2024年05月30日
玉芝(ぎょくし)
豈知玉殿生三秀(豈知らんや 玉殿の三秀(さんしゅう)の生ずるを)
詎有銅池出五雲(詎(いずく)んぞ有らん 銅池(どうち)に五雲の出ずるは)(王維)
のタイトル、
大同殿生玉芝竜池上有慶雲百官共覩聖恩便賜宴楽敢書卽事(大同殿に玉芝生じ、竜池の上に慶雲有り、百官共に覩(み)る。聖恩、便(すなわ)ち宴楽を賜う。敢て即事を書す)、
にある(前野直彬注解『唐詩選』)、
玉芝、
は、
霊芝、
とされ、おそらく、
一種の菌、
であろう(仝上)とある。
天宝七載(748)、八載に、大同殿の柱に玉芝が生えた、
といい、竜池(興慶宮の中にある池)に、
慶雲、
つまり、
瑞雲、
が現れた。瑞祥があった時は、
天子は百官に許可を与えて見物させ、臣民もこれにあやかるようにとの恩恵を施すのが慣例、
という。このときは、さらに、天子が、集まった臣下に祝宴を与えるという、
聖恩、
を加えた。この宴席に加わった著者が、見たままを即興的に歌った詩、これが、
即事、
である。これは天子の命令によりつくる、
応制、
ではないので、
敢、
と言った(仝上)とある。詩に、
三秀、
とあるのは、
玉芝、
のことで、「楚辞」三鬼の歌に、
三秀を山間に采(と)る、
とあり、後漢の王逸の注に、三秀は、
芝草なり、
とあるのをふまえる(仝上)とあり、また、
一年に三度花が咲くので、この名がついたともいう、
とある(仝上)。
玉芝、
は、
奇麗な霊芝、
という意味で、漢代の「十洲記(海内十洲記)」(東方朔)に、
鐘山在北海、生玉芝及神草四十餘種、
とある。東方朔については、人日で触れた。
因露寝、兮産霊芝、象三徳兮應瑞圖、延寿命兮光此都(班固・霊芝歌)、
とある、
霊芝(れいし)、
は、
芝草、
ともいい(広辞苑)、
王者慈仁の時に生ずる、
とされ(景戒(原田敏明・高橋貢訳)『日本霊異記』)、日本でも、
紀伊国伊刀郡、芝草を貢れり。其の状菌に似たり(天武紀)、
押坂直と童子とに、菌羹(たけのあつもの)を喫(く)へるに由りて、病無くして寿し。或人の云はく、盖し、俗(くにひと)、芝草(シサウ)といふことを知らずして妄に菌(たけ)と言へるか(皇極紀)、
とある。中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)には、
芝は神草なり、
とあり(http://www.ffpri-kys.affrc.go.jp/tatuta/kinoko/kinoko60.htm)、
三秀、
芝草、
の他、
霊芝、一名壽濳、一名希夷(続古今註)、
と、
寿潜、
希夷、
菌蠢、
といった別名もある(仝上・字源)。『説文解字』には、
青赤黄白黒紫、
の六芝、
とあり、『神農本草経』や『本草網目』に記されている霊芝の種類は、延喜治部省式の、
祥瑞、芝草、
の註にも、
形似珊瑚、枝葉連結、或丹、或紫、或黒、或黄色、或随四時變色、一云、一年三華、食之令眉壽(びじゅ)、
とあるように、
赤芝(せきし)、
黒芝(こくし)、
青芝(せいし)、
白芝(はくし)、
黄芝(おうし)、
紫芝(しし)、
とある(https://himitsu.wakasa.jp/contents/reishi/)が、紫芝は近縁種とされ、他の4色は2種のいずれかに属する(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9C%8A%E8%8A%9D)とある。
担子菌類サルノコシカケ科(一般にマンネンタケ科とも)、
のキノコで、
北半球の温帯に広く分布し、山中の広葉樹の根もとに生じる。高さ約10センチ。全体に漆を塗ったような赤褐色または紫褐色の光沢がある。傘は腎臓形で、径五~一五センチメートル。上面には環状の溝がある。下面は黄白色で、無数の細かい管孔をもつ。柄は長くて凸凹があり、傘の側方にやや寄ったところにつく、
とあり(精選版日本国語大辞典)、乾燥しても原形を保ち、腐らないところから、
万年茸(まんねんだけ)、
の名がある。これを、
成長し乾燥させたものを、
霊芝、
として用いる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9C%8A%E8%8A%9D)が、後漢時代(25~220)にまとめられた『神農本草経』に、
命を養う延命の霊薬、
として記載されて以来、中国ではさまざまな目的で薬用に用いられ、日本でも民間で同様に用いられてきたが、伝統的な漢方には霊芝を含む処方はない(仝上)とある。
参考文献;
簡野道明『字源』(角川書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95