剣(赤土(せきど) 流星の剣) 烏號明月弓(烏號(うごう) 明月の弓)(楊烱・送劉校書従軍) の、 赤土、 は、 晋の雷墺が張華の指示に従って地を掘り、名剣を得た。これを華陰(陝西省)に産する赤土で磨くと、更に光輝を増した、 とされ、 流星剣、 は、 呉の孫権が持っていた六振りの宝剣の一つとされる、 とある(前野直彬注解『唐詩選…

続きを読む

沙棠の舟

木蘭之枻沙棠舟(木蘭の枻(かい) 沙棠舟) 玉簫金管坐兩頭(玉簫金管 兩頭に坐す)(李白・江上吟) の、 沙棠(しゃとう)、 は、 崑崙山に生えるという木、 で、それで作った舟を、 沙棠舟、 という(前野直彬注解『唐詩選』)とある。 (「李白吟行図」(梁楷(南宋)・墨筆画) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E…

続きを読む

あやめぐさ

ほととぎす鳴くや五月のあやめぐさあやめも知らぬ恋もするかな(古今和歌集)、 の、 あやめぐさ、 は、 菖蒲(ショウブ)、 のこと、 節は、五月にしく月はなし。菖蒲、蓬などのかをりあひたる、いみぢうをかし(枕草子)、 とあるように、 五月の端午の節句に、その強い芳香によって、邪気を払うため、鬘(かずら)や玉薬をつくり、また軒を葺いた、 とあ…

続きを読む

はたて

夕暮れは雲のはたてにものぞ思ふ天つ空なる人をこふとて(古今和歌集)、 の、 雲のはたて、 は、 漢語「雲端」の訳語であろう。「美人雲端に在り、天路隔たりて期無し」(『玉台新詠』巻一、「雜詩九首・蘭若春陽に寄す」)。「はたて」は端の意味で、雲の端、すなわち、はるか彼方、 とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。 はたて、 は、万葉集に、 嬢子(…

続きを読む

刈菰

刈菰(かりこも)の思ひ乱れて我恋ふと妹(いも)知るらめや人し告げずは(古今和歌集)、 の、 刈菰、 は、 刈り取った菰、 の意で、 思ひ乱れての枕詞、 とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。枕詞としての、 刈菰の(刈薦の)、 は、上記のように、 刈り取ったこもの乱れやすいところから、「みだる」にかかる、 ほか、 刈っ…

続きを読む

ねたし

つれもなき人をやねたく白露のおくとは嘆き寝とはしのばむ(古今和歌集)、 の、 ねたし、 は、全体にかかり、 しゃくにさわる、 意である(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。 ねたし、 は、 妬し、 嫉し、 と当て(広辞苑・精選版日本国語大辞典)、 相手に負かされ、相手にすげなくされなどした場合、またつい不注意で失敗した場合などに感じ…

続きを読む

末摘花

人知れず思へば苦し紅(くれなゐ)の末摘花の色にいでなむ(古今和歌集)、 の、 末摘花、 は、 紅花、 のことで、源氏物語の、 末摘花の女君は鼻が紅いところからその名がある、 と注記がある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。 (ベニバナ https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%8B%E3%8…

続きを読む

伏櫪

功成惠養随所致(功成って惠養、致る所に随い) 瓢瓢遠自流沙至(瓢瓢として遠く流沙より至る) 雄姿未受伏櫪恩(雄姿 未だ受けず伏櫪(ふくれき)の恩) 猛氣猶思戦場利(猛氣 猶思う戦場の利)(杜甫・高都御驄馬行) の、 伏櫪、 の、 櫪、 は、 馬の飼料を入れるおけ。馬がかいばおけに首をつっこんで食べること。馬がうまやで養われることをいう、 とあり…

続きを読む

ほつえ

わが園の梅のほつえに鶯の音(ね)になきぬべき恋もするかな(古今和歌集)、 の、 ほつえ、 は、 秀つ枝、 の意で、 他よりも伸びた枝、 とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。 秀(ほ)つ枝、 の、 つ、 は、 「の」の意の上代の格助詞、 で(精選版日本国語大辞典・大辞泉)、 上枝、 秀枝、 と当て…

