2024年06月18日

てしか


あな恋し今も見てしか山がつの垣ほに咲ける大和なでしこ(古今和歌集)、

の、

山がつ、

は、

山住みの人、

の意で、多く、

身分低く賤しい者の扱い、

とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。

てしか、

は、

希望を表す、

とある(仝上)。

てしか、

は、奈良時代は、

竜(たつ)の馬(ま)も今も得てしか(弖之可)あをによし奈良の都に行きて来むため(万葉集)、

と清音だが、平安時代以降、

てしが、

と濁音化、

完了の助動詞ツの連用形テに、回想の助動詞キの已然形シカのついたものが原形、

であるが、平安時代以後濁音化して、

てしが、

となると、

シは回想の助動詞キの連体形、ガは願望の助動詞とみられるようになった、

とあり(岩波古語辞典)、

(不可能だが)もしそれが可能なら……したい、
……したいものだ、

の意で使われる(仝上)。助動詞、

き、

は、

終止形 連体形 已然形
き  し しか

だけの活用をもつ(「き」の未然形として「せ」を認める説もあるが、これは動詞「す」の未然形とする説もあって確定していない)(仝上)。意味は、

香具山と耳梨山とあひ之(シ)時立ちて見に来之(シ)印南国原(いなみくにはら)(万葉集)、

と、

話し手の直接に見聞したことを表わす場合、話している時点からみて、その出来事が現在から切り離された過去の事実であること、

を表わし、和歌や会話文に用いられ、

かく上る人々の中に、京より下りし時に、みな人、子どもなかりき(土佐日記)、

と、

語り手が直接見聞した以外のことも表わす場合、物語の現段階からみて、ある出来事がそれより以前に起こったこと、

を表わし、物語・日記・随筆などの地の文に用いられる(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)。

てしか、

に、詠嘆の助詞、

も、

のついた、

なかなかに人にあらずは酒壺(さかつぼ)になりにてしかも酒に染みなむ(万葉集)、

という、

てしかも、

も、主に奈良時代に使われた(大辞林)が、平安時代以降は、終助詞(感動の助詞ともある)、

な、

のついた、

みみなしの山のくちなし得てしかな思ひ色の下染(したそめ)にせむ(古今和歌集)、

という、

てしかな、

がつかわれ、これも、後に、

てしがな、

と濁音化したが、

……したいものだなあ、
……してしまいたいものだ、

と、

詠嘆の意を込めた願望、

を表した(仝上・デジタル大辞泉・岩波古語辞典)。つまり、

てしか→てしが→てしかも→てしかな→てしがな、

と変化していったことになる。

助動詞、

き、

は、連用形を承けるが、カ変動詞・サ変動詞につく場合は、接続上特殊な変化があり、

カ変は「こし」「こしか」「きし」「きしか」、サ変には、「せし」「せしか」「しき」となる、

とある(岩波古語辞典)。ただ、

「きし」は「きし方かた」、
「きしか」は「着しか」の掛け詞としたもの、

だけであるところから、「きし」を動詞「く(来)」の連用形に、完了の助動詞「ぬ」の連用形、過去の助動詞「き」の連体形の付いた「きにし」の音変化「きんし(じ)」の撥音無表記であるとして、カ変動詞の連用形からの接続を認めないという説もある(デジタル大辞泉)。

なお、同じ過去を表現する、

けり、

との違いについて、

存在態の「あり」を含む「けり」に対して、「あり」を含まない「き」は、出来事が時間的にへだたって存在し、目の前にないことを表わす、

とある(精選版日本国語大辞典)。

然、


とあてる、

しか、

については、「しか」で触れた。

参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:11| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする