2024年04月30日

ゆふつけどり


逢坂のゆふつけ鳥もわがごとく人や恋しき音(ね)のみなくらむ(古今和歌集)、
恋ひ恋ひてまれに今宵ぞあふ坂のゆふつけ鳥は鳴かずもあらなむ(仝上)、
たがみそぎゆふつけ鳥か唐衣たつたの山にをりはへて鳴く(仝上)、

の、

ゆふつけどり、

は、

諸説あるが、都の四方の関で祓いをするために用いられた、木綿をつけた鳥のことか、

とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。なお、上記の二首目の歌では、

「ゆふつけ鳥」から明け方の「鶏」へと意味が転じる。鶏が鳴くころには、男は女のもとから去らねばならない、

と注記がある(仝上)。

ゆうつけどり、

は、

木綿付鳥、
木綿着鳥、

と当て、

訛って、

ゆうづけどり、

とも、

ゆうつげどり、

ともいい、それには、

夕告鳥、

と当て(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典・大言海)、略して、

ゆふつけ、

ともいう(大言海)。

ゆうつけどり、

については、

鶏に木綿(ゆう)をつけ、都の四境の関で祓いをしたことから(広辞苑)、
騒乱のあった時、鶏に木綿(ゆう)を付けて都の四境の関で祓いをしたことから(岩波古語辞典)、
世の乱れたとき、四境の祭といって、鶏に木綿(ゆう)をつけて、京城四境の関でまつったという故事に基づく(精選版日本国語大辞典)、
古へ、世の中に騒乱ある時に、四境の祭とて、鶏に木綿(ユフ)を着けて、京城四境の関に至りて、祭らせらると云ふ(大言海)
昔、世の中が乱れたとき、鶏に木綿 (ゆう) をつけて都の四境の関所で祓 (はらえ) をしたところから(デジタル大辞泉)、

等々とあり、

木綿をつけた鶏、

また、

鶏の異称、

とある(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。12世紀初頭の作歌の手引書「俊頼髄脳」(源俊頼)では、

ゆふつけどりとは鶏の名なり。鶏に木綿をつけて山に放つまつりのあるなり、

と説明されていたが、12世紀半ばの歌学書「奥義抄」(藤原清輔)は、それを、

疫病流行の際に朝廷が四方の関で行う四境祭の儀式である、

と説き、「袖中抄」「顕昭古今集注」もこれを継承した。上記諸説はこれにもとづいている。また、1221年までに成った、従来の歌学書を編集・集大成した「八雲御抄」(順徳天皇)では、

ゆふつけどり、付木綿相坂ニ祓故也、

とある。

相坂(おうさか)、

とは、古代の近江国の関、

逢坂関、

のことで、

四境の関所、

の一つである。四堺(しさかい)は、

平安京のある山城国の四維(北西、南西、南東、北東の隅)にあたる大枝・山崎・逢坂・和邇の4つの地点、

をいい、四境の関所は、

大枝―現在の京都府亀岡市の老ノ坂峠。山陰道の入り口で丹波国との国境、
山崎―現在の京都府大山崎町大山崎・大阪府島本町山崎。山陽道の入り口で摂津国との国境、
逢坂―現在の滋賀県大津市の逢坂山(逢坂関で知られる)。東海道及び東山道の入り口で近江国との国境、
和邇―現在の滋賀県大津市和邇。北国街道(及び愛発関経由で北陸道)の入り口で近江国との国境、

であるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%9B%E5%A0%BA。由来はともかく、四境で、祓いを行っていた名残りのようである。

「綿」.gif


「緜」.gif


「緜(綿)」(漢音ベン、呉音メン)は、

会意文字。「木+帛(しろぎぬ)」で、白布をつくるわたの木。緬(メン 長くつづく)と同系で、細く長く続く意を含む、

とある(漢字源)が、別に、「綿」は、

「緜」の異体字、

で、「緜」は、

会意。系(糸をつなぐ)と、帛(はく)(きぬ)とから成り、糸を連ねて絹を作る、ひいて「つらなる」意を表す。教育用漢字は俗字による、

とも(角川新字源)、

会意文字です。「頭のしろい骨の象形と頭に巻く布にひもをつけ帯にさしこむ象形」(「白ぎぬ」の意味)と「つながる糸を手でかける象形」(「つなぐ」の意味)から、白ぎぬを作る時につながってできる、「まわた(くず繭などを煮て引き伸ばして作った綿)」を意味する「綿」という漢字が成り立ちました。「綿」は「緜」の略字です、

ともある(https://okjiten.jp/kanji744.html

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:45| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする