2024年07月05日

罟師(こし)


楊柳渡頭行客稀(楊柳(ようりゅう)の渡頭(ととう) 行客(こうかく)稀なり)
罟師盪槳向臨圻(罟師(こし) 槳(かい)を盪(うご)かして臨圻(りんき)に向う)
唯有相思似春色(唯だ相思(そうし)の春色(しゅんしょく)に似たる有りて)
江南江北送君歸(江南(こうなん)江北(こうほく) 君が帰るを送る)(王維・送沈子福之江南)

の、

楊柳渡頭、

は、

楊柳の渡し場のほとり、

という意味だが、

楊柳、

は、「折楊柳(せつようりゅう)」で触れたように、唐詩では、

楊柳の枝を折る、

というと、

別離には楊柳の枝を折って贈る風習があった、

ので、この詩の場面には、

楊柳、

はふさわしい(前野直彬注解『唐詩選』)とある。

罟師(こし)、

の、

罟、

は、

魚をとる網、

で、

罟師、

は、

漁師、

を指す(仝上)。

「罟」.gif


「罟」(漢音コ、呉音ク)は、

会意兼形声「网(あみ)+音符古(胡 かぶさる)」

とあり(漢字源)、

魚を捕るための網、

だが、

うえからかぶせる仕掛け網、

とあり(漢字源)、

あみの総称、

ともある(仝上・漢辞海)。

網罟(もうこ)、「罟師」等々と使い、メタファとして、

天罟(てんこ)、

と、

犯罪を防ぐため、張り巡らした法網(漢字源)、
おきて(字源)、

の意でも使う(仝上)。

「あみ」に当てる漢字は、かなりの数があり、辞書で拾えるだけでも、

网、罔、網、羅、汕、罘、罟、罨、罦、畢、罼、罝、罥、罤、罨、罿、罾、罛、罜、

等々とある(字源・漢辞海・漢字源)。

「网」.gif



「罔」.gif


「网」(漢音ボウ、呉音モウ)は、

象形、両脇の支柱の間に、×型にあみを張ったさまを描いたもの。のち音符亡を加えて、罔の字となった、

とあり(漢字源)、「罔」は、「网」の異字体(漢辞海)、

会意兼形声、「网(あみ)+音符亡(みえない)」

で、

網、

の古字とある(字源)。

糸やひもを編んで作った鳥獣や魚をかぶせて捕らえるあみ、

である(仝上・漢字源)。

「網」.gif

(「網」 https://kakijun.jp/page/1489200.htmlより)

「網」(漢音ボウ、呉音モウ)は、

会意兼形声。罔はもと、あみを描いた象形文字、網は「糸+音符罔(モウ)」で、被せて見えなくするあみ、また目には見えにくくてかぶさるあみ、罔と同じ、

とある(漢字源)。

糸や紐を編んで作った鳥獣や魚をとらえるあみ、

の意で、

网、
罔、
罟、
羅、

と同義である(仝上)。

「羅」.gif

(「羅」 https://kakijun.jp/page/1906200.htmlより)

「羅」(ラ)は、「綾羅」で触れたように、

会意文字。「网(あみ)+維(ひも、つなぐ)」

とある(漢字源)。あみを張りめぐらす意を表である(角川新字源)。別に、

形声。「糸」+音符「䍜 /*RAJ/」。「あみ」を意味する漢語{羅 /*raaj/}を表す字。もと「网」が{羅}を表す字であったが、「隹」を加えて「䍜」となり、さらに「糸」を加えて「羅」となった、

ともhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%BE%85

会意文字です(罒(网)+維)。「網」の象形と「より糸の象形と尾の短いずんぐりした小鳥と木の棒を手にした象形(のちに省略)」(「鳥をつなぐ」、「一定の道筋につなぎ止める」の意味)から、「鳥を捕える網」を意味する「羅」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2007.html

鳥罟謂之羅(中国最古の字書『爾雅』(秦・漢初頃))、

と、

鳥をとらえるあみ、

の意である(字源・漢辞海)

「汕」.gif


「汕」(サン)、

は、

魚の泳ぐさま、

をいい、魚をすくいとる、

すくいあみ、

とあるhttps://kanjitisiki.com/jis2/2-2/535.html

「罘」.gif


「罘」(漢音フウ、呉音ブ)は、

会意兼形声。「网(あみ)+音符不(ふっくら、ふくれる)」

とあり(漢字源)、

うさぎをとらえるあみ、

の意であり(仝上・漢辞海)、また、ひろく、

鳥獣などを狩るのに用いるあみ、

の意でもある。

「罦」.gif


「罦」(フ・フウ)、

は、

雉離于罦(王風)、

と、

車上に設けて鳥を捕らえるあみ、

である(字源)。

「畢」.gif


「畢」(漢音ヒツ、呉音ヒチ)は、

象形。もと鳥獣をとりおさえる柄付の網を描いたもの。ぴたりと隙間なく抑える意から、もれなくおさえてケリをつける意となる、

とある(漢字源)。別に、

象形。鳥をとらえるための、大きなあみの形にかたどる。借りて「おわる」意に用いる(角川新字源)、

会意兼形声文字です。「区画された狩猟地・耕地」の象形と「かも猟に用いられる柄のついた網の象形」から「あみ」を意味する「畢」という漢字が成り立ちました。また、「閉」に通じ(「閉」と同じ意味を持つようになって)、「おわる」の意味も表すようになりましたhttps://okjiten.jp/kanji2604.html

ともあり、

鳥獣をとりおさえるための柄つきのあみ、

の意である(漢字源・漢辞海)。

「罼」.gif


「罼」(ヒツ)は、「畢」とつながり、

長い柄の先に網をつけて、鳥などを捕らえるあみ、

の意で、

うさぎあみ、
さであみ(叉手網 魚を大きな袋網を用いて. すくいとる)、

の意もある(字源)。

「罝」.gif


「罝」(シャ・ショ)は、

「罝罘」(シャフ)、

と、

兎などの獣を捕らえるあみ、

の意(字源)。

「罥」.gif


「罥」(ケン)は、

鳥獣を捕らえるための網、

の意である(字源・漢辞海)。

「罤」.gif


「罤」(コン)は、

兎を捕らえる網、

であるhttps://kanji.jitenon.jp/kanjis/9178.html

「罨」.gif


「罨」(慣用アン、漢音呉音エン)は、

会意兼形声。「网(あみ)+音符奄(エン かぶせる)」、

で、

うえからかぶせて魚を捕らえるあみ、

の意である(漢字源・字源)。

「罿」.gif


「罿」(ショウ・トウ)は、

車上に張りて鳥を捕らえるあみ(字源)、

とも、

ウサギ用の捕獲あみ(漢辞海)、

ともある。

「罾」.gif


「罾」(ソウ)は、

置人所罾魚腹中(漢書・陳勝傳)、

と、

方形の阿見の四隅を竹にて張り柄をつけ、少時、水に沈め、急に引き上げて魚を取る、

いわゆる、

四つ手網、

の意である(字源)。

「罛」.gif


「罛」(コ)は、

魚罛(ぎょこ)、

と、

魚を捕らえる大きな網、

である(字源)。

「罜」.gif


「罜」(シュ)は、

魚罟(ぎょこ)、

の意で、

魚を捕らえる小さな網、

こあみ、

の意である(字源)。

参考文献;
前野直彬注解『唐詩選』(岩波文庫)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
戸川芳郎監修『漢辞海』(三省堂)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:29| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする