卽今瓢泊干戈際(卽今 瓢泊す 干戈(かんか)の際)
屡貌尋常行路人(屡(しば)しば尋常行路の人を貌(えが)く)
途窮反遭俗眼白(途(みち)窮(きわ)まり反(かえ)って俗眼の白きに遭(あ)う)
世上未有如公貧(世上未だ公の如く貧しきは有らず)
但看古来盛名下(但し看よ古来盛名の下)
終日坎壈纏其身(終日坎壈の其身を纏(まと)うを)(杜甫・丹青引贈曹将軍覇)
の、
干戈、
は、
楯と矛、
で、
戦争、
の意、
坎壈(かんらん)、
は、
思うとおりにならなくて困窮すること、
とある(前野直彬注解『唐詩選』)。
坎壈(かんらん)、
は、
志を得ないさま。望み通りにならず心が満たされないさま、
をいい(https://kanji.jitenon.jp/kanjiy/13876.html)、
百度百科には、
坎壈是一个汉语词汇……意为困顿、不顺利(坎壈是一個漢語詞匯(彙)、……意為困頓、不順利)、
とある。
永井荷風は、「下谷叢話」で、
然レドモ九皐詩文ヲ以テ高ク自ラ矜持(きょうじ)シ世ニ售(う)ルコトヲ欲セズ。今四十ヲ過ギテナホ坎壈(かんらん)ヲ抱ク。コレラノ作アル所以(ゆえん)ナリ。方今在位ノ人真才ヲ荒烟(こうえん)寂寞(じゃくまく)ノ郷ニ取ラズ。吁(ああ)惜ムベキ哉 (新字新仮名)、
と使っており(https://furigana.info/r/%E3%81%8B%E3%82%93%E3%82%89%E3%82%93)、空海は、『三教指帰(さんごうしいき)』で、
或るときは金巖(きんがん)に登つて雪に遇うて坎壈(かんらん)たり、或るときは石峯(せきほう)に跨(また)がって粮(かて)を絶つて轗軻(かんか)たり、
と使っている(https://www.i-manabi.jp/system/regionals/regionals/ecode:1/10/view/1737)。
「坎」(漢音カン、呉音コン)は、「かん日」で触れたように、
会意兼形声。欠(ケン)は、人がからだをくぼませたさまを描いた象形文字。坎は「土+音符欠」。土にくぼんだ穴を掘ること、
とあり(漢字源)、
坎穽(カンセイ)、
は、
陥穽、
と書きかえられ(https://www.kanjipedia.jp/kanji/0001026100)、
坎、
は、
陥、
と書き換えられるものがある(仝上)とある。
「壈」(ラン)については、手元の漢和辞典(字源)には載らず、
坎壈(かんらん)、
としての用例のみが、かろうじて載る(https://kanji.jitenon.jp/kanjiy/13876.html)。で、
壈、
の「旁」の、
稟、
を調べてみた。
(「稟(禀)」 https://kakijun.jp/page/rin13200.htmlより)
(「稟(禀)」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%A8%9Fより)
「稟」(①ヒン、②リン)は、
会意文字。「禾(穀物)+屋根付きの丸い米蔵のかたちろ」。収納していた作物をあらわす。転じて、食糧のこと、
とあり(漢字源)、「さずかった食糧」「さずかる、うける(稟命、稟樂)」「天から授かった性質(天稟・稟性)」「申し上げる(稟告)」等々は、①の発音、こめぐら(米蔵 廩)の意は、二の発音となる(仝上)。他に、
会意形声。禾と、㐭(リム)(こめぐら)とから成る。「こめぐら」、転じて「うける」意を表す(角川新字源)、
会意文字です。「米蔵」の象形と「穂の先が茎の先端に垂れかかる稲」の象形から、「米蔵の中の穀物」、「扶持米」を意味する「稟」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji2350.html)、
とある。
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
前野直彬注解『唐詩選』(岩波文庫)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:坎壈