2024年05月03日

をりはへ


明けたてば蝉のをりはへ鳴きくらし夜は蛍の燃えこそわたれ(古今和歌集)、

の、

をりはへ、

は、

ある事柄の時間がずっとつづくこと、

とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

をりはへ、

は、

折り延ふ、

と当てる、

をりはふ、

の連用形で、多く、

鶯(うぐひす)ぞをりはへて鳴くにつけて、おぼゆるやう(蜻蛉日記)、

と、

連用形、または、それに「て」を添えた形で、

をりはへて、

と用いる(学研全訳古語辞典・精選版日本国語大辞典)とあり、

長く続ける、
いつまでも続ける、
時間を延ばす、
しつづける、

の意である(仝上)。さらに、

おりはふ(折延)、

が、

春がすみしのにころもををりはへていくかほすらむあまのかごやま(「月清集(1204頃)」)、

などと、

「衣」「錦」などの縁語として使われたため、

織り延ふ、

と意識されて、

織り延ふ、

と当てて使うに至り、

織って長くする、
織って長くするように、長く続ける、

意で、

連用形を副詞的に用いることが多い、

とある(精選版日本国語大辞典)。

織延、

は、

おりのぶ、

とも訓み、

女は麻布を織延(ヲリノベ)、足引の大和機(やまとばた)を立て(浮世草子「日本永代蔵(1688)」)、

と、

布の長さや幅に織り詰まりや織り縮みができないように、織り詰まりの割合を定めて、修正しながら規定の丈(たけ)や幅に織り上げる、

意で使う(仝上)。

折る、

は、

鯨魚(いさな)取り海をかしこみ行く船の楫(かぢ)引き折(をり)て(万葉集)、

とか、

手ををりてあひ見し事を数ふればとをといひつつ四つは経にけり(伊勢物語)、

と、

二つに折ったり、指を折ったりする意で、その連用形の名詞化は、

物そのものを折る、

意の、

折り目、
折れ目、

の意になるが、それをメタファに、

時の流れの中で、曲り目、変わり目となる辞典、

の意で(岩波古語辞典)、

季冬(しはすふゆ)の節(ヲリ)にして、風亦烈(はげ)しく寒(さむ)し(日本書紀)、

と、

時節、
季節、

の意や、

さて七度めぐらむをり引きあげて、其をり子安貝はとらせ給へ(竹取物語)、

と、

機会、
場合、
際、


の意で使う(精選版日本国語大辞典)。

はふ、

は、

延ふ、
這ふ、

と当て、

谷狭(せば)み峰に波比(はひ)たる玉かづらたえむの心我が思(も)はなくに(万葉集)、

と、

蔓草や綱などが、物にからみついて伝わっていく、
張り渡す、

意や、

神風(かむかぜ)の伊勢の海の大石(おひし)には這(は)ひもとほろふ細螺(しただみ)のい這ひもとほり撃ちてしやまむ(古事記)、

と、

動物が腹部を物の表面につけて伝うように移動する、

意で使う(岩波古語辞典・学研全訳古語辞典)。

をりはへ、

は、だから、

ある事柄の時間がずっと引き延ばされる、

意となる。

「折」.gif


「折」 甲骨文字・殷.png

(「折」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%8A%98より)

「折」(漢音セツ、呉音セチ)は、「壺折」でふれたように、

会意。「木を二つに切ったさま+斤(おの)」で、ざくんと中断すること、

とある(漢字源)。別に、

斤と、木が切れたさまを示す象形、

で、扌は誤り伝わった形とある(角川新字源)。また、

会意文字です(扌+斤)。「ばらばらになった草・木」の象形と「曲がった柄の先に刃をつけた手斧」の象形から、草・木をばらばらに「おる」を意味する「折」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji670.html

「延」.gif

(「延」 https://kakijun.jp/page/0882200.htmlより)

「延」(エン)は、「ふりはへて」で触れたように、

会意文字。「止(あし)+廴(ひく)+ノ印(のばす)」で、長く引きのばして進むこと、

とある(漢字源)。別に、会意文字ながら、

会意。「彳(道路)」+「止 (人の足)」で、長い道のりを連想させる。「のびる」を意味する漢語{延 /*lan/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BB%B6)

会意文字です(廴+正)。「十字路の左半分を取り出しさらにそれをのばした」象形と「国や村の象形と立ち止まる足の象形」(「まっすぐ進む」の意味)から、道がまっすぐ「のびる」を意味する「延」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji1012.html

と、構成を異にするが、

形声。意符㢟(てん)(原形は𢓊。ゆく、うつる)と、音符𠂆(エイ)→(エン)とから成る。遠くまで歩く、ひいて、「のびる」意を表す(角川新字源)、

と形声文字とする説もある。

参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:57| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする