故園東望路漫漫(故園 東望(とうぼう)すれば路(みち)漫漫(まんまん)たり)
雙袖龍鍾淚不乾(双袖(そうしゅう)竜鍾(りゅうしょう)として涙乾かず)
馬上相逢無紙筆(馬上相逢(お)うて紙筆(しひつ)無し)
憑君傳語報平安(君に憑(よ)って伝語(でんご)して平安を報ぜん)(岑参・逢入京使)
の、
故園、
は、
故郷のわが家、
で、
作者の郷里は河南省南陽であるが、ここでは長安にあった住居をさす、
とある(前野直彬注解『唐詩選』)。
漫漫、
は、
遠く果てしないこと、
である。『楚辞』の「離騒」に、
路(みち)曼曼として其れ脩遠(しゅうえん)なり、吾(われ)将(まさ)に上下して求索(きゅうさく)せんとす(路曼曼其脩遠兮、吾將上下而求索)、
とある(https://kanbun.info/syubu/toushisen358.html)。
竜鐘、
は、
老いてつかれ病む貌、
とある(字源)が、これは、
龍と鐘の二字の音を合わせれば、
癃、
となるため(字源)とある。
「癃」(漢音リュウ、呉音ル)は、
会意兼形声。「疒+音符隆(リュウ 一部盛り上がる)」、
で(漢字源)、
疲癃、
で、
疲れ病む、
意、
罷癃、
老癃、
老いて病む、
というように、
疲れ病む、
意で(字源)、
龍鐘、
は、
潦倒龍鐘百疾叢體(李華・臥疾舟中贈別序)、
今日道旁扶一枴、乃公安得不龍鐘(劉克荘・老奴)、
などと、
衰弱の状、
をいい(大言海)、また、
敗絮龍鐘擁病身、十分寒事在湘濱(劉克荘・湘潭道中即事)、
と、
しおたれること、
の意などで使い(大言海)、
老人の形容・失意の形容に用いる、
が(前野直彬注解『唐詩選』)、ここでは、
漢の蔡邕(さいよう)または晋の孔衍(こうえん)の撰と伝えられる『琴操』の中の「退怨の歌」に、
空山歔欷、涕龍鍾兮(空山(くうざん)歔欷(きょき すすり泣く)して、涕(なみだ)竜鍾(りゅうしょう)たり)
とあるのに基づき、
涙があふれ出ることの形容、
とある(仝上)。
故園東望路漫漫、雙袖龍鐘涙不乾(岑参・逢入京使)、
にも、
涙の垂れること、
の意で用いている(大言海)。
「竜」(漢音リョウ、呉音リュウ、慣用ロウ)は、「亢龍悔い有り」で触れたように、
象形。もと、頭に冠をかぶり、胴をくねらせた大蛇の形を描いたもの。それにいろいろな模様を添えて、龍の字となった、
とある(漢字源)。
竜、
が古字(字源)とある。別に、
象形。もとは、冠をかぶった蛇の姿で、「竜」が原字に近い。揚子江近辺の鰐を象ったものとも言われる。さまざまな模様・装飾を加えられ、「龍」となった。意符としての基本義は「うねる」。同系字は「瀧」、「壟」。古声母は pl- だった。pが残ったものは「龐」などになった、
ともある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%BE%8D)。
参考文献;
前野直彬注解『唐詩選』(岩波文庫)
簡野道明『字源』(角川書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:竜鐘(りゅうしょう)