2024年06月11日

二毛


太平時節身難遇(太平の時節 身(み) 遇い難し)
郎署何須笑二毛(郎署(ろうしょ)何(なん)ぞ須(もち)いん二毛を笑うを)(韓愈・奉和庫部盧四兄曹長元日朝廻)

の、

郎署(ろうしょ)、

とは、

尚書省の郎中・員外郎のつとめる役所、

をいい、

漢代では宿衛の役人のつとめるところで、漢の武帝が郎署の前を通ったとき、ここにつとめたまま昇進することもなく年をとった顔駟という運の悪い老人に会ったという故事をふまえる、

とある(前野直彬注解『唐詩選』)。『漢武故事』によると、

顔駟は、文帝・景帝・武帝の3代に仕えた。最初の文帝は学問を好んだが、顔駟は武芸が得意だった。次の景帝は老成した者を好んだが、その時まだ顔駟は若年だった。次の武帝は若者を好んだが、その時すでに顔駟は老人になっており、結局ずっと不遇だった、

とあり、これを知った武帝は、顔駟を都尉に抜擢した(物語要素事典)という。

二毛、

は、

白い毛と黒い毛、

を言い、

白髪まじりの老人、

をいう。「礼記」檀弓篇に、

古之侵伐者、不斬祀、不殺厲、不獲二毛(古(いにしえ)の侵伐する者は、祀を斬(た)たず、厲(れい)を殺さず、二毛を獲(とら)えず)、

とあるのにもとづく(仝上)とある。漢代の「左伝」(春秋左氏傳)僖公廿二年にも、

公(僖公)曰君子不重傷、不禽二毛、古之爲軍也、不以阻隘也、寡人雖亡國之余、不鼓不成列

とあり、

班白、

と同義とあり(字源)、その註に、

二毛、頭白有二色、

とある(大言海)。左伝の他、上述のように、前漢の「禮記」に、

古之侵伐者、不斬祀、不殺厲、不獲二毛、

とあるほかに、前漢代の「淮南子(えなんじ)」にも、

古之伐國不殺黃口(幼兒)、不獲二毛(老人)、於古為義、於今為笑、

とあり、一種、儒者の君子論の中に位置づけられるらしい。これに対して、上述の左伝で、司馬子魚(公子目夷)は、

君未知戦、

と決めつけ、

君は今だ戦を知らず、勍敵の人、隘にして列を成さざるは、天の我を賛くるなり、阻にして之に鼓うつ、亦可ならざらんや。猶懼るること有り、且つ、今の勍き者は皆我が敵なり、胡耇(耆)に及ぶと雖も獲なば則ち之を取らん、二毛において何か有らん、恥を明にし戦を教ふるは、敵を殺さんことを求むるなり、傷つくとも未だ死するに及ばざれば、如何ぞ重ねること勿らんや、若し傷を重ぬるを愛(いとし)まば、則ち傷くること勿きに如かんや、其の二毛を愛まば、則ち服(したが)ふに如かんや、三軍は利を以て用ゐるなり、金鼓は聲を以て気(たす)くるなり、利にして之を用ゐば、隘に阻するも可なり、聲盛にして志を致さば、儳に鼓うたんも可なり、

と反論しているというhttp://nippon-chugoku-gakkai.org/wp-content/uploads/2019/09/27-05.pdf。なお、

軍中に用いる鐘と太鼓、

について、

進むに鼓を用い、とどまるに鐘を用いる、

とありhttps://chdict.conomet.com/word/%E9%87%91%E9%BC%93

金鼓、

は、

金鼓斉鳴、

と、

鐘と太鼓がいっしょに鳴る、

つまり、

激戦のさま、

の意とある(仝上)。

「二」.gif

(「二」 https://kakijun.jp/page/0205200.htmlより)


「二」 甲骨文字・殷.png

(「二」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BA%8Cより)


「貮」.gif

(「貮(弐)」 https://kakijun.jp/page/ni11200.htmlより)

「二」(漢音ジ、呉音ニ)は、

指事文字。二本の横線を並べたさまを示すもので、二つの意を示す、

とあり(漢字源)、

貮(弐)、

は、

古文の字体で、おもに証文や公文書で改竄・誤解を防ぐために用いる、

とある(漢字源)。

「毛」.gif

(「毛」 https://kakijun.jp/page/0465200.htmlより)

「毛」(慣用モ、漢音ボウ、呉音モウ)は、「吹毛の咎」で触れたように、

象形。細かいけを描いたもので、細く小さい意を含む、

とある(漢字源)。別に、

象形文字です。「けの生えている」象形から「け」を意味する「毛」という漢字が成り立ちました、

ともある(角川新字源・https://okjiten.jp/kanji228.html)。

参考文献;
前野直彬注解『唐詩選』(岩波文庫)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
関口順「春秋時代の『戦』とその残像」http://nippon-chugoku-gakkai.org/wp-content/uploads/2019/09/27-05.pdf

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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posted by Toshi at 03:20| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする