2024年08月09日

諒闇


水のおもにしづく花の色さやかにも君が御影の思ほゆるかな(新古今和歌集)、

の、

詞書に、

諒闇の年、池のほとりの花を見てよめる、

とある、

諒闇、

は、

天皇が父母の喪に服すこと、または、天皇の崩御による国全体の喪、

とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。なお、歌の、

しづく、

は、

沈く、

と当て、

水の底に沈み着くこと、

とある(岩波古語辞典)。

諒闇、

は、

ロウアン、
リョウアン、

と訓ませ(漢音リョウ、呉音ロウ)、

高宗諒闇三年不言、善之也(禮記・喪服篇)
高宗諒陰三年不言、何謂也(論語・憲問篇)、
諒闇既終(後漢書)、

等々、

諒陰、

ともいい、

亮闇、
亮陰、
涼陰、
梁闇、

等々とも当て(大言海・漢辞海)、

天子喪に在るの室、又、其の喪に在る閒の稱、

とあり(字源)、

天子が父母の藻に服したまふ期閒、

をいい(大言海)、

諒は信、闇は黙の義(字源・大言海)、
「諒」はまこと、「闇」は謹慎の意、「陰」はもだすと訓じ、沈黙を守る意(デジタル大辞泉)、
まことに暗しの意(広辞苑)、
「諒」はまこと、「闇」は謹慎の意、「陰」は「もだす」と訓じ、沈黙を守る意。一説に、「梁闇」の二字と同じで、むねとする木に草をかけたもので、喪中に住む小屋の意(精選版日本国語大辞典)、

などとあり、

物言わざること、謹慎の意、

である(大言海)。

中国に倣い、日本でも、

以諒闇(みおもひ)之際、盛福自由(綏靖即位前紀)、

と、

みおもひ、
みおものおもひ、
みあがりのほど、

などと呼び(大言海)、

倚盧(いろ 諒闇の期間天子が籠る仮の屋)にますこと十三日、心喪に服せらるるは一年、又、天子の御忌中、上下四民(士農工商)も心喪に服するものなり、

とある(仝上)。

諒闇、

の以上の由来から、転じて、

大神、岩戸を閉ぢさせ給て、世海、国土、常闇となて、りゃうあんなりしに、思はずに明白となる切心は(「拾玉得花(1428)」)、

と、

ひじょうに暗い、

意で使ったりする(精選版日本国語大辞典)。

「諒」.gif



「諒」 『説文解字』.png

(「諒」 『説文解字』(後漢)  https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%AB%92より)

「諒」(漢音リョウ、呉音ロウ)は、

会意兼形声。「言+音符京(キョウ・リョウ=亮 あきらか)」。明らかに物を言う、転じてはっきりわかること、

とある(漢字源)。「亮」と同義で、「まこと」「偽りのない真実」「明白なこと」の意、「諒(=了)承」「諒(=了)解」と、是認する意、転じてあっさり認めること意である(仝上)。

しかし、

形声。「言」+音符「京 /*RANG/」https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%AB%92

形声。言と、音符京(ケイ、キヤウ)→(リヤウ)とから成る。相手の意を思いはかる、転じて「まこと」の意を表す(角川新字源)、

形声文字です(言+京)。「取っ手のある刃物の象形と口の象形」(「(つつし(慎・謹)んで)言う」の意味)と「高い丘の上に建つ家の象形」(「都(みやこ)」の意味だが、ここでは「量(リョウ)」に通じ(「量」と同じ意味を持つようになって)、「量(はか)る」の意味)から「相手の気持ちを量る」、「思いやる」、「まこと」を意味する「諒」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji2740.html

と、他はいずれも、形声文字としている。

「闇」.gif



「闇」 『説文解字』.png

(「闇」 『説文解字』(後漢)  https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%97%87より)

「闇」(漢音アン、呉音オン)は、

会意兼形声。「門+音符音(オン・アン 口をとじて声だけ出す。ふさぐ)」で、入口を閉じて、中を暗くふさぐこと。暗とまったく同じ言葉、

とあり(漢字源)、「門を閉める」意から、「闇夜(=暗夜)」と、「暗い」意である。しかし、

かつて「会意形声文字」と解釈する説があったが、根拠のない憶測に基づく誤った分析である、

とありhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%97%87

形声。「門」+音符「音 /*ɁUM/」。「門をとじる」を意味する漢語{闇 /*ʔuums/}を表す字。のち仮借して「やみ」を意味する漢語{闇 /*ʔuums/}に用いる、

も(仝上)、

形声。門と、音符音(イム)→(アム)とから成る。門を「とじる」意を表す。転じて「くらい」意に用いる、

も(角川新字源)、

形声文字です(門+音)。「左右両開きになる戸」の象形(「門」の意味)と「取っ手のある刃物の象形と口に一点加えた文字」(「音」の意味だが、ここでは、「暗」に通じ(「暗」と同じ意味を持つようになって)、「暗い」の意味)から、「門を閉じて暗くする」、「暗い」、「光がない」を意味する「闇」という漢字が成り立ちました、

https://okjiten.jp/kanji2193.html、いずれも、形声文字とする。

参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:34| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする