2024年06月02日
天花
迸水定侵香案湿(迸水(ほうすい)定めて香案を侵(おか)して湿(うるお)い)
雨花應共石牀平(雨花(うか)は応(まさ)に石牀(せきしょう)と共に平らかなるべし)(王維・過乗如禅師蕭居士嵩丘蘭若)
の、
雨花、
は、
雨のように降る花、
の意で、
天竺の維摩居士が方丈の室で説法すると、天女が、天花をまきちらしたという、
とある(前野直彬注解『唐詩選』)。「方丈」で触れたように、
維摩居士宅……躬以手板、縦横量之、得十笏(尺)、故號方丈(釋氏要覧)、
と、天竺の維摩居士の居室が、
方一丈であった、
ので、
方丈、
という。
天花、
は、
指揮如意天花落(如意を指揮すれば天花落ち)
坐臥閒房春草深(閒房(かんぼう)に坐臥すれば春草深し)(李頎・題璿講魔池)
の、
天上の花、
の意(前野直彬注解『唐詩選』)である。
天華、
とも当て(広辞苑・精選版日本国語大辞典)、
てんか、
てんげ、
とも訓み、
第九随心供仏楽者、彼土衆生、昼夜六時常持種々天華、供養無量寿仏(往生要集)、
と、
天上界に咲くという霊妙な花、
をいい、それに喩えて、
かの塔のもとには……四種の天華ひらけたり(平治物語)、
と、
天上界の花にもたとえられる霊妙な花、
の意でも使う(仝上)。文字通り、
天上の神々たちの世界に咲く霊妙な華、
の意であるが、
釈尊が法を説くとき、しばしば天から雨のごとく降ったり、梵天が釈尊の上に散じて供養したりする華でもある、
とあり(http://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E5%A4%A9%E8%8F%AF)、『大智度論』に、
天竺国の法として、諸の好き物を名づけて、みな天物と名づく。是れ人の華と非人の華とは天上の華に非ずと雖も、其の妙好なるを以ての故に名づけて天華と為す、
とあり、また義山『観無量寿経随聞講録』に、
吹諸天華とは、天は称美の言にして、天香等と云うが如し、
と、メタファとして、単にすばらしく妙なる華の意としても使われる。
四種の天華、
とは、
「四華」、
といい、妙法蓮華経序品第一に、仏陀が、
為諸菩薩説大乗経 名無量義 教菩薩法 仏所護念、
と、
諸の菩薩の為に大乗経の無量義・教菩薩法・仏所護念を説きおわった、
とき、
是時天雨曼陀羅華 摩訶曼陀羅華 曼殊沙華 摩訶曼殊沙華(是の時に天より曼陀羅華・摩訶曼陀羅華・曼殊沙華・摩訶曼殊沙華を雨らして)、
而散仏上 及諸大衆(仏の上及び諸の大衆に散じ)
と(https://www.kosaiji.org/hokke/kaisetsu/hokekyo/1/01-2.htm)あり、
曼陀羅華(まんだらけ 色が美しく芳香を放ち、見るものの心を悦ばせるという天界の花)
摩訶曼陀羅華(まかまんだらけ 摩訶は大きいという意味。大きな曼荼羅華)
曼殊沙華(まんじゅしゃけ この花を見るものを悪業から離れさせる、柔らかく白い天界の花)
摩訶曼殊沙華(まかまんじゅしゃけ 摩訶は大きいという意味。大きな曼殊沙華)
の、
四華(しけ)、
をいう(仝上)とある。これを、
雨華瑞(うけずい)、
といい、
此土六瑞((しどのろくずい)、
のひとつとされ、『法華経』が説かれる際に、
花が雨ふってくる瑞相、
とされる(仝上)。因みに、法要中にする、
散華、
という花びらに似せた紙を散じるのは、この意味である(仝上)。「六瑞」「四華」については、「四華」で詳しく触れた。
「天」(テン)は、「天知る」で触れたように、
指事。大の字に立った人間の頭の上部の高く平らな部分を一印で示したもの。もと、巓(テン 頂)と同じ。頭上高く広がる大空もテンという。高く平らに広がる意を含む、
とある(漢字源)。別に、
象形。人間の頭を強調した形から(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A4%A9)、
指事文字。「人の頭部を大きく強調して示した文字」から「うえ・そら」を意味する「天」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji97.html)、
指事。大(人の正面の形)の頭部を強調して大きく書き、頭頂の意を表す。転じて、頭上に広がる空、自然の意に用いる(角川新字源)、
等々ともある。
「花」(漢音カ、呉音ケ)は、「はな」でも触れたが、
会意兼形声。化(カ)は、たった人がすわった姿に変化したことをあらわす会意文字。花は「艸(植物)+音符化」で、つぼみが開き、咲いて散るというように、姿を著しく変える植物の部分、
とある(漢字源)。「華」は、
もと別字であったが、後に混用された、
とあり(仝上)、また、
会意兼形声文字です。「木の花や葉が長く垂れ下がる」象形と「弓のそりを正す道具」の象形(「弓なりに曲がる」の意味だが、ここでは、「姱(カ)」などに通じ、「美しい」の意味)から、「美しいはな」を意味する漢字が成り立ちました。その後、六朝時代(184~589)に「並び生えた草」の象形(「草」の意味)と「左右の人が点対称になるような形」の象形(「かわる」の意味)から、草の変化を意味し、そこから、「はな」を意味する「花」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji66.html)が、
かつて「会意形声文字」と解釈する説があったが、根拠のない憶測に基づく誤った分析である、
として(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8A%B1)、
形声。「艸」+音符「化」。「華」の下部を画数の少ない音符に置き換えた略字である、
とされ(仝上)、
形声。艸と、音符(クワ)とから成る。草の「はな」の意を表す。もと、華(クワ)の俗字、
とある(角川新字源)。
「華」(漢音カ、呉音ケ・ゲ)は、「花客」で触れたように、
会意兼形声。于(ウ)は、丨線が=につかえてまるく曲がったさま。それに植物の葉の垂れた形の垂を加えたのが華の原字。「艸+垂(たれる)+音符于」で、くぼんでまるく曲がる意を含む、
とあり(漢字源)、
菊華、
と、
中心のくぼんだ丸い花、
を指し、後に、
広く草木のはな、
の意となった(仝上)とする。ただ、上記の、
会意形声説。「艸」+「垂」+音符「于」。「于」は、ものがつかえて丸くなること。それに花が垂れた様を表す「垂」を加えたものが元の形。丸い花をあらわす、
とする(藤堂明保)説とは別に、
象形説。「はな」を象ったもので、「拝」の旁の形が元の形、音は「花」からの仮借、
とする説もある(字統)。さらに、
会意形声。艸と、𠌶(クワ)とから成り、草木の美しい「はな」の意を表す、
とも(角川新字源・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8F%AF)、
会意兼形声文字です。「並び生えた草」の象形(「草」の意味)と「木の花や葉が長く垂れ下がる象形と弓のそりを正す道具の象形(「弓なりに曲がる」の意味)」(「垂れ曲がった草・木の花」の意味から、「はな(花)」を意味する「華」という漢字が成り立ちました、
とも(https://okjiten.jp/kanji1431.html)ある。
参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95