あしひきの

しのぶれど恋しき時はあしひきの山より月の出でてこそ來れ(古今和歌集)、 の、 あしひきの、 は、 山にかかる枕詞、 である(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。 阿志比紀能(アシヒキノ)山田を作り山高み下樋(したび)を走(わし)せ(古事記)、 けふのためと思ひて標(しめ)し足引乃(あしひきノ)峰(を)の上(へ)の桜かく咲きにけり(万葉集)、 あしひきの山…

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天花

迸水定侵香案湿(迸水(ほうすい)定めて香案を侵(おか)して湿(うるお)い) 雨花應共石牀平(雨花(うか)は応(まさ)に石牀(せきしょう)と共に平らかなるべし)(王維・過乗如禅師蕭居士嵩丘蘭若) の、 雨花、 は、 雨のように降る花、 の意で、 天竺の維摩居士が方丈の室で説法すると、天女が、天花をまきちらしたという、 とある(前野直彬注解『唐詩選』)…

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隠沼

紅の色には出でじ隠れ沼(ぬ)の下にかよひて恋は死ぬとも(古今和歌集)、 の、 隠れ沼、 は、萬葉集では、 隠(こも)り沼(ぬ)の下(した)ゆ恋(こ)ふればすべをなみ妹(いも)が名告(なの)りつ忌(い)むべきものを(万葉集)、 と、 隠沼(こもりぬ)、 で、「下」にかかる(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。 隠沼(かくれぬ)、 は、 …

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にほどり

冬の池に住むにほどりのつれもなくそこにかよふと人に知らすな(古今和歌集)、 の、 にほどり、 は、 かいつぶり、 の意とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。 つれもなく、 は、 つれなくに「も」がはさまった形、 で、 素知らぬ様子で、 の意(仝上)。 (カイツブリ(夏羽) https://ja.wikipedia…

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鳰(にほ)の海

鳰の海や月の光のうつろへば波の花にも秋は見えけり(新古今和歌集)、 の、 鳰の海、 は、 琵琶湖の別名、 鳰の湖、 とも当て(久保田淳訳注『新古今和歌集』)、 におのみずうみ、 とも訓み、 鳰(にほ)、 ともいう(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)。 鳰の海の、 は、また、 近江の国の枕詞、 でもある(仝上…

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みるめ

満つ潮の流れひるまを逢ひがたみみるめの浦によるをこそ待て(古今和歌集)、 おほかたはわが名もみなとこぎ出でなむ世をうみべたにみるめ少なし(仝上)、 の、 みるめ、 は、 みるめ(海松布)と見る目(逢う折)との掛詞、 とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。 みるめ、 は、 海松布、 水松布、 と当て、 海藻ミル、 のこと…

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花かつみ

陸奥の安積(あさか)の沼の花かつみかつ見る人に恋ひやわたらむ(古今和歌集)、 の、 花かつみ、 は、 菖蒲、あやめ、薦(こも)等々の説があるが、いかなる植物か不明、 とあり(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)、 花かつみ、 は、 「かつ」「かつて」にかかる序詞、 として用いる(広辞苑)とある。この、 みちのくの安積の沼の花かつみかつ見…

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西王母

西望瑤池(ようち)降王母(西のかた瑤池を望めば王母(おうぼ)降(くだ)り) 東來紫氣滿函關(東來の紫氣(しき) 函關(かんかん)に滿つ)(杜甫・秋興三) の、 王母、 は、 西王母(せいおうぼ・さいおうぼ)、 のこと、 瑤池、 は、 崑崙山中にあるという、伝説の池、 で、 この池のほとりに西王母の住居があり、むかし周の穆(ぼく)王…

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虚舟

乗興杳然迷出處(興に乗じては杳然として出処に迷い) 對君疑是泛虚舟(君に対して疑うらくは是れ虚舟を泛べしかと)(杜甫・題張氏隠居) の、 虚舟、 は、 人の乗っていない舟、 の意で、「荘子」山木篇に、 舟で川をわたるとき、「虚舟」がきて衝突したのでは、短気な人でも怒りようがないとあるのにもとづく、 とある(前野直彬注解『唐詩選』)。 虚舟(き…

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まれ

君てへば見まれ見ずまれ富士の嶺(ね)のめづらしげなく燃ゆるわが恋(古今和歌集)、 の、 てへば、 は、 といへばの縮まった形、 で、 まれ、 は、 「AまれBまれ」の形で、AであろうとBであろうと、 の意、土佐日記に、 とまれかうまれ、とく破(や)りてむ、 の例がある(仝上)。 まれ、 は、 もあれの約、 …

