2024年06月07日

花かつみ


陸奥の安積(あさか)の沼の花かつみかつ見る人に恋ひやわたらむ(古今和歌集)、

の、

花かつみ、

は、

菖蒲、あやめ、薦(こも)等々の説があるが、いかなる植物か不明、

とあり(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)、

花かつみ、

は、

「かつ」「かつて」にかかる序詞、

として用いる(広辞苑)とある。この、

みちのくの安積の沼の花かつみかつ見る人に恋ひやわたむ(古今和歌集)、

を本歌とする、

野辺はいまだあさかの沼に刈る草のかつ見るままに茂る頃かな(新古今和歌集)、

では、

刈る草、

で、

本歌の花かつみを暗示する、

とし(久保田淳訳注『新古今和歌集』)、

花かつみ、

は、

真菰とも野花菖蒲、

ともいうとし、

後者か、

としている(仝上)。

はなかつみ、

は、

花勝見、

と当て(広辞苑)、

水辺の草の名、秋、ヨシに似た穂が出る、

とあり(岩波古語辞典)、一説に、

マコモ、

とあり(仝上・広辞苑)、

諸説、区々なれど、菰(マコモ)なりと云ふ、

ともある(大言海)。この故は、

かつみ、

は、

勝見、

と当て、

かつみぐさの略、

で、

マコモの異称、

とされる(仝上)からである。

真菰.jpg


刈菰」で触れたように、

真菰刈る淀の沢水雨降ればつねよりことにまさるわが恋(古今和歌集)、

などと詠われる、

真菰、

は、

真薦、

とも当て、「ま」は、

接頭語(岩波古語辞典)、
まは発語と云ふ(大言海)、
マは美称の接頭語(角川古語大辞典・小学館古語大辞典)、

とあり、色葉字類抄(1177~81)に、

菰、マコモ、コモ、

とあり、

こも(薦・菰)、

のことで、

かつみ、
はなかつみ、
まこもぐさ
かすみぐさ、
伏柴(ふししば)、

ともよぶがイネとは異なる(広辞苑・大言海)。

真菰、

は、古くから、

神が宿る草。

として大切に扱われ、しめ縄としても使われてきたhttps://www.biople.jp/articles/detail/2071

「こも」は、

薦、
菰、

と当て、

まこも(真菰)の古名、

とある(日本語源大辞典・精選版日本国語大辞典)。

イネ科の大形多年草。各地の水辺に生える。高さ一~二メートル。地下茎は太く横にはう。葉は線形で長さ〇・五~一メートル。秋、茎頂に円錐形の大きな花穂を伸ばし、上部に淡緑色で芒(のぎ)のある雌小穂を、下部に赤紫色で披針形の雄小穂をつける。黒穂病にかかった幼苗をこもづのといい、食用にし、また油を加えて眉墨をつくる。葉でむしろを編み、ちまきを巻く、

とあり、漢名、

菰、

という(精選版日本国語大辞典・日本語源大辞典)。

マコモの種子、

は米に先だつ在来の穀粒で、縄文中期の遺跡である千葉県高根木戸貝塚や海老が作り貝塚の、食糧を蓄えたとみられる小竪穴(たてあな)や土器の中から種子が検出されている、

とある(日本大百科全書)。江戸時代にも、『殖産略説』に、

美濃国(みののくに)多芸(たぎ)郡有尾村の戸長による菰米飯炊方(こもまいめしのたきかた)、菰米団子製法などの「菰米取調書」の記録がある、

という。中国では、マコモの種子を、

波漂菰米沈雲黑(波は菰米(こべい)を漂わして沈雲(ちんうん)黒く)(杜甫・秋興)、

と、

菰米、

と呼び、

色は黒く、食用に供するので米という、

とある(前野直彬注解『唐詩選』)。

古く『周礼(しゅらい)』(春秋時代)のなかで、

供御五飯の一つ、

とされている。なお、茎頂にマコモ黒穂菌が寄生すると、伸長が阻害され、根ぎわでたけのこ(筍)のように太く肥大する。これを、

マコモタケ、

という。内部は純白で皮をむいて輪切りにし、油いためなど中国料理にする。根と種子は漢方薬として消化不良、止渇、心臓病、利尿の処方に用いられる(マイペディア)。(マイペディア)。その故か、

かつみ、

の由来は、

糧實(カテミ)の転(竪(タテ)、たつ)、實の食糧に充つべき意かと云ふ、

とある(大言海)。

ショウブ.jpg


たしかに、

かつみ、

は、

まこも、

だとして、しかし、あえて、それに「花」を冠させて、

花かつみ、

と言ったのには、理由がなければならない。「花」の印象が薄い点では、

ショウブ、

も、

マコモ、

と、どっこいどっこいな気がする。では、

花しょうぶ、

なのか。ただ、

ノハナショウブ、

は、

かきつばた、

とは違い、水辺に生えない。どれかとは決め手がない。

マコモ、
ショウブ、

以外に、

デンジソウ、
ヒメシャガ、

という説もあるらしいhttps://www.tamagawa.ac.jp/agriculture/teachers/tabuchi/theme/02/02_2.htmlが。

ノハナショウブ.jpg



デンジソウ(田字草).jpg

(デンジソウ(田字草) https://shop.shizen-seikatsu.jp/item-detail/771013より)

なお、「あやめ」「かきつばた」「ショウブ」については、「あやめぐさ」、「何れ菖蒲」で触れた。

参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:15| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする