2024年06月25日
藤波
み吉野の大川の辺(へ)の藤波のなみに思はばわが恋ひめやは(古今和歌集)、
の、
藤波、
は、
連なって風に揺れる藤の様子を言う語、
で、
「藤」は「淵」の掛詞になることがある。ここでは掛詞ではないが、「川」「淵」「波」という連想を呼ぶか、
とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
藤波、
は、
藤浪、
とも当て(精選版日本国語大辞典・学研全訳古語辞典)、
藤靡(フヂナミ)の義、
とあり(大言海)、
藤の花房が風に靡いて揺れる様子を波に見立てて言う語、
で、転じて、
藤および藤の花、
についてもいうが、平安時代には、「ふじ」の音にかけて、
ちはやぶる賀茂の川辺のふぢなみは懸けて忘るる時の間ぞ無き(梁塵秘抄)、
この二人の摂政殿たち、みな御子おはしますなれば、ふぢなみのあと絶えず(今鏡)、
などのように、藤原氏の繁栄を歌意にこめる場合がある(仝上・学研全訳古語辞典)。
また、枕詞として、
藤波の、
は、
藤のつるが物にまといつくことから、
磯城島の大和の国に人さはに満ちてあれども藤波の思ひまつはり若草の思ひつきにし君が目に恋ひや明かさむ長きこの夜を(万葉集)、
と、
まつはり、
に掛かり、また、
波と同音から、
冒頭の、
み吉野の大川野辺のふぢなみのなみに思はば我が恋ひめやは、
では、序詞の一部として、
並み、
を導き出している(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。また、波の縁語、
藤波の寄ると頼めし言の葉を、
と、
立つ、寄る
などにもかかる(仝上)。
「藤」(漢音トウ、呉音ドウ)は、「藤衣」で触れたように、
会意兼形声。「艸+音符滕(トウ のぼる、よじれてのぼる)」、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(艸+滕)。「並び生えた草」の象形と「渡し舟の象形と上に向かって物を押し上げる象形と流れる水の象形」(「水がおどり上がる、湧き上がる」の意味)から、「つるが上によじ登る草」を意味する「藤」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2100.html)。
「波」(ハ)は、「重波(しきなみ)」で触れたように、
会意兼形声。皮は「頭のついた動物のかわ+又(手)」の会意文字で、皮衣を手でななめに引き寄せて被るさま。波は「水+音符皮」で、水面がななめにかぶさるなみ、
とある(漢字源)。別に、
会意兼形声文字です(氵(水)+皮)。「流れる水の象形」と「獣の皮を手ではぎとる象形」(「毛皮」の意味)から、毛皮のようになみうつ水、「なみ」を意味する「波」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji405.html)。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95