2024年05月19日

王莽時(わうまがとき)


逢魔が時」で触れたように、

逢魔が時、

は、王莽(おうもう)の故事に付会して、

一説に王莽時(わうもがとき)とかけり。これは王莽前漢の代を簒(うば)ひしかど、程なく後漢の代になりし故、昼夜のさかひを両漢の間に比してかくいふならん、

とある(鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』)。

おうまがとき、

を、

わうまがとき、

と掛けたとも見える。

逢魔が時.jpg

(逢魔時 鳥山石燕『今昔画図続百鬼』より)

王莽時、

は、

おうもうどき、
おもうどき、
おもとき、
おまがどき、
等々と呼ばれ(橋本万平『日本の時刻制度』)、

俗に黄昏をわうまがどきと云ふを、或人の曰く、是れ王莽が時と云ふ事也、

とある(志不可起)。和訓栞は、これを、

羅山人(林羅山)の説に倭俗黄昏を称して王莽時といふといへり、前漢後漢の間の閏位正を乱る意を取て名とす、たそがれ時のごとし、

としている(日本語源大辞典)。羅山文集には、

國俗謂黄昏為王莽時、言晝前漢、夜後漢也、以日気已没夜気未萌故也、

とあるが、大言海は、

附會極まれり、羅山の時、此の語ありしを證す、

と付記している。因みに、

正閏(せいじゅん)、

とは、

正と閏、

つまり、

正位・正統とそうでないもの、

の意で、

閏位、

で、正統でない帝位のことになる(精選版日本国語大辞典)。

逢魔が時

は、

おおまがとき(大禍時)の転。禍いの起きる時刻の意、

とあり(広辞苑)、

夕暮れの薄暗い時、黄昏、

の意とあり、

おまんがとき、
おうまどき、

とも言い、

大魔時、
大禍時、
逢魔時、

等々と当てるが、

おほまが時、

は、

おまんが時の転訛、

で、

おまんが時、

は、

おまんが紅、

と同じで、

あま(尼)が紅、

からきており、日没の頃の夕焼けの色が空を染める時をさす(橋本万平・前掲書)とあり、この「あま」は、

尼、

ではなく、

天、

の転化としている(仝上)。しかし、どうもこの説も違うようだ。

おまんが紅(おまんがべに)、

は、

おまんが紅(ベニ)は夕日をてらし(洒落本「当世爰かしこ(1776)」)、

と、

夕日で空が赤くなること、

をいい、

おまんが紅、

は、

賀の祝おまんが紅をつける也(「柳多留(1815)」)、

と、江戸時代の享保(1716~36)の頃、

江戸の京橋中橋にあったお満稲荷で売っていた紅粉、

をいう(精選版日本国語大辞典)らしい。「嬉遊笑覧(1830)」には、

おまんとは天が紅の時なるを女子の名にとりていへり、或説に中ばしにおまんいなりとて、べにを供へて願がけする社あり、享保の頃はやれりといへり、

と(仝上)、

おまんいなりの紅、

とする。だとすると、どちらにしても、もともとは、この紅から、

夕焼け時、

を、

おまんがとき、

といったところからきて、

「が」が助詞、「ま」が「魔」と意識され、さらに「魔に逢う」の意識も生じて、

大魔時、
逢魔時、

となり、また、漢の王莽(おうもう)に付会して、

王莽時、

とも書かれたという流れになる(仝上)。

おまんが紅.bmp

(おまんが紅 精選版日本国語大辞典より)

この時刻は、古くは、

暮れ六つ、
酉の刻、

などといい、現在の、

17時~19時頃、

とされる(http://abcd08.biz/usimitudokioumagatokikimon/)

それにしても、

たそがれ(誰彼時)、

については、類義語が一杯ある。

あれは誰時、
かいくらみ時、
いりあい
昏鐘鳴(こじみ)、
むつうちどき、
雀色時、
秉燭(へいしょく)、
火点頃、
夕まぐれ、
桑楡(そうゆ)、

等々。

王莽.jpg


「入相」については「入相の鐘」、夕方については、「ゆふ」、「ゆうまぐれ」、「逢魔が時」、「たそがれ」で、それぞれ触れた。また、王莽については、「挂冠」で触れた。

参考文献;
橋本万平『日本の時刻制度』(塙書房)
鳥山石燕『画図百鬼夜行全画集』(角川ソフィア文庫)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:24| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする