水のおもにしづく花の色さやかにも君が御影の思ほゆるかな(新古今和歌集)、
の、
詞書に、
諒闇の年、池のほとりの花を見てよめる、
とある、
諒闇、
は、
天皇が父母の喪に服すこと、または、天皇の崩御による国全体の喪、
とある(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。なお、歌の、
しづく、
は、
沈く、
と当て、
水の底に沈み着くこと、
とある(岩波古語辞典)。
諒闇、
は、
ロウアン、
リョウアン、
と訓ませ(漢音リョウ、呉音ロウ)、
高宗諒闇三年不言、善之也(禮記・喪服篇)
高宗諒陰三年不言、何謂也(論語・憲問篇)、
諒闇既終(後漢書)、
等々、
諒陰、
ともいい、
亮闇、
亮陰、
涼陰、
梁闇、
等々とも当て(大言海・漢辞海)、
天子喪に在るの室、又、其の喪に在る閒の稱、
とあり(字源)、
天子が父母の藻に服したまふ期閒、
をいい(大言海)、
諒は信、闇は黙の義(字源・大言海)、
「諒」はまこと、「闇」は謹慎の意、「陰」はもだすと訓じ、沈黙を守る意(デジタル大辞泉)、
まことに暗しの意(広辞苑)、
「諒」はまこと、「闇」は謹慎の意、「陰」は「もだす」と訓じ、沈黙を守る意。一説に、「梁闇」の二字と同じで、むねとする木に草をかけたもので、喪中に住む小屋の意(精選版日本国語大辞典)、
などとあり、
物言わざること、謹慎の意、
である(大言海)。
中国に倣い、日本でも、
以諒闇(みおもひ)之際、盛福自由(綏靖即位前紀)、
と、
みおもひ、
みおものおもひ、
みあがりのほど、
などと呼び(大言海)、
倚盧(いろ 諒闇の期間天子が籠る仮の屋)にますこと十三日、心喪に服せらるるは一年、又、天子の御忌中、上下四民(士農工商)も心喪に服するものなり、
とある(仝上)。
諒闇、
の以上の由来から、転じて、
大神、岩戸を閉ぢさせ給て、世海、国土、常闇となて、りゃうあんなりしに、思はずに明白となる切心は(「拾玉得花(1428)」)、
と、
ひじょうに暗い、
意で使ったりする(精選版日本国語大辞典)。
(「諒」 『説文解字』(後漢) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%AB%92より)
「諒」(漢音リョウ、呉音ロウ)は、
会意兼形声。「言+音符京(キョウ・リョウ=亮 あきらか)」。明らかに物を言う、転じてはっきりわかること、
とある(漢字源)。「亮」と同義で、「まこと」「偽りのない真実」「明白なこと」の意、「諒(=了)承」「諒(=了)解」と、是認する意、転じてあっさり認めること意である(仝上)。
しかし、
形声。「言」+音符「京 /*RANG/」(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%AB%92)、
形声。言と、音符京(ケイ、キヤウ)→(リヤウ)とから成る。相手の意を思いはかる、転じて「まこと」の意を表す(角川新字源)、
形声文字です(言+京)。「取っ手のある刃物の象形と口の象形」(「(つつし(慎・謹)んで)言う」の意味)と「高い丘の上に建つ家の象形」(「都(みやこ)」の意味だが、ここでは「量(リョウ)」に通じ(「量」と同じ意味を持つようになって)、「量(はか)る」の意味)から「相手の気持ちを量る」、「思いやる」、「まこと」を意味する「諒」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji2740.html)、
と、他はいずれも、形声文字としている。
(「闇」 『説文解字』(後漢) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%97%87より)
「闇」(漢音アン、呉音オン)は、
会意兼形声。「門+音符音(オン・アン 口をとじて声だけ出す。ふさぐ)」で、入口を閉じて、中を暗くふさぐこと。暗とまったく同じ言葉、
とあり(漢字源)、「門を閉める」意から、「闇夜(=暗夜)」と、「暗い」意である。しかし、
かつて「会意形声文字」と解釈する説があったが、根拠のない憶測に基づく誤った分析である、
とあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%97%87)、
形声。「門」+音符「音 /*ɁUM/」。「門をとじる」を意味する漢語{闇 /*ʔuums/}を表す字。のち仮借して「やみ」を意味する漢語{闇 /*ʔuums/}に用いる、
も(仝上)、
形声。門と、音符音(イム)→(アム)とから成る。門を「とじる」意を表す。転じて「くらい」意に用いる、
も(角川新字源)、
形声文字です(門+音)。「左右両開きになる戸」の象形(「門」の意味)と「取っ手のある刃物の象形と口に一点加えた文字」(「音」の意味だが、ここでは、「暗」に通じ(「暗」と同じ意味を持つようになって)、「暗い」の意味)から、「門を閉じて暗くする」、「暗い」、「光がない」を意味する「闇」という漢字が成り立ちました、
も(https://okjiten.jp/kanji2193.html)、いずれも、形声文字とする。
参考文献;
高田祐彦訳注『新版古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95