続きを読む

逆立ちしたヘーゲル

ミシェル・フーコー(渡辺一民・佐々木明訳)『言葉と物―人文科学の考古学』を読む。 何年も前に読み通した後、また取り出して読みだしたが、正直のところ、わからない部分が多いので、書評という域には達しないだろうが、感想を記しておきたい。 本書は、ラスト、 「人間は、われわれの思考の考古学によってその日付の新しさが容易に示されるような発明にすぎぬ。そしておそらくその終焉は間…

続きを読む

がてに

あしひきの山ほとときすわがごとや君に戀ひつついねがてにする(古今和歌集)、 の、 がてに、 は、 できずに、 とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。また、 あは雪のたまればかてにくだけつつわがもの思ひのしげきころかな(古今和歌集)、 の、 かてに、 は、 動詞「克つ」からできた連語。「こらえかねて」の意。他の動詞につくと、 …

続きを読む

寝(い)を寝(ぬ)

いもやすく寝られざりけり春の夜は花の散るのみ夢に見えつつ(新古今和歌集)、 の、 いもやすく、 は、 眠りも安らかに、 の意とあり、 「い」は「寝」、 で、 眠ること、 を、 寝(い)を寝(ぬ)、 といったとある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 寝を寝(いをぬ)、 は、 名詞「い(寝)」+動詞「ぬ(寝)」(…

続きを読む

丹青

丹青不知老将至(丹青 老いの将(まさ)に至らんとするを知らず) 富貴於我如浮雲(富貴は我に於て浮雲(ふうん)の如し)(杜甫・丹青引贈曹将軍覇) の、 丹青、 は、 赤と青、 で、 絵画をいう(前野直彬注解『唐詩選』)とある。 丹青(たんせい)、 は、 丹砂と青雘(せいわく)、すなわち赤の絵具の材料になる石と青の絵具の材料になる土、 …

続きを読む

積水

積水不可極(積水(せきすい) 極む可(べ)からず) 安知滄海東(安(いずく)んぞ滄海の東を知らんや)(王維・送秘書晁監(阿部仲麿)還日本国) の、 積水、 は、 海のこと、 とある(前野直彬注解『唐詩選』)。「荀子」儒効篇に、 水を積む、これを海という、 とあるのにもとづく(仝上)とある。 勝者之戦、若決積水於千仞之谿者形也(孫氏)、 …

続きを読む

飼ふ

駒とめてなほ水かはむ山吹の花の露そふ井手の玉川(皇太后宮大夫(藤原)俊成)、 の、 花の露そふ、 は、 詠歌一体で制詞とされる、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 制詞、 とは、 制(せい)の詞(ことば)、 ともいい、 禁制の歌詞、 といい、歌学で、 聞きづらいとか、耳馴れないとか、特定の個人が創始した表現である…

続きを読む

坎壈(かんらん)

卽今瓢泊干戈際(卽今 瓢泊す 干戈(かんか)の際) 屡貌尋常行路人(屡(しば)しば尋常行路の人を貌(えが)く) 途窮反遭俗眼白(途(みち)窮(きわ)まり反(かえ)って俗眼の白きに遭(あ)う) 世上未有如公貧(世上未だ公の如く貧しきは有らず) 但看古来盛名下(但し看よ古来盛名の下) 終日坎壈纏其身(終日坎壈の其身を纏(まと)うを)(杜甫・丹青引贈曹将軍覇) の、 干戈、 …

続きを読む

齋院

忘れめや葵を草に引き結び仮寝の野辺の露のあけぼの(式子内親王)、 の詞書に、 斎院に侍りける時、神館にて、 とある(新古今和歌集)。 斎院、 は、 賀茂社に奉仕する斎王。未婚の内親王・女王が卜定された、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 神館、 は、 神事の際に神官などが参籠する建物、 とあり、 ちはやぶる斎(い…

続きを読む