いとなし

あはれともうしともものを思ふときなどか涙のいとなかるらむ(古今和歌集)、 の、 いとなかる、 は、 暇(いと)なしの連体形「いとなかる」と「流る」の掛詞、 とし、 いと、 が、 「流る」を修飾するという説はとらない、 とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)のは、 いと、 を、 いと+流る、 と見て、 たいそ…

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われから

海人(あま)の刈る藻にすむ虫のわれからと音をこそなかめ世をばうらみじ(古今和歌集)、 の、 われから、 は、 海藻などに棲みつく小さな節足動物、 とあり、 我から、 を掛ける(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。 沖つ波うつ寄するいほりしてゆくへさだめぬわれからぞこは(古今和歌集)、 の、 われから、 も、 虫の名の「割殻…

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しながどり

しなが鳥猪名(ゐな)野をゆけば有馬山ゆふ霧立ちぬ宿はなくして(新古今和歌集)、 の、 しなが鳥、 は、 猪名(ゐな)にかかる枕詞、 とあり、 猪名野、 は、 摂津國の枕詞、現在の兵庫県伊丹市を中心に、川西市・尼崎市にまたがる猪名川流域の地、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。この原歌は、萬葉集の、 しなが鳥猪名野を来れば有馬山…

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伊勢の浜荻

神風の伊勢の浜荻折り伏せて旅寝やすらむ荒き浜辺に(読人しらず) の、 伊勢の浜荻、 は、 蘆に同じとされる、 とあり(新古今和歌集)、 浜に生える荻とする説もある、 とある(仝上)。原歌は、萬葉集の、 碁檀越(ごだんおち)が伊勢の国に行ったときに、留守をしていた妻が作った歌(碁檀越徃伊勢國時留妻作歌一首)、 神風之伊勢乃濱荻折伏客宿也将為…

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帚木(ははきぎ)

園原(そのはら)や伏屋(ふせや)に生(お)うる帚木(ははきぎ)のありとは見えて逢はぬ君かも(新古今和歌集)、 の、 帚木、 は、 遠くから森の中に帚のような梢が見えるが、近付くと森の他の木々にまぎれて見えなくなるという、伝説の木、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 園原や伏屋、 は、 信濃國の枕詞、 であり(仝上)、上記伝説の木は…

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がに

泣く涙雨と降らなむ渡り川水まさりなば帰りくるがに(古今和歌集)、 の、 渡り川、 は、 三途の川(三つ瀬の川)、 を指し、 がに、 は、 命令や願望の表現をうけて、理由や目的を表す、 とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。 がに、 は、 上代の終助詞「がね」から(大辞林)、 一説に「がね」の方言的転化という(広辞苑…

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はつか

跡をだに草のはつかに見てしかな結ぶばかりのほどならずとも(新古今和歌集)、 の、 はつか、 は、 僅か、 と当て、 わずか、 いささか、 の意とある(広辞苑)。 はつか、 の、 はつ、 は、 ハツ(初)と同根(岩波古語辞典)、 「はつはつ」と同語源で、「か」は接尾語(精選版日本国語大辞典)、 とあるが、 …

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空おぼれ

さみだれは空おぼれするほととぎす時に鳴く音は人も咎めず(新古今和歌集)、 の、 空おぼれ、 は、 空とぼけること、 とあり、 さみだれの縁語、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 空おぼれ、 は、 物などいふ若きおもとの侍を、そらおぼれしてなむかくれまかりありく(源氏物語)、 と、 わざととぼけたさまをよそおうこと…

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諒闇

水のおもにしづく花の色さやかにも君が御影の思ほゆるかな(新古今和歌集)、 の、 詞書に、 諒闇の年、池のほとりの花を見てよめる、 とある、 諒闇、 は、 天皇が父母の喪に服すこと、または、天皇の崩御による国全体の喪、 とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。なお、歌の、 しづく、 は、 沈く、 と当て、 水の底に…

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うちつけに

うちつけにさびしくもあるかもみぢ葉も主(ぬし)なき宿は色なかりけり(古今和歌集)、 の、 うちつけに、 は、 急に、 の意とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。 うちつけ、 は、 打付け、 と当て、 吹く風になびく尾花をうちつけに招く袖かとたのみけるかな(貫之集)、 と、 副詞として、 うちつけに、 と、…

