2024年08月06日
がに
泣く涙雨と降らなむ渡り川水まさりなば帰りくるがに(古今和歌集)、
の、
渡り川、
は、
三途の川(三つ瀬の川)、
を指し、
がに、
は、
命令や願望の表現をうけて、理由や目的を表す、
とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
がに、
は、
上代の終助詞「がね」から(大辞林)、
一説に「がね」の方言的転化という(広辞苑)、
などとあり、
おもしろき野をばな焼きそ古草に新草(にいくさ)まじり生ひは生ふる我爾(ガニ)(万葉集)、
と、
「がね」の上代東国方言、
であるらしい。平安時代には、都でも使われた(岩波古語辞典)とある。
動詞・助動詞の連体形に付き、願望・命令・禁止などを表す文と共に使われ、その理由・目的、
を表し、
…するだろうから、
…するように、
の意で使われる(広辞苑)。
がね、
は、
ますらをは名をし立つべし後の世に聞き継ぐ人も語り継ぐがね(万葉集)、
と、動詞の連体形に付き、
願望・命令・意志などの表現を受けて、目的・理由、
を表し、
之根(ガネ)の義、云々せしむ、其れが根本と云ふ意より転じて、其れが為にの意となる、
とあり(大言海)、
…するように、
…するために、
…の料であるから、
の意で使われる(デジタル大辞泉・岩波古語辞典)。
将来に対する判断・意志決定の根拠を示す、
とあり(岩波古語辞典)、
梅の花我は散らじあをによし奈良なる人の来つつみるがね(万葉集)、
と、
二つの文があって、はじめの文の終わりに表明された意志・命令の、理由・目的を示すために、後の文の文末に置かれる、
とある(岩波古語辞典)。中古以降の、
がに、
は、この上代の「がね」を母胎として、ほぼその意味・用法を継承しているが、それはさらに、
ゆふぐれのまがきは山と見えななむ夜はこえじと宿りとるべく(古今和歌集)、
のような同様の表現効果を持つ、「べし」の連用止めの用法にとって代わられるようになり、中世以降は擬古的な用例に限られる(精選版日本国語大辞典)とある。
なお、
がに、
には、いまひとつ、
之似(ガニ)の義、何々に似るばかりに、
の意とする(大言海)、連体形接続の、
がに、
とは意味・用法が異なる、
わが屋戸(ヤド)の夕影草の白露の消(ケ)ぬがにもとな思ほゆるかも(万葉集)、
秋田苅る借廬もいまだ壊(コホ)たねば雁が音寒し霜も置きぬがに(万葉集)、
と使われる、
終止形接続の助詞、
があり、
自然に推移する意の自動詞や、自然にそうなってしまう意の助動詞「ぬ」、
を承けることが多く、
ぬがに、
の形をとる(広辞苑・デジタル大辞泉・岩波古語辞典)。
疑問の助詞「か」と格助詞「に」との結合、
とされ(岩波古語辞典・仝上)、下の動作の程度を様態的に述べるのに用いられる。
…せんばかりに、
…するかのように、
…しそうに、
等々の意で使われる(仝上)。
がね、
が、
中古以降は、終止形接続の副助詞「がに」を吸収する形で連体形接続の「がに」に変化する、
とある(精選版日本国語大辞典)が、中古以降の「がに」は、上代の「がね」の語義・用法をほぼそのまま受け継いでいる(仝上)ともある。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95