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二毛

太平時節身難遇(太平の時節 身(み) 遇い難し) 郎署何須笑二毛(郎署(ろうしょ)何(なん)ぞ須(もち)いん二毛を笑うを)(韓愈・奉和庫部盧四兄曹長元日朝廻) の、 郎署(ろうしょ)、 とは、 尚書省の郎中・員外郎のつとめる役所、 をいい、 漢代では宿衛の役人のつとめるところで、漢の武帝が郎署の前を通ったとき、ここにつとめたまま昇進することもなく年をとっ…

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髪衝冠

此地別燕丹(此の地 燕丹(えんたん)に別わかれしとき) 壯士髮衝冠(壮士 髪(はつ) 冠を衝けり) 昔時人已沒(昔時(せきじ) 人已に没し) 今日水猶寒(今日(こんにち) 水猶なお寒し)(駱賓王・易水送別) の、 髪衝冠、 は、 怒髪冠(天)を衝く、 のたとえで知られる、 髪が逆立って、冠を押し上げる、 意で、 悲憤慷慨の極致に達した時の…

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かたしき

さむしろに衣かたしき今宵もやわれを待つらむ宇治の橋姫(古今和歌集)、 の、 さむしろ、 は、歌語で、 「さ」は、「さ夜」「さ衣」などと同じ接頭語、 とあり(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)、 かたしき、 は、 衣を重ねて供寝するのではなく、一人寝で、自分の衣だけを敷く、 とある(仝上)。 「後朝(きぬぎぬ)」で触れたように、 …

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いさよひ

君や來むわれや行かむのいさよひに真木の板戸もささず寝にけり(古今和歌集)、 の、 真木、 は、 杉や檜など、固くて建築に適した木、 で(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)、 いさよひ、 は、 物事や行動が思うように進まないこと、転じて、なかなか出てこない十六夜の月をいう、ここは両方の意、 とある(仝上)。 いさよふ、 は、上代は…

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蹉跎

宿昔青雲志(宿昔(しゅくせき) 青雲の志) 蹉跎白髪年(蹉跎(さた)たり 白髪の年) 誰知明鏡裏(誰か知らん 明鏡の裏) 形影自相憐(形影(けいえい) 自ら相憐まんとは)(張九齢・照鏡見白髪) のタイトル、 照鏡、 とは、 鏡に顔をうつしてみること、 とあり(前野直彬注解『唐詩選』)、 ある日、鏡を見たら、頭のしらがが目についた。わが身の老いの実感と…

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羨魚情

坐観垂釣者(坐(そぞ)ろ釣りを垂るる者を観ては) 徒有羨魚情(徒らに魚を羨むの情有り)(孟浩然・臨洞庭上張丞相) の、 羨魚情(せんぎょのじょう)、 は、 魚を欲しがる気持ち、 とある(前野直彬注解『唐詩選』)。 「漢書」董仲舒(とうちゅうじょ)伝に、 淵に臨んで魚を羨むば、退いて網を結ぶに如かず、 とあるのに拠る。 希望ばかりしている…

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折楊柳(せつようりゅう)

遺却珊瑚鞭(遺却(いきゃく)す 珊瑚(さんご)の鞭) 白馬驕不行(白馬(はくば)驕(おご)りて 行(ゆ)かず) 章台折楊柳(章台(しょうだい) 楊柳(ようりゅう)を折る) 春日路傍情(春日(しゅんじつ)路傍の情)(崔国輔・長楽少年行) の、 章台、 は、唐詩では、 遊里の代名詞、 のように使い(前野直彬注解『唐詩選』)、 折楊柳、 は、 …

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てしか

あな恋し今も見てしか山がつの垣ほに咲ける大和なでしこ(古今和歌集)、 の、 山がつ、 は、 山住みの人、 の意で、多く、 身分低く賤しい者の扱い、 とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。 てしか、 は、 希望を表す、 とある(仝上)。 てしか、 は、奈良時代は、 竜(たつ)の馬(ま)も今も得てしか(弖之可…

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布衣

尚有綈袍贈(尚お綈袍(ていほう)の贈有り) 應憐范叔寒(應(まさ)に范叔(はんしゅく)の寒を憐みしなり) 不知天下士(天下の士たるを知らずして) 猶作布衣看(猶お布衣(ふい)の看(かん)を作(な)せり)(高適・詠史) の、 范叔、 は、「史記」范睢蔡澤列傳に、 睢者、魏人也、字叔、 とあり、 范睢(はんしょ)、 のこと、 天下士、 …

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もがな

ありはてぬ命待つ間のほどばかりうき事繁く思はずもがな(古今和歌集)、 わがごとくわれを思はむ人もがなさてもやうきと世をこころみむ(古今和歌集)、 の、 もがな、 は、 ……があれば(であれば)よい、 という願望を表す助動詞(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』、高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)とあるが、 もがな、 は、 終助詞「もが」+終助詞「な」…

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