2024年07月10日
月草
いで人は言のみぞよき月草のうつし心は色ことにして(古今和歌集)、
の、
月草、
は、
露草、
のこと(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)、
月草で染めた衣は色変わりしやすいので、「うつし心」などの枕詞となる、
とある(仝上)。
つきくさ、
は、
鴨跖草、
鴨頭草、
とも当て(大言海)、
つきぐさ、
ともいう(仝上・広辞苑・日本語源大辞典)。和名類聚抄(931~38年)に、
鴨頭草、都岐久佐、押赤草(鴨跖草の假字)、
本草和名(ほんぞうわみょう)(918年編纂)に、
鴨頭草、都岐久佐、
平安後期の漢和辞書『字鏡』(じきょう)に、
豆支草(つきくさ)、
とあり、万葉集で、
鴨頭草(つきくさ)に衣色取り摺らめども移(うつろ)ふ色と言ふがくるしさ、
と詠われる。
月草、
の他、
うつしばな、
うつしぐさ、
アオバナ(青花)、
アイバナ、
カマツカ、
ホタルグサ(蛍草)、
アキバナ、
ボウシバナ(帽子花)、
チンチログサ、
トンボグサ、
メグスリバナ、
ハマグリグサ、
ツケバナ、
等々の名もある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%84%E3%83%A6%E3%82%AF%E3%82%B5・岩波古語辞典・大言海・広辞苑)、
露草、
は、
ツユクサ科ツユクサ属の一年生植物。畑地・路傍などに見かける雑草である。高さ30センチ余、鮮やかな青色の花は朝に咲き、昼にはしぼむ。葉柄は鞘状、夏から秋にかけて左右対称の花をつける。他のツユクサ属の植物と同様、雄しべは6本あり、上側の3本、下側中央の1本、下側左右の2本で形態が異なる、
とあり(広辞苑・https://jmapps.ne.jp/kokugakuin/det.html?data_id=32150)、古来、この花で布を摺り染める。若葉は食用、乾燥して、利尿剤としても使う(仝上)。この花が、
すぐに萎れて色が変わる、
し、
花汁で摺りつけた藍色は水で落ちやすい、
ために、
つき草のうつろいやすく思へかも我(あ)が思ふ人の言(こと)も告げ来(こ)ぬ(万葉集)、
朝(あした)咲き夕(ゆうべ)は消(け)ぬるつき草の消(け)ぬべき戀(こひ)も吾(あれ)はするかも(万葉集)、
などと、
人の心のうつろいやすいたとえ、
に使うことが多い(岩波古語辞典)。
露草、
の由来は、
善く露をたもては云ふ(大言海)、
露を帯びた草の義(牧野新日本植物図鑑)、
朝咲いた花が昼しぼむことが朝露を連想させることからと名付けられた(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%84%E3%83%A6%E3%82%AF%E3%82%B5)、
と、「露」と関わらせる説が多いが、
月草、
の由来は、
月影を浴びて咲くところから月草の義(万葉集抄・古今集注・和訓栞)、
花、朝開き、昼に萎む、碧色にして、採りて衣に摺る、善く染み着けば着草(つきくさ)と云ふ、月影に開けば月草と云ふと云ふは、非なり(大言海)、
臼でついて染料にしたからいう(広辞苑)、
衣に摺るとよく染み着くところから着草の義(冠辞考続貂・箋注和名抄・言元梯・名言通)、
等々とあるが、上代特殊仮名遣いでいうと、
「つきくさ」のキは乙類、
「月草」のキは乙類、
「着草」のキは甲類、
であり、「着草」には妥当性はない(日本語源大辞典)とある。
なお、襲(かさね)の色目でいう、
月草、
は、
表は縹(はなだ)、裏は舂縹または表に同じ、
で、秋に用いるという(広辞苑・デジタル大辞泉)。
また、枕詞の、
月草の、
は、
つき草の假(か)れる命にある人をいかに知りてか後もあはむといふ(万葉集)、
百(もも)に千(ち)に人はいふともつき草の移ろふこころ吾(われ)持ためやも (万葉集)、
と、
月草の花で染めたものは色がおちやすい、
ので、
「うつる」「け(消)ぬ」「かり(仮)」などにかかる(広辞苑)。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95