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常陸帯

東路の道のはてなる常陸帯(ひたちおび)のかことばかりも逢はむとぞ思ふ(新古今和歌集)、 の、 常陸帯、 は、 常陸國鹿島神宮の祭礼で、男女の縁結びの占(うら)に用いられる帯、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 かこと、 は、 帯を締めて留める金具の「かこ」と、申し訳・口実の「かこと」の掛詞、 である(仝上)。 (「常陸鹿…

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久米路の橋

いかにせむ久米路(くめぢ)の橋の中空に渡しもはてぬ身とやなりなむ(新古今和歌集)、 の、 久米路の橋、 は、 葛城の久米の岩橋、 久米の岩橋、 ともいい、 葛城山の東、高市郡に、久米郷、久米川あり、 とあり(大言海)、 大和国の歌枕、 で、 役(えん)の行者が葛城山の一言主神(ひとことぬしのかみ)に命じて、葛城山と吉野の金峰山(き…

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曹司

君が植ゑし一(ひと)むらすすき蟲の音のしげき野辺ともなりにけるかな(古今和歌集)、 の詞書に、 藤原利基朝臣の右近中将にてすみはべりける曹司(ざうし)の、身まかりてのち、人も住まずなりけるに、……、 とある、 曹司(ざうし)、 は、 そうじ、 とも訓ませ、 与えられた部屋、 とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。 貴人の子弟は、…

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たく縄

うちはへて苦しきものは人目のみしのぶの浦の海人のたく縄(新古今和歌集)、 の、 たく縄、 は、 楮(こうぞ)の樹皮で作った縄、 をいう(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 うちはへて、 は、 長く、 引き続いて、 の意で、 たく縄の縁語、 とあり、 苦しき、 は、 たく縄の縁語「繰る」を掛ける、 とある…

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引折(ひきをり)

ためしあればながめはそれと知りながらおぼつかなきは心なりけり(新古今和歌集)、 の、 ためし、 は、在原業平 が、女車に対して、 見ずもあらず見もせぬ人の恋しくはあやなくけふやながめくらさむ(古今集・伊勢物語・大和物語)、 と詠み入れた例をさす(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 冒頭の歌の詞書に、 前大納言隆房中将に侍りける時、右近馬場の引折(ひきを…

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たむけ草

逢ふことをけふ松が枝のたむけ草幾夜しをるる袖とかは知る(新古今和歌集)、 の、 たむけ草、 は、 幣帛、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 たむけ草、 は、 手向草、 とあて、 たむけぐさ、 たむけくさ、 と訓ませ、 くさ、 は、 種、料、 で(精選版日本国語大辞典)、 手向けにする品物…

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倭文機(しづはた)

蘆の屋のしづはた帯のかた結び心やすくもうちとくるかな(新古今和歌集)、 の、 しづはた帯、 は、奈良時代は、 しつはた、 で、 倭文(しつ 古くからの日本の織物)で織った帯、 の意(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 古(いにしへ)の倭文機帯を結び垂れ誰といふ人も君にはまさじ(万葉集)、 という歌があり、ここではこの語にそのような帯をしてい…

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鴫(しぎ)の羽掻(はがき)

心からしばしとつつむものからに鴫 の羽搔きつらき今朝かな(赤染衛門) の、 鴫の羽搔き、 は、 鴫が羽ばたく音、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)が、 鴫の羽掻、 は、 鴫がしばしば嘴で羽をしごくこと、 ともあり(広辞苑)、 物事の回数の多いことのたとえ、 として使われる(仝上)とある。 鴫の羽掻、 には、 …

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門(と)

わが上に露ぞ置くなる天の川門(と)渡る舟の櫂(かい)のしづくか(古今和歌集)、 の、 と、 は、 川や海が陸地に狭められて細くなっている所、 とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。 と、 は、 戸、 門、 と当て、 ノミト(喉)・セト(瀬戸)・ミナト(港)のトに同じ、両側から迫っている狭い通路、また入口を狭くし、ふさいで内と外…

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方違へ

蝉の羽の夜の衣は薄けれど移り香濃くもにほひぬるかな(古今和歌集)、 の詞書(ことばがき) に、 方違へに人の家にまかれりける時に、主の衣を着せたりけるを、あしたに返すとてよみける、 の、 方違(かたたが)へ、 は、 陰陽道による方角の禁忌、 で、 外出時に、天一神(なかがみ)の巡行の方角とぶつからないよう、人の家に泊まり方角を変えてから出…

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