2024年07月20日

琪樹


琪樹西風枕簟秋(琪樹(きじゅ)の西風(せいふう) 枕簟(ちんてん)秋なり)
楚雲湘水憶同遊(楚雲(そうん) 湘水(しょうすい) 同遊(どうゆう)を憶(おも)う)
高歌一曲掩明鏡(高歌(こうか)一曲 明鏡(めいきょう)を掩(おお)う)
昨日少年今白頭(昨日(さくじつ)の少年 今は白頭(はくとう))(許渾・秋思)

の、

枕簟(ちんてん)、

は、

簟(てん)は竹を編んで作ったむしろ、夏にはこれを敷いて、その上に寝る。楚の地方では、ことに多く産したらしい。枕とあわせて、寝具を意味する、

とある(前野直彬注解『唐詩選』)。

琪樹(きじゅ)、

は、

崑崙山の北に生えると伝えられる、玉のなる木、

である(仝上)。ここでは、

庭前の樹木を、美しく言ったもの、

と注釈がある(仝上)。

琪樹、

の、

琪、

は、

玉(ぎょく)の名、

で、

琪樹、

は、

寶林寺有琪樹、在法堂前、即本草之南天燭(六朝事迹)、

と、

南天、

を指すらしいが、

珠樹、
玉樹、

に同じとあり(字源・https://kanbun.info/syubu/toushisen438.html)、

東方之美者、有醫無閭之珣玕琪焉(中国最古の字書『爾雅』(秦・漢初頃)・釋地)、

とあり(字源)、

建木滅景於千尋(建木(けんぼく)景(かげ)を千尋(せんじん)に滅めし)
琪樹璀璨而垂珠(琪樹(きじゅ)璀璨(さいさん)として珠(たま)を垂る)(孫綽・遊天台山賦)

と詠われる(https://kanbun.info/syubu/toushisen438.html)

「琪」.gif


「琪」(漢音キ、呉音ゴ)は、

会意兼形声。「玉+音符其(キ 四角い)、

とあり(漢字源)、

四角い玉、
形の整った玉、

の意である(仝上)。

珠樹玲瓏隔翠微(珠樹(しゅじゅ)玲瓏(れいろう)として翠微(すいび)を隔(へだ)つ)
病來方外事多違(病来(びょうらい) 方外(ほうがい) 事(こと)多く違(たが)えり)
仙山不屬分符客(仙山(せんざん)属せず 符(ふ)を分(わか)の客)
一任凌空錫杖飛(一えに任(まか)す 空(くう)を凌(しの)いで錫杖(しゃくじょう)の飛ぶに)(柳宗元・浩初上人見貽絶句欲登仙人山因以酬之)

の、

珠樹(しゅじゅ)、

も同義で、

中国の南にあるといわれる伝説的な木、

を指し、

葉はすべて真珠だという、

とある(前野直彬注解『唐詩選』)。『淮南子』墬形訓に、

闔四海之內、東西二萬八千里、南北二萬六千里、水道八千里、通穀其名川六百、陸徑三千里。禹乃使太章步自東極、至於西極、二億三萬三千五百里七十五步。使豎亥步自北極、至於南極、二億三萬三千五百里七十五步。凡鴻水淵藪、自三百仞以上、二億三萬三千五百五十裏、有九淵。禹乃以息土填洪水以為名山、掘昆侖虛以下地、中有增城九重、其高萬一千里百一十四步二尺六寸。上有木禾、其修五尋、珠樹、玉樹、琁樹、不死樹在其西、沙棠、琅玕在其東、絳樹在其南、碧樹、瑤樹在其北。旁有四百四十門、門間四裏、里間九純、純丈五尺。旁有九井玉橫、維其西北之隅、北門開以內不周之風、傾宮、旋室、縣圃、涼風、樊桐在昆侖閶闔之中、是其疏圃。疏圃之池、浸之黃水、黃水三周複其原、是謂丹水、飲之不死。河水出昆侖東北陬、貫渤海、入禹所導積石山、赤水出其東南陬、西南注南海丹澤之東。赤水之東、弱水出自窮石、至於合黎、餘波入於流沙、絕流沙南至南海。洋水出其西北陬、入於南海羽民之南。凡四水者、帝之神泉、以和百藥、以潤萬物。

(https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%B7%AE%E5%8D%97%E5%AD%90/%E5%A2%9C%E5%BD%A2%E8%A8%93)

禹乃以息土塡洪水、以爲名山、掘崑崙虛、以下地。中有增城九重。……珠樹、玉樹、琁樹、不死樹、在其西(禹乃ち息土を以て洪水を塡(うず)めて、以て名山と為し、崑崙の虚を掘りて、以て地に下す。中に増城の九重なる有り。……珠樹・玉樹・琁樹(せんじゅ)・不死樹、其の西に在り)、

とあるhttps://kanbun.info/syubu/toushisen427.html

なお、崑崙山は、

中国の古代信仰では、

神霊は聖山によって天にのぼる、

と信じられ、崑崙山は最も神聖な山で、大地の両極にあるとされた(仝上)。中国北魏代の水系に関する地理書『水経(すいけい)』(515年)註に、

山在西北、……高、萬一千里、

とあり、中国古代の地理書『山海経(せんがいきょう)』には、

崑崙……高萬仞、面有九井、以玉為檻、

とあり、その位置は、

瑶水(ようすい)という河の西南へ四百里(山海経)、

とか、

西海の南、流沙(りゅうさ)のほとりにある(大荒西経)、

とか、

貊国(はくこく)の西北にある(海内西経)、

と諸説あり、

その広さは八百里四方あり、高さは一万仞(約1万5千メートル)、

あり、

山の上に木禾(ぼっか)という穀物の仲間の木があり、その高さは五尋(ひろ)、太さは五抱えある。欄干が翡翠(ひすい)で作られた9個の井戸がある。ほかに、9個の門があり、そのうちの一つは「開明門(かいめいもん)」といい、開明獣(かいめいじゅう)が守っている。開明獣は9個の人間の頭を持った虎である。崑崙山の八方には峻厳な岩山があり、英雄である羿(げい)のような人間以外は誰も登ることはできない。また、崑崙山からはここを水源とする赤水(せきすい)、黄河(こうが)、洋水、黒水、弱水(じゃくすい)、青水という河が流れ出ている、

とあるhttp://flamboyant.jp/prcmini/prcplace/prcplace075/prcplace075.html。『淮南子(えなんじ)』(紀元前2世紀)にも、

崑崙山には九重の楼閣があり、その高さはおよそ一万一千里(4千4百万キロ)もある。山の上には木禾があり、西に珠樹(しゅじゅ)、玉樹、琁樹(せんじゅ)、不死樹という木があり、東には沙棠(さとう)、琅玕(ろうかん)、南には絳樹(こうじゅ)、北には碧樹(へきじゅ)、瑶樹(ようじゅ)が生えている。四方の城壁には約1600mおきに幅3mの門が四十ある。門のそばには9つの井戸があり、玉の器が置かれている。崑崙山には天の宮殿に通じる天門があり、その中に県圃(けんぽ)、涼風(りょうふう)、樊桐(はんとう)という山があり、黄水という川がこれらの山を三回巡って水源に戻ってくる。これが丹水(たんすい)で、この水を飲めば不死になる。崑崙山には倍の高さのところに涼風山があり、これに昇ると不死になれる。さらに倍の高さのところに県圃があり、これに登ると風雨を自在に操れる神通力が手に入る。さらにこの倍のところはもはや天帝の住む上天であり、ここまで登ると神になれる、

とある(仝上)。

宋代の『湘山野録』には、

崑崙山産玉、麗水生金、

中国の西方に位置して玉を産し、黄河の源はこの山に発すると考えられた、

とあり(日本大百科全書)、

美麗なる玉(ぎょく)を出すを以て、名あり、崑玉と云ふ、

ともある(大言海)。後漢書・孔融傳では、

與琭玉秋霜、比質可也、

とあり、その、

人格の高尚なる、

のに準えられている(大言海)。

参考文献;
前野直彬注解『唐詩選』(岩波文庫)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:08| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする