2024年07月30日

まだき


わが袖にまだき時雨のふりぬるは君が心にあきや來ぬらむ(古今和歌集)、
あかなくにまだきも月の隠るるか山の端(は)逃げて入れずもあらなむ(仝上)、

の、

まだき、

は、

まだその時期ではないのに、
はやくも、

の意(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)とある。

まだき、

は、

夙、
豫、

と当て(広辞苑・大言海)、

ある時点を想定して、それに十分には達していない時期・時点、

を指し、

まだその時期にならないうち、
早くから、
もう、

の意味で使い(広辞苑・日本語源大辞典・岩波古語辞典)、

単独で、または「に」を伴って、

早くも、
早々と、

の意で副詞的に用いることが多い(精選版日本国語大辞典・日本語源大辞典)。

室町時代編纂のいろは引きの国語辞典『運歩色葉集(うんぽいろはしゅう)』には、

速、マダキ、

とある。この語源は、

マダ(未)・マダシ(未)と同根か(岩波古語辞典)、
「未(ま)だし」と関連ある語か(デジタル大辞泉)、
「まだし(未)」のク活用形を想定し、その連体形から転成した語(角川古語大辞典・精選版日本国語大辞典)、
マダキは、急ぐの意の、マダク(噪急)の連用形(大言海)、
イマダシキ(未如)の義(名言通)、
イマダハヤキの義(日本釈名)、

等々あるが、

朝まだき

という場合は、

夜明けを基点として、まだそこに至らないのに、既にうっすらと明けてきた、

という含意のように見受けられる。

朝+マダキ(まだその時期が来ないうちに)、

で(日本語源広辞典)、

未明を指す、

とあるので、極端に言うと、まだ日が昇ってこないうちに、早々と明るくなってきた、というニュアンスになる。

まだき、

と同根ともされる、

まだし

は、

未だし、

と当て、

まだその期に達しない、

意から、転じて、

なからまではあそばしたなるを末なんまだしきと宣(のたま)ふなる(蜻蛉日記)、

と、

まだ整わない、
まだ十分でない、

意で使い(広辞苑)、

琴・笛など習ふ、またさこそは、まだしきほどは、これがやうにいつしかとおぼゆらめ(枕草子)、

と、

未熟である、

意や(学研全訳古語辞典)、

この君はまだしきに、世の覚えいと過ぎて(源氏物語)、

と、

年齢などが十分でない、
幼い、

意となる(岩波古語辞典)。こうした用例から見ると、この由来は、

いまだし(未)の上略、待たしきの義(大言海)、
副詞まだ(未)の形容詞形(岩波古語辞典・角川古語辞典)、
副詞「いまだ」の形容詞化(デジタル大辞泉)、

などとあり、

未だ→まだ→まだし、

と転化した(日本語の語源)と見ていいのではないか。

「夙」.gif


「夙」(漢音シュク、呉音スク)は、「夙に」で触れたように、

会意。もと「月+両手で働くしるし」で、月の出る夜もいそいで夜なべすることを示す、

とあり(漢字源)、「夙昔(シュクセキ)」と「昔から」の意、「夙興夜寝、朝夕臨政」と、「朝早く」の意である(仝上)。別に、

会意文字です(月+丮)。「欠けた月」の象形(「欠けた月」の意味)と「人が両手で物を持つ」象形(「手に取る」の意味)から、月の残る、夜のまだ明けやらぬうちから仕事に手をつけるさまを表し、そこから、「早朝から慎み仕事をする」、「早朝」を意味する「夙」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2302.html

「豫」.gif

(「豫」 https://kakijun.jp/page/yo16200.htmlより)


「予」.gif

(「予」 https://kakijun.jp/page/0439200.htmlより)

「豫(予)」(漢音・呉音ヨ)は、「予」は、

象形。まるい輪をずらせて向うへ押しやるさまを描いたもので、押しやる、伸ばす、のびやかなどの意を含む。杼(ジョ 横糸を押しやる織機の杼(ひ))の原字と考えてもよい。豫・預・野(ヤ 広く伸びた原や畑)・舒(ジョ 伸ばす)・抒(ジョ 伸ばす)などの音符となる。代名詞(予(われ))に当てたのは仮借である、

「豫」は、

会意兼形声。「象(ゾウ のんびりしたものの代表)+音符予(ヨ)」で、のんびりとゆとりをもつこと、

とある(漢字源)。別に、「予」は、

象形。機(はた)の横糸を通す杼(ひ)の形にかたどる。「杼(チヨ)」の原字。杼を横に押しやることから、ひいて「あたえる」意を表す。借りて、自称の代名詞に用いる、

「豫」は、

形声。意符象(ぞう)と、音符予(ヨ)とから成る。原義は、大きな象。借りて、まえもって準備する意に用いる、

とも(角川新字源)、

「予」は、

象形文字です。「機織りの横糸を自由に走らせ通すための道具」の象形から、「のびやか、ゆるやか」を意味する「予」という漢字が成り立ちました。また、「こちらから向こうへ糸をおしやる事から、「あたえる」の意味も表すようになりました、

「豫」は、

会意兼形声文字です(予+象)。「機織りの横糸を自由に走らせ通す為の道具」の象形(「伸びやか」の意味)と「(ゆっくり行動する動物)象」の象形から「伸びやかに・ゆっくりと楽しむ」、「あらかじめ」、「ゆとりをもって備える」を意味する「豫」という漢字が成り立ちました、

ともhttps://okjiten.jp/kanji546.htmlあり、いずれも、「予」と「豫」の由来を別とし、「予」が先行と見ている。

参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:29| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする