2024年08月05日
帚木(ははきぎ)
園原(そのはら)や伏屋(ふせや)に生(お)うる帚木(ははきぎ)のありとは見えて逢はぬ君かも(新古今和歌集)、
の、
帚木、
は、
遠くから森の中に帚のような梢が見えるが、近付くと森の他の木々にまぎれて見えなくなるという、伝説の木、
とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。
園原や伏屋、
は、
信濃國の枕詞、
であり(仝上)、上記伝説の木は、
信濃国(長野県)園原、
にあるとされた(精選版日本国語大辞典)。
帚木、
は、
ははきぎ、
と訓ませるが、
はわきぎ、
と訓ませた時代もあり(仝上)、
ははきぎをまたすみがまにこりくべてたえしけぶりのそらにたつなは(「元良親王集(943頃)」)、
と、
ほうきぎ(箒木)、
つまり、
ホウキグサ(帚草)、
に同じ(大言海・仝上)とある。また、冒頭の歌のように、
信濃国(長野県)園原(そのはら)にあって、遠くからはほうきを立てたように見えるが近寄ると見えなくなるという伝説上の樹木、
の意でもあり、転じて、
情けがあるように見えて、実のないこと、
姿は見えるのに会えないこと、
また、
見え隠れすること、
等々のたとえとして使われる(仝上)。
また、語頭の二音が同じところから
大后の宮、天の下に三笠山と戴かれ給ひ、日の本には、ははきぎと立ち栄えおはしましてより(「栄花物語(1028~92頃)」)、
と、
母の意にかけていう、
とある(仝上)。
ホウキギ、
については「玉箒(たまはばき)」で触れたように、
玉箒、
は、
玉箒刈り来(こ)鎌麻呂(かままろ)室(むろ)の樹と棗(なつめ)が本(もと)とかきは(掃)かむため(万葉集)、
と、
ゴウヤボウキ、
または、
ホウキグサ、
の古名であり、
ホウキグサ、
は、
ほうきぎ(箒木)、
といい、古名、
ハハキギ、
で、
アカザ科の一年草、中国原産。茎は直立して高さ約1メートルとなり、下部から著しく分枝し、枝は開出する。これで草箒(くさぼうき)をつくるのでホウキギの名がある。葉は互生し、倒披針(とうひしん)形または狭披針形で長さ2~4.5センチメートル、幅3~7センチメートル、基部はしだいに狭まり、3脈が目だち、両面に褐色の絹毛がある。雌雄同株。10~11月、葉腋(ようえき)に淡緑色で無柄の花を1~3個束生し、大きな円錐(えんすい)花序をつくる。花被(かひ)は扁球(へんきゅう)形の壺(つぼ)状で5裂し、裂片は三角形、果実期には、花被片の背部に各1個の水平な翼ができて星形となる。種子は扁平(へんぺい)な広卵形で、長さ1.5ミリメートル、
とある(日本大百科全書)。
なお、「ほうき」については触れた。
「帚」(慣用ソウ、漢音シュウ、呉音ス)は、「玉箒(たまはばき)」で触れたように、
象形、柄つきのほうきうを描いたもので、巾(ぬの)には関係がない。巾印は柄の部分が変形したもの。掃(ソウ はく)・婦(ほうきをもつ嫁)の字の右側に含まれる、
とある(漢字源)。「箒」(慣用ソウ、漢音シュウ、呉音ス)は、帚の異体字である。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95