2024年07月09日

山かづら


すべらぎをときはかきはにもる山の山人ならし山かづらせり(新古今和歌集)、

の、

ときはかきはに、

は、

永久不変に、

の意、

山かづら、

は、

山鬘、
山蔓、

と当て、

ヒカゲノカズラで結ったカズラ、

をいい、

神事に用いた、

とある(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。ただ、

マサキノカヅラ(真拆葛)にて結ひたるかづら、

ともある(大言海)。

かづら、

は、

鬘、

とあて、

カミ(髪)ツラ(蔓)の約(ツラはツル(蔓)と同根)、

で、

蔓草で作った髪飾り、

をいい(岩波古語辞典)、上代、

蔓草を採りて、髪に挿して飾りとしたるもの、又、種々の植物の花枝などをも用ゐたり、後の髻華(ウズ)、挿頭花(かざし)も、是れの移りたるなり、

とある(大言海)。

髻華(うず)、

は、

巫女の頭飾りのルーツ、

で、

山の植物の霊的なパワーを得るため髪や冠に草花や木の枝を挿す、

ものとされ、現在の巫女の頭飾りに用いる花もこれを踏襲しているhttps://gejideji.exblog.jp/31187471/し、

挿頭、
挿頭華、

とも当てる、

秋萩は盛り過ぐるをいたづらにかざしに挿さず帰りなむとや(万葉集)、

の、

かざし、

は、上代、

草木の花や枝などを髪に挿したこと。また、挿した花や枝、

をいい、平安時代以後は、冠に挿すことにもいい、多く造花を用いた(デジタル大辞泉)とあり、やはり、

幸いを願う呪術的行為が、のち飾りになったもの、

とある(仝上)。古墳時代には、これを、

髻華(うず)、

といい、飛鳥時代には、髪に挿すばかりではなく、冠に金属製の造花や鳥の尾、豹(ひょう)の尾を挿して飾りとし、平安時代になって、冠に挿す季節の花の折り枝や造花を、

挿頭華(かざし)、

とよぶようになった。造花には絹糸でつくった糸花のほか金や銀製のものがあった。その挿し方は、

冠の巾子(こじ)の根元につけられている上緒(あげお)に挿すが、官位、儀式により用いる花の種類が相違し、大嘗会(だいじょうえ)には、

天皇菊花、
親王紅梅、
大臣藤花、
納言(なごん)桜花、
参議山吹、

と決められた。祭りの使(つかい)および列見(れっけん)(朝廷で2月11日に六位以下の官吏を位階昇進の手続のため閲見、点呼する儀式)などの行事に参列する大臣以下も同じで、非参議以下はその時の花を用いる(日本大百科全書)とある。

やまかづら、

に、

ヒゲノカヅラ、

以外に、

マサキノカヅラ、

に当てる説がある(岩波古語辞典・大言海)が、

マサキノカヅラ、

は、

深山(みやま)にき霰降るらし外山(とやま)なるまさきのかづらいろづきにけり(神楽歌)、

とあり、

真栄の葛、

と当て、今日の、

テイカカヅラ、

の古名で、

ツルマサキの古名、

ともされ、やはり、

神事に用いた、

とある(仝上)。

さがりごけ」で触れたように、

ヒカゲノカズラ、

は、

践祚の大嘗祭、凡そ斎服には……親王以下女孺(にょじゅ、めのわらわ 下級女官)以上、皆蘿葛(延喜式)、

と、

新嘗(にいなめ)祭・大嘗(だいじょう)祭などの神事に、物忌のしるしとして冠の笄(こうがい)の左右に結んで垂れた青色または白色の組糸、

を呼ぶ(岩波古語辞典・広辞苑)。もと、

植物のヒカゲノカズラを用いた、

ための称である(仝上)。

ヒカゲノカズラ(植物).jpg


ヒカゲノカズラ、

は、

ヒカゲカズラ、

ともいい、

キツネノタスキ、
カミダスキ、

とも呼び、

日陰鬘、
日陰蔓、
蘿葛、

と当て(広辞苑・岩波古語辞典)、

山葛蘿(ヤマカズラカゲ)、

の別名を持ち、

漢名は、

石松、

で(広辞苑)、

蘿(かげ)、

という別称もあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%82%AB%E3%82%B2%E3%83%8E%E3%82%AB%E3%82%BA%E3%83%A9

シダ類ヒカゲノカズラ科の常緑多年草、

で、各地の山麓に生える。高さ八~一五センチメートル。茎はひも状で地上をはい長さ二メートルに達する。葉はスギの葉に似てごく小さく輪生状またはらせん状に密生する。夏、茎から直立した枝先に淡黄色で長さ三~五センチメートルの円柱形の子嚢穂をつける、

とある(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。茎は、正月の飾りにし、胞子は、

石松子、

という丸薬の衣に用い、また皮膚のただれに効くという(仝上)。

なお、

山蔓(やまかづら)、

には、

あら玉の年の明行山かつら霞をかけて春はきにけり(続千載和歌集)、

と、

明け方、山の端にかかる雲、夜明けに山の稜線にたなびいて見える雲、

の意で使われ、さらに、転じて、

あらばへと背中をたたく暁雲(ヤマカツラ)(雑俳「ぎんかなめ(1729)」)、

と、

明け方、
早朝、

の意でも使われる(精選版日本国語大辞典・広辞苑)。

ヒカゲノカズラ.jpg

(ひげのかずら デジタル大辞泉より)

巾子(こじ)」については触れたし、「日陰蔓(ひかげのかずら)」については、「さがりごけ」で触れた。

参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:17| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする