2024年07月29日
玉かづら
玉かづら今は絶ゆとや吹く風の音にも人の聞こえざるらむ(古今和歌集)、
の、
かづら、
は、
蔓草の総称、
玉、
は、
美称、
とあり(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)、ここは、
絶ゆ、
にかかる枕詞(仝上)。
谷狭(せば)み峯に延(は)ひたる多麻可豆良(タマカヅラ)絶えむの心我がもはなくに(万葉集)
と、
たまかづら、
は、
玉葛、
玉蔓、
と当て(岩波古語辞典・デジタル大辞泉)、「たま」は美称で、
かづら、
は、
蔓草類の総称(岩波古語辞典)、
つる性の植物の総称(精選版日本国語大辞典)、
で、
ヒカゲノカズラ、
ヘクソカズラ、
ビナンカズラ、
等々の、
特定の植物をさす、
とする説もあるが、確証はない(仝上)とある。「ヒカゲノカズラ」については「さがりごけ」で触れた。
また、
たまかづら、
は、枕詞として、つる草のかずらの意で、つるがどこまでも延びてゆくところから、
玉葛(たまかづら)いや遠長く祖(おや)の名も継ぎゆくものと母父(おもちち)に妻に子どもに語らひて(万葉集)、
と、
長し、
いや遠長く、
などにかかり、
つがの木のいや継ぎ継ぎに玉葛(たまかづら)絶ゆることなくありつつもやまず通はむ(万葉集)、
と、
絶えず、
絶ゆ、
にかかり、延びる意の延(は)うの意で、
玉かづらはふ木あまたになりぬれば絶えぬ心のうれしげもなし(古今和歌集)、
と、「延ふ」と同音の、
這(は)ふ、
などにかかる(精選版日本国語大辞典)。
たまかづら、
は、
玉鬘、
と当てると、
根使主(ねのおむ)の着せる玉縵(たまカツラ)、大(はなは)た貴(けやか)にして最好(いとうるわ)し(日本書紀)、
と、
装身具、
の意で、蔓草を頭に巻いたところから、
多くの玉を緒に通し、頭にかけて垂れた髪飾り、
を言い(岩波古語辞典)、のちに、
御ぐしのめでたかりしはまたあらむやとて、とりに奉りたまへりければ、からもなくなりにし君がたまかつらかけもやするとおきつつもみむ(「斎宮女御集(985頃)」)、
と、
美しいかつら、またはかもじの美称、
や、
ありし昔の玉かづら色つくれる面影常にかはり(浮世草子「世間娘容気(1717)」)、
と、
女性の美しい髪のたとえ、
にいう(精選版日本国語大辞典)。
また、枕詞として、つる草の一つ、「ひかげのかずら」を「かずら」とも「かげ」ともいうところから、
人はよし思ひやむとも玉蘰(たまかづら)影に見えつつ忘らえぬかも(万葉集)、
と、
「かげ」と同音、または同音を含む「影」「面影」にかかる(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。
「葛」(漢音カツ、呉音カチ)は、「葛の葉」で触れたように、
会意兼形声。「艸+音符曷(カツ 水分がない、かわく)」。茎がかわいてつる状をなし、切っても汁が出ない植物、
とある(漢字源)。「くず」の意である。また、
会意兼形声文字です(艸+曷)。「並び生えた草」の象形と「口と呼気の象形と死者の前で人が死者のよみがえる事を請い求める象形」(「祈りの言葉を言って、幸福を求める、高く上げる」の意味)から、木などにからみついて高く伸びていく草「くず」、「草・木のつる」を意味する「葛」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji2110.html)が、
かつて「会意形声文字」と解釈する説があったが、根拠のない憶測に基づく誤った分析である、
とあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%91%9B)、
形声。「艸」+音符「曷 /*KAT/」(仝上)、
形声。艸と、音符曷(カツ)とから成る(角川新字源)、
とする説がある。
「鬘」(慣用マン、漢音バン、呉音メン)は、
会意兼形声。「髟(かみの毛)+音符曼(かぶせてたらす)」、
とあり(漢字源)、「髪がふさふさと垂れさがるさま」「インドふうの、花を連ねて首や体を飾る飾り」(仝上)の意である。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95