2024年04月06日

あやめぐさ


ほととぎす鳴くや五月のあやめぐさあやめも知らぬ恋もするかな(古今和歌集)、

の、

あやめぐさ、

は、

菖蒲(ショウブ)、

のこと、

節は、五月にしく月はなし。菖蒲、蓬などのかをりあひたる、いみぢうをかし(枕草子)、

とあるように、

五月の端午の節句に、その強い芳香によって、邪気を払うため、鬘(かずら)や玉薬をつくり、また軒を葺いた、

とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。「よもぎ(蓬)」については触れた。

ショウブ.jpg


あやめぐさ、

は、

菖蒲草、

と当てる。

サトイモ科のショウブの古名、

で、

初夏に、黄色の細花が密集した太い穂を出す。葉は剣の形で、香気が強いので邪気を払うとされ、五月五日の節句には、魔除けとして軒や車にさし、後世は、酒にひたしたり、湯に入れたり、種々の儀に用いられる。菖蒲の枕、菖蒲の湯、菖蒲刀の類。一方、根は白く、長いものは四、五尺に及ぶので、長命を願うしるしとする。また、根合わせといって、その長さを競う遊びもある、

とある(精選版日本国語大辞典)。本草和名(918頃)に、

昌蒲……昌蒲者水精也、菖蒲 一名菖陽注云石上者名之蓀、一名荃、和名阿也女久佐、

とあり、和名類聚抄(931~38年)には、

菖蒲、阿夜女久佐、

とある。歌では、枕詞として、

同音反復によって「あや」にかかり、また、「根」を賞するところから「ね」にかかり、「鳴く」「泣く」などの語を導いたり、物の文目(あやめ)に言いかけたりして詠まれることが多い、

とある(仝上)。日本でショウブを、

菖蒲、

と漢字で書き表されるが、中国で正しくは、

白菖、

と書き、「菖蒲」は小型の近縁種である、

セキショウ(石菖)、

を指す漢名であるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%82%A6%E3%83%96

何れ菖蒲」で触れたことだが、

ショウブ、

は、

晩秋から冬期にかけて地上部が枯れてから、採取した根茎のひげ根を除いて水洗いし、日干しにしたものが生薬の「ショウブコン(菖蒲根)」です。ショウブコンは特有の芳香があり、味は苦くやや風味がある精油を含みます。その水浸剤は皮膚真菌に対し有効であると言われています。また、採取後1年以上経過したものの煎剤は芳香性健胃薬、去痰、止瀉薬、腹痛、下痢、てんかんに用いられます、

とあるhttps://www.pharm.or.jp/flowers/post_7.htmlように、薬草で、和名は同属の、

セキショウ(石菖)、

の漢名、

菖蒲、

の音読みで、古く誤ってショウブに当てられたらしい(仝上)。

本来、「菖」(ショウ)は、

会意兼形声。「艸+音符昌(ショウ あざやか、さかん)」で、勢いがさかんで、あざやかに花咲く植物、

の意で(漢字源)、「セキショウ」(石菖蒲)の意。「ショウブ」は、

白菖(ハクショウ)、

という。日本では、これを「ショウブ(菖蒲)」というが、「蒲」(漢音ホ、呉音ブ)は、

会意兼形声。「艸+音符浦(みずぎわ、水際に迫る)」、

で、「がま」の意となる(仝上)。

あやめ草、

は、だから、

文目草の義、

とし(大言海)、

和歌に、あやめ草 文目(あやめ)も知らぬ、など、序として詠まる、葉に体縦理(たてすぢ)幷行せり。アヤメとのみ云ふは、下略なり、

とする説もあるが、

菖蒲草、

と当て、

「漢女(あやめ)の姿のたおやかさに似る花の意。文目草の意と見るのは誤り、

とし、

平安時代の歌では、「あやめも知らぬ」「あやなき身」の序詞として使われ、また、「刈り」と同音の「仮り」、「根」と同音を持つ「ねたし」などを導く、

とする説がある。いずれとも決めがたいが、

「ショウブ」の別名、

として、

端午の節句の軒に並べることに因んだノキアヤメ(軒菖蒲)、古名のアヤメグサ(菖蒲草)、オニゼキショウ(鬼石菖)などがあります。(中略)中国名は白菖蒲といいます、

とあるhttps://www.pharm.or.jp/flowers/post_7.htmlので、

菖蒲草、

と当てる方に与しておく。なお、

あやめ、
かきつばた、
はなあやめ、
しょうぶ、

の区別については、「何れ菖蒲」で触れた。

「菖」.gif

(「菖」 https://kakijun.jp/page/1165200.htmlより)

「菖」(ショウ)は、

会意兼形声。「艸+音符昌(ショウ あざやか、さかん)」で、勢いがさかんで、あざやかに花咲く植物のこと、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(艸+昌)。「並び生えた草」の象形と「光をはなつ日」の象形から(「明るい」、「良い」、「美しい」の意味)から、良い香りのする草・美しく明るい花を咲かせる「菖蒲(しょうぶ)」を意味する「菖」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji2689.html

とあるが、

形声。艸と、音符昌(シヤウ)とから成る(角川新字源)、

と、形声文字とするものもある。

「蒲」.gif


「蒲」(漢音ホ、呉音ブ)は、

会意兼形声。「艸+音符浦(みずぎわ、水際に迫る)」、

とある(漢字源)。別に、

会意兼形声文字です(艸+浦)。「並び生えた草」の象形と「流れる水の象形と草の芽の象形と耕地の象形(田に苗を一面に植える意味から、「一面に広がる」の意味)」(「水辺」の意味)から、水辺に生える「がま」を意味する「蒲」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji2701.html)

ともあるが、

形声。「艸」+音符「浦 /*PA/」https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%92%B2

形声。艸と、音符浦(ホ)とから成る(角川新字源)、

と、形声文字とするものもある。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:37